23-3 初雪
その夜、
今井からメールがきた。
──────────────────
今井『呪われました。呪われました。
あなたは呪われています』
上杉『は?』
今井『は! 上杉さま。
あなたは呪われています』
上杉『今井さん、
あなたの呪いの儀式のせいですよ』
今井『上杉さま。あなたは呪われています』
──────────────────
ふと、ぼくは、
いままで呪われた回数を指折り数えてみた。
──────────────────
上杉『ぼくは今井さんに、
合計8回も呪いをかけられました』
今井『上杉さま。あなたは呪われています』
上杉『はいはい。しっかり聞きます、
それ、どんな呪いですか?』
今井『あなたは、すべての受験に失敗します。
一生、浪人生活を続けます』
上杉『……汗。それもいいアイデアです』
今井『テへペロ。冗談です。
そんなチョロイ呪いではありません。
安心してください』
上杉『安心できません。教えてください』
今井『テへペロ秘密です。秘め事です。
わたしは、冒険で忙しいのです』
上杉『今井さん。
今日、学校の玄関で倒れた時、
記憶喪失は治りませんでしたか?』
今井『治りません。治りません。治らないのです』
上杉『なんか都合の悪いことだけ、
忘れていませんか?』
今井『上杉さま、あなたはだれですか?』
上杉『発現していますよ。中二病が』
今井『いえ。成人病です』
上杉『夜、眠れないのですか?』
今井『眠れません。眠れません。
眠る必要がありません』
上杉『体調管理は大事です。
しっかりと睡眠はとりましょう』
今井『睡眠、いりません。
ここは、仮想現実の地球ですから』
上杉『は?』
今井『は! わたしのアバター
「地球服の今井雪」 眠る必要がありません』
上杉『あなたは今井雪です。
アバターのスノーナウが、
デジタルの偽物です』
今井『逆です。
今井雪が虚構で!
スノーナウが真実です!』
上杉『本当に大丈夫ですか。
何か悩み事があるのですか?』
今井『ありません。ありません。おやすみなさい』
上杉『はい、ゆっくりと休んでください』
今井『はい。ありがとうございます』
──────────────────
ベッドに伏して、ぼくは枕に額をうずめた。
「今井は、VRゲームに夢中になりすぎだ」
ぶつぶつと独りごとがでていた。
しわくちゃの制服を、
ハンガーに掛けなければならない。
過去問の答え合わせをしなければならない。
風呂に入り明日の準備をしなければならない。
取りかかれなかった。
まっ赤にてれた顔。
まごついた仕草。
まつ毛につもる白い雪。
君の断片が現れては、消えて、
消えては、現れる。
君を想うと、ぼくは、
こんなにドキドキして、
こんなにワクワクして、
生きているという実感を感じる。
例えるなら、
止まってしまった心臓が、
蘇生したかのようだった。
スマートフォンの一枚の画像をタッチした。
今井が五月に贈ってくれた、
18輪の、白い花束。
「花の正式な名称、なんて言うんだろう」
検索した。
──────────────────
クローバー clover
クローバーの別名 「シロツメクサ」
「白詰草」
white clover
花言葉 「わたしをおもって」
think of me
「約束」
promise
──────────────────
あきらめようとしたのに。
忘れようとしたのに。
知らぬ間に、
どんどんと想いがふくらみ、はち切れそうだった。
胸がはげしく、疼く。
時間がない。
もうすぐ卒業。高校生活が終わる。
はがゆさのなかで、
スマートフォンをいじっていた。
内申同盟のトップページを見つめていた。
ぼくは、口のなかでつぶやいていた。
──────────────────
【内申同盟】
内申同盟、第二条。
我々は、自分の志を信じて、
恐れずに挑戦する。
──────────────────
ふいに、
去年の出来事が克明に呼び覚まされた。
冬の放課後、
だれもいない廊下、
ぼくに告白してくれた彼女のことを。
高潔な勇気と。美しい泪。
「想いを、つたえないと。
ぼくは、必ず、一生後悔する」
──次は、ぼくの番だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます