10-6 文化祭  中立




 スクリーンにながれるコメントを見た。

 真面目なものから、いいかげんなものまで色々だ。




──────────────────




───病気なってみないと、わかりません 


  自由に身体が動けないなら、死にたいかも

     ↑

     同感  


介護したくない。じじい、早く死なないかな

    ↑

   安楽死をススメましょう 

老害は死んでくれ、未来の子どもたちのために        


 延命治療いらない 

    ↑

 あれは商売だから   

      製薬会社と、医療制度の闇  


ボケちゃって、自分が自分でいられないなら、

安楽死を予約します


  精神病を演じて、安楽死をねらってみる 


患者の家族に懇願され、安楽死させて捕まった医者いた 

      この前の事件かー


  高瀬舟  (森鴎外)

   ↑

 どっちが正義なんだ? 

             姥捨山───




──────────────────





 小嶋は演説を終え着席した。

 おおかたの観客が聴き入り、

 納得している雰囲気だ。



「では、中立意見に、異議がある方は挙手を」


 ぼくと今井は手を挙げ、

 異論がスクリーンに映された。




──────────────────




  【反論と問題点】



 a 家族が病人の早期の死を望み、

   不本意な死をせまる危険性がある。

 

 b 精神の病は、肉体の病とは異なり、

   客観的な判定が難しい。

 

 c 自殺管理の審査会が、

   適切な判断をくだせるか懸念がある。


 d 安楽死の条件が、

   拡大解釈されていく恐れがある。


 e 特定の条件を満たす人にのみ、

   安らかな死の権利を保障している。

   不平等である。



──────────────────



 

 ぼくと今井は各々の反対論を弁じ、

 小嶋は真摯に答えた。


 トントン。


「静粛に。着席してください」


 議長が言った。


「では、小嶋平八郎君。

 中立意見を総括して、一言どうぞ」


 小嶋は起立し、語った。



「本人が希望するなら、

 不治の病に痛み苦しむ人には、

 安らかな死を迎えさせてあげたい。

 私はそう願います!」


 小嶋は一礼し着席すると、

 観客席から大きな拍手が湧いた。





「次は、自殺管理法に賛成の、

 今井雪君。

 発言してください」


「はい」


 さっと今井は席を立った。

 目をつぶり、右手を胸にあて、無言になった。

 数秒間、水を打ったように体育館は静かになる。

 そして宣誓するかのごとく右手をかざし、

 今井は、自ら作った沈黙を破り声を発した。




「私は考えます! 死ぬ権利を、尊重すべきだと!」




 途端にパァ──ッと館内が明るくなった。

 上方の窓から光が射しこみ、

 舞台に立つ、今井雪を照らしていく。

 雲に隠れていた太陽が姿をみせたのだ。











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