第12話 懐かしの故郷②
「せ、先輩っ……!?」
青を基調とした女性用のギルドの制服に身を包む、フワッとしたクリーム色のおさげ髪と大きくつぶらな栗色の瞳が特徴の少女。
名はルミナ・エステス――俺の二つ下であるため、今は十五歳になるのか。
同じく孤児院で育てられ、昔から仲良くしていた馴染みから、ルミナは俺のことを『先輩』と呼んでくるのだ。
「いやぁ、何年ぶりになるかな? 俺がこの街を離れて以降だから……二年ぶりか?」
「あ、あぁ……!?」
「お、おいルミナ? ルミナさぁ~ん?」
「ば、ばっ……」
「ば?」
「馬鹿ぁあああああッ!!」
「うわっ!?」
急に怒鳴り声を上げたルミナに、俺だけでなく、他のギルド職員や冒険者から怪訝な視線を向けられる。
しかし、そんな視線など気にしていないようで、ルミナは目尻に薄っすらと涙を浮かべて俺を睨み付けてきた。
「出てったきり二年も連絡の一つも寄こさないでっ……! 私、凄く……凄く凄く凄ぉ~く心配してたんですからねッ!?」
「そ、それは……すまん……」
「この業界、いつ人が死んでもおかしくないですよ!? 確かに先輩のパーティーの噂は入ってきますし、頭では先輩が無事なのもわかってます。でもっ! 理屈じゃなくて、もしかしたら先輩も死んじゃったんじゃないかとか、考えちゃったんですからっ……!」
うっ、うっ、と嗚咽を漏らして泣きながらも、その視線だけは俺から離さずにいるルミナ。
俺はカウンター越しにそんなルミナの頭に手を伸ばし、ポンと置く。
「心配掛けて悪かったよ。ごめんな……」
「……絶対、もう心配させないでください」
「わかってるって」
「……なら良いです」
ルミナは手で目元を拭い、呼吸と精神を整えるよう深呼吸をしてから、再び口を開く。
「それで、大出世して勇者パーティーの一員となった先輩がなぜここに?」
「いやぁ~、それがさ。追放されちゃった」
「……は?」
「だから、追放されちゃったんだって」
「つ、追放っ!? 先輩を!? 何で!?」
「い、いや、もう俺のサポートが必要ないくらいにアイツらが強くなったんだよ。だからまぁ、不要な人員を切り捨てた結果、かな?」
「そ、そんな……これまでずっと旅してきた仲間を追い出すだなんて……」
「あはは、良いんだよ別に。そりゃショックだったけど、別に勇者パーティーとして活躍することが全てじゃない。そうだろ?」
「ま、まぁそうですけど……」
「これからはのんびりと生きていくさ。冒険者稼業もぼちぼちにして、何か店でも開いてさ」
「はぁ……そういうところ、変わってませんね。先輩らしいです」
「だろ?」
そんなことをルミナと話していると、エリンが声を掛けてきた。
「お世話になった方への挨拶というのはこの方だったのですか、ご主人様?」
ご主人様!? とその呼び方に驚くルミナは取り敢えずスルーしておいて、俺は「いや、違う違う」と首を横に振る。
「ちょ、先輩? 『ご主人様』って何ですか……? それに、気付きませんでしたけど後ろにいる三人の女の子達は……」
「あ、あぁ……コイツらの説明はちょっとややこしいからまたあとでな? それより、ミラに会いたいんだが、取り次いでもらえるか?」
「わ、わかりました。ついてきてください」
絶対あとで話してもらいますからね!? とルミナに念を押されて案内されたのは、ギルドの二階の最奥に位置する扉の前。
ルミナがコンコンと扉を二回ノックする。
「ルミナです。支部長、懐かしい人がお見えですよ」
「な、懐かしい人って……」
俺が苦笑交じりにツッコミを入れていると、扉の向こうからどこか舌っ足らずな少女の声で「どうぞ」と返事があった。
失礼します、とルミナが扉を開けた先は薄暗い部屋だった。
全ての窓には黒い遮光カーテンが掛けられており、壁とテーブルの上にある燭台の明かりだけが淡く部屋を照らし出していた。
「では先輩、またあとで。私はまだ仕事が残ってますから」
「ああ、助かった」
ルミナはそう言って部屋の扉を閉めて去った。
薄暗い部屋に残された俺、フレン、ミズハ、エリンの視線の先――上質なソファーの上に足を組んで座る幼い少女がクスッと口許を緩めながら言葉を発した。
「久し振り、というべきかしらね。アラン?」
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