自殺管理法の成立

20-1 自殺管理法の成立

 



 ソメイヨシノが満開だ。

 春風が淡い花びらを中空へちらせた。

 儚くも美しい光景だった。

 季節の花のように、

 幾千の想いも、地上に咲いて、

 塵となり消滅していくのだろう。



 新年度が始まった。

 初日は入学式の手伝いのため7時に登校した。

 新しい制服を着た新入生の姿があった。

 着慣れないブレザーにネクタイを締める男子。

 赤紫色のスカーフを結ぶ、セーラー服の女子。

 玄関口には、クラス分けの表が貼られ、

 あどけない顔つきで各々の名前を探していた。


 第1体育館で入学式は粛々と執り行われた。

 列席する大勢の人々のなか、

 新入生代表の宣誓を聞いた。

 2年前、入学式のとき、

 自分が壇上に立ち、宣誓したことを思いだした。



 三年生になった。

 クラス替えが行われ、

 ぼくは三年A組、小嶋はC組。

 今井はF組だった。

 F組は理数に特化したクラスで、

 吹き抜けの中庭を隔てた北棟にある。

 A組は南棟、棟が離れているためか、

 今井の姿をあまり見かけなくなった



 三年生になり毎日がそこそこ楽しかった。

 クラスメイトとはすぐにうちとけ、

 男女問わず気軽に話せる仲になった。

 ぼくはクラス会長を務めた。

 行事にも積極的に参加して、

 充実した学校生活だった。

 こんなふうに自分が成長できたのは、

 小嶋と今井のおかげだと思う。

 かつてのぼくは心を閉鎖し、

 他人とは上辺のつき合いしかしない、

 孤独な傍観者だったから。

 教室の窓から見える葉桜、

 生き生きとした新緑が色めく。











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