15-1 VRボックスから、『リアル・ファンタジー・ワールド』へ

15-1 VRボックスから、『リアル・ファンタジー・ワールド』へ

 



 先日、インターネットで注文した商品が届いた。

 開封した。VRコントローラーだ。

 VRグローブ。

 VRスティック。

 VRタクタイル全身スーツ。

 VRゲームを本格的にプレイするなら、

 必須の3点アイテムだ。


 VRグローブをはめてみた。

 薄手の革手袋といった感じで肌ざわりがよい。

 VRスティックはカーボン素材の棒で、

 オモチャの武器みたいに形を変えられる。

 VRタクタイル全身スーツは、

 黒色のウェットスーツに似ていた。

 アニメの戦闘服でありがちな、

 スタイリッシュなデザインだ。

 着心地は良いが厚みも重量感もそこそこある。

 上から服を着れば肌着っぽくもなり、

 袖口の小型画面には、

 100%と電池マークが表示されていた。




 のんびりとした土曜日の昼下がり。

 ペダルを漕ぎながら、ぼくは顔を上げた。

 空には不気味なくらいの、

 大量のうろこ雲が漂流していた。

 歩道に並ぶ銀杏は黄色一色に染まり、

 なま暖かい空気のなか自転車を走らせた。

 秋のにおいが薫る。

 ビル街の小さな公園に、

 金木犀を見つけた。

 橙色の小さな花を咲かせ、

 どこかなつかしい甘い香りをふりまく。

 ぎゅっと切ない気持ちになる。

 金木犀の匂いをかぐと、どうしてか、

 条件反射のように、彼女のことを想ってしまう。

 これが、恋の香りというものか。


「今井雪……」

 

 ぼくは、名前を呼んでいた。

 ハンドルを強く握りしめ前進した。

 現実世界で、会えないのなら、

 仮想空間で、君に会いに行く。

 



〈いらっしゃいませ VRボックスへ ようこそ〉



 音声ナビゲーターが出迎えてくれた。

 今月、オープンしたVRボックスに到着した。

 通学路にあり、夏場は鉄骨だった。

 四ヶ月間の工事が終了し、

 正六面体のどでかい建造物が完成していた。


 10階建てビルよりも高く、

 先進的なデザインの外観だ。

 ブラックをメインカラーに、

 格子模様でカラフルな配色を施してある。

 店内に入った。

 天井が非常に高く、無人の大型倉庫のようだった。

 広いフロアには、

 大規模な四角い箱がいくつも設置してあった。

 上品な女性の音声に誘導され、

 ブラックで塗られた廊下を歩いた。

 予約済みの部屋の前に着いた。

 ドア横にあるパネルのデジタルの鍵に、

 自分のスマートフォンを当てた。

 スゥ──ッとドアが横にスライドした。


 ぼくは、VRボックスに、足を踏み入れた。











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