21-3 メモリー・スーベニア




 三年生になり、時間のスピードが速く感じた。

 肌寒い雨天が続き、バス通学をしていた。

 バスに揺られながら、ぼくは外を見た。

 窓越しの銀杏は、

 黄緑と黄のグラデーションに彩られ綺麗だった。

 歩道に立ち並ぶ楓は、

 赤く色めき深まる秋を教えてくれる。

 鈍色の空から落ちてくる雨が、なぜか、

 泣いているようにおもえた。



 数日後、

 スノーナウから通信がきた。




──────────────────




 スノーナウ『冒険者ウエスギよ、精進しておるか。

       現在、何階にいるんだ』


 ウエスギ 『二階』


 スノーナウ『よし。とうとう2階まで進行したか。

       現実逃避はやめたのだな』


 ウエスギ 『家の二階、

       自分の部屋で勉強しています』


 スノーナウ『愚か者!

       またまた親指と人差し指の筋トレか! 

       ビンタしてお尻ペンペンじゃ!』


 ウエスギ 『息抜きだよ、攻略したんだ。80階』


 スノーナウ『うむ。無事に帰還したぞ。

       レアアイテムも手に入れた。

       気になるでしょ?』


 ウエスギ 『ならないけど』


 スノーナウ『素直になれよ、上杉賢者。

       なんなら、

       教えてやってもよいぞ……ぞ!』


 ウエスギ 『素直だけど』


 スノーナウ『「ぼくは、

       レアアイテムについて知りたい。

       教えてください」と、

       お願いしてください!』


 ウエスギ 『はいはい。ぼくは、

       レアアイテムについて知りたい。

       教えてください』


 スノーナウ『秘密じゃ……』


 ウエスギ 『やはり君は、暗黒竜王の弟子だろ』


 スノーナウ『フッ、ならば教えたるわい。

       レアアイテム。

       それは、メモリー・スーベニアだ!』


 ウエスギ 『メモリー・スーベニア?

       メモリーは、記憶。

       スーベニアは、贈り物。

       記憶の贈り物、のことか?』


 スノーナウ『さすがに鋭いな、

       器のちっこい賢者よ。

       2階にいるだけのことはある』


 ウエスギ 『自宅の二階。

       で、それで何ができるんだ』


 スノーナウ『なんと! 自分の記憶を、

       他の冒険者に贈ることができる!』


 ウエスギ 『それ、どんな時に使うんだ?』


 スノーナウ『うむ。

       死ぬ瞬間にアイテムを発動して、

       経験値を他の冒険者にわたせる』


 ウエスギ 『ようするに、死んでも、

       積んできた経験値を、

       他者に継承できるというこか。

       便利だな』


 スノーナウ『便器ではない』


 ウエスギ 『はいはい。そうです』


 スノーナウ『プギギギャ─────────ッ!

       A級モンスターだ!』


 ウエスギ 『どんなやつだ?』


 スノーナウ『茶竜。

       茶色い鱗をした、中型の竜だ!』



──────────────────



 スマートフォンのスピーカーから、

 モンスターの遠吠えが聞こえた。

 それに混じって、

「スノーナウ!」と、かすかに聞こえた。

 仲間の冒険者が、スノーナウと呼ぶ声が聞こえた。

 まさか今井の、約束の人の声。

 恋人か。

 声が小さすぎて、

 どんな人物か想像できない。




──────────────────



 スノーナウ『仲間の加勢にいく、

       戦闘モードに切り替え! 

       さらば、ウエスギ賢者よ』



──────────────────





 二週間に一度くらい、

 冒険者スノーナウから、ウエスギへの通信はきた。

 うれしかった。

 残念ながら、今井と上杉ではないけれど。

 二年生の終わりに、切れてしまった、

 ぼくたちを結ぶ糸が、

 わずかに再度つながっていた。



「なぜ、いまさら、ぼくにメールをするのだろう」


 悩んだ。

 友達であり、同志だからか。

 考えても真意がわからない。

 たぶん、

 彼女も自分自身の何かと戦っている。

 ──ぼくと同じように。


 上杉としても、

 氷の魔法剣士、

 スノーナウの武運と幸福を祈りたい。












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