24-2 卒業式
卒業式は粛々と執り行われた。
体育館には、
卒業生と先生、保護者が参列していた。
出席番号、1番の生徒が舞台に上がり、
代表で卒業証書を授与した。
式歌斉唱のピアノが響いた。
女子生徒のかぼそい泣き声が聞こえてくる。
卒業生の歌声のなか、
ぼくは辺りを見回し、彼女を探した。
すぐに見つけた。
立ちならぶ生徒の合間、
今井が、ひときわ光っている感じがした。
凛々しく伸びた背すじに、
ちいさな唇をわずかに動かしている。
しかしなぜか、たたずまいが異質だった。
スマートフォンを胸に抱いて、
人形のように冷質に泣いていた。
そして、祈るように歌う一心な態度が、
神気にみちていた。
卒業式は閉幕した。
教室に戻ると、クラスメイトの歓声があがった。
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【卒業おめでとうございます 3月10日】
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黒板に、大きな文字と美しい絵があった。
グラウンドから眺める一本桜に、
校舎と青空が一面に描かれている。
消すのがはばかられる黒板アートで、
下級生が贈ってくれたそうだ。
担任がきて、
卒業証書を手渡し、お祝いと説教をくれた。
卒業アルバムは、
夏に郵送で配布されるとのこと。
終礼が終わると、教室は解放感でどよめいた。
高校生活が終了したのだ。
ぼくは友人にあいさつをして、
三年A組の教室を出た。
図書室はいつになく寡黙だった。
利用者はなく、
図書委員が黙々と本の整頓をしている。
はやる気持ちを抑え椅子に座った。
2階の窓から校庭を見下ろした。
卒業生が卒業証書の筒を持ち、
なごり惜しそうに帰って行く。
ぼくは今井を待った。
朝の登校時に、図書室で会おうと約束した。
今井は必ず来る。
キーン コーン カーン コーン
キーン コーン カーン コーン─ ─ … …
正午のチャイム。
卒業式が終わり1時間が経っても、
今井は来ない。
F組の終礼が長引いていると予想した。
頬杖をつきながら、
となりの席との仕切り板をながめた。
二年生のとき、
彼女とテスト勉強をしていたことを思い出した。
ブルッ。ブルッ。
スマートフォンの振動。
すぐさま画面を確認した。
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今井『上杉くん、ごめんなさい。
急用ができてしまって、
必ず行くから待っててください』
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『了解』と返信した。
急用、とはなんだろう。
何度も考えたが意味がないのでやめた。
式で歌っていた彼女の姿が脳裏をよぎる。
泣いていた。
卒業式だからか、
いや、そんな印象じゃなかった。
何か大変な起こったのか?
一抹の不穏を抱えながらも、待つしかない。
背後の書架を見やる。
夏目漱石『こころ』
目にとまり抜き取り、ぼくは時間をやり過ごした。
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