9-3 VRグラス


 ドォ──ン! 

 ドォ──ン! 

 ドォ──ン! 


 ヒュルルゥ──ッ 


 パパパァーン!

 パパパパパパパァーン!

 パパパパパァーン!


 ドォ────ン! 



 宙を突き抜ける破裂音が、ぼくの鼓膜を震わせた。

 夜空を背景に、赤、青、緑、

 色彩豊かな光のスパークが、数多に拡散していく。

 ぼくは、花火大会の会場に移動していた。

 地上から5メートルほど高い視点にあり、

 花火を鑑賞する絶好の位置だ。

 360度、ゆっくりと身体を旋回させた。

 遠くに、高層ビルの電気が灯り、

 自動車のテールランプが列なっている。

 近くの屋台に群がる人々は、

 光の玉が炸裂するたびに歓声をあげた。


 夜空に、流れ星のような、

 横に流れる花火が突飛に上がった。

 首を振らずに目で追うと、

 視線の動きが映像に反映される。

 アイ・トラッキング機能といわれ、

 眼球の動きを、VRグラスが追尾してくれる。


 ぼくは、自分の部屋にいるのも忘れて、

 VRグラスをつけて、上を向きっぱなしだった。

 花火が、一つ打ち上がるたびに、

 彼女のことを考えていた。



 自分の場所を、

 花火の打ち上げ地点に移動させた。

 フィナーレだ。

 もやもやとした気持ちを、

 ぶち破るような爆発音が轟き続いた。

 夜空に、菊花火の大輪が咲いた。

 金色の眩しい輝きが、

 闇に溶けていく。

 幾千の光の花びらを散らせ、

 残滓を煌めかせ、

 夢のように、美しくも、儚く。





 ぼくはVRグラスをはずした。

 自分の部屋に帰ったら、

 目の前には、クリーム色の壁があるだけだった。


 花火が、こんなにも、

 せつなくて、美しいものだと初めて知った。












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