氷塊

11-1 氷塊




 セミの鳴き声はすっぱり途絶えた。

 銀杏の葉は黄緑色に染まっていた。

 二学期が始まった。

 久しぶりに、二年A組の自分の席に座った。

 教壇に立つ先生、

 黒板の白いチョークの文字、

 無言でノートをとるクラスメイト、

 教室はどことなく散漫としていた。


「おまえら、授業に集中しろ!」


 先生が板書をしながら激をとばした。

 休み明けの気だるい空気が癇に障ったのだろう。

 夏休み気分が抜けないクラスメイト。

 ぼくも、

 普段の学校生活に上手く戻れずにいた。



 教室では、

 今井と話しをする雰囲気にならなかった。

 理由は分からないけど、

 ぼくを拒絶する彼女のオーラがよみとれた。

 クラスでの今井のキャラは、控えめな優等生だ。

 中二病を完全に封印している様子。 



 授業中、

 ぼくの目は、彼女を追いかける。

 窓側の前方に座る、今井雪を。

 その後ろ姿、

 背中にながれる黒髪、

 わずかに見えるしろい頬。

 半袖のセーラー服から伸びる右手で、

 頬杖をつき、儚げな雰囲気で、

 窓の外をながめていた。


 休み時間になると、

 ざわざわとした音の中から、

 ぼくの耳は、今井の声だけをひろっていた。




 昼休みのことだった。

 友人と話していたら、

 教室の隅にいる今井と顔が合った。

 次の瞬間、ぼくたちは反射的に、

 目と目でほほ笑み合った。

 アイコンタクトをした。

 ふわっと、ぼくの胸があたたかくなった。

 そして、今井が視線をそらすと同時に、

 ぼくも視線をそらしていた。



 下校時に教室を移動するときも、

 今井とまた視線が合った。

 目配せを交わし、一瞬だけ、ほほ笑み合った。

 会話はしないけど、アイコンタクトを交わす。

 それがぼくと今井の、暗黙の了解になっていった。

 二人だけの秘密の印のようでうれしかった。


 だけど、それ以上の進展はないまま、

 毎日が過ぎていく。













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