9/14 Wed. 風が吹けば桶屋が儲かる
失敗した。昨日、部活で怒られちゃったよ。
昨日の昼休みは一昨日の会計に続いて書記の演説放送が流れてた。その時の俺は何をしてたのかと言うと、吉田くんの相談を受けて階段の踊り場にいたんだよね。
放送のスピーカーって各教室と校庭にいくつかあるけど、階段にはないじゃんか。そりゃあ多少は聞こえるよ。多少はね。本当に多少だけどね。
けどチャイムくらいの大音量ならまだしも、おしゃべりをやめて静かに聞けってくらいの声量だとね。正直、何を言ってんのか分からんのだわ。
音量を大きくしすぎると音が割れるし、単純に「うるせえ!」ってなるから良くない印象が残る。それが投票結果に直結するってロジックも分かるよ。
衆院でも参院でも「なんとか党のなんとかです」って18時くらいからアニメを見てる時に聞こえてきたら、将来、この政党には絶対に入れてやらねえって思うしさ。
だから好印象を残せるように穏やかな声で、しかし明るくハッキリとした感じで演説をしようとするのは納得がいく。論理的でもあるし、いいと思うよ。
けどそれが原因でよく聞こえなかったんだから俺だけのせいじゃなくね?
それにさぁ。偏見かもしれないけどさぁ。今の時代に書記ってそもそもいるの?
議事録や書類の作成ってもうデジタル化してるじゃん。せいぜい会議の時くらいしか書き記すことってないよね。その対象が黒板か白板かは知らんけどさ。どうせ後でデジタルにまとめるならさ。最初から大型モニターを用意してさ。記録を取ってるノーパソの画面をそこに表示させといた方が効率よくない?
大体さ。記録を取るだけなら誰がやっても変わらんよ。主観を混ぜたら記録じゃなくて記憶になっちゃうから、客観的なことばっか書くと思うしさ。わざわざ書記なんて肩書を用意しないで12人もいる庶務の誰かがやればいいじゃんな。
はい、すみません。すべて言い訳です。論理で説き伏せようとしてるだけです。俺が皆川副部長の演説をスルーしたのは事実です。
けどしょうがないじゃん。実際に書記ってのに興味を持てなかったんだから。
まあ、正直なことを言うとね。思っちゃったよ。玉城先輩はどうして上条先輩を諦めてこの人にしちゃったんだろって。結局は胸の大きさかよって。
実際に昨日の出来事を元に2人を比較してみようか。
想像の話になるから論理的でも合理的でもないんだけどね。上条先輩が書記に立候補してたとして、その放送演説に対して俺が「さーせん、クラスメイトの相談を受けてて聞いてませんでした」って白状した場合と、昨日の皆川副部長の実際の反応で。
まずは上条先輩。
「おや、聞いていなかったのかい。それは残念だね。しかしながら書記とは読んで字のごとく書き記す係だ。声より文字でアピールするべきだよね。どれ、ここは1つ。昨日の原稿をハート柄の便せんにしたためて少年の下駄箱にでも投じておこうじゃないか。目撃者にラブレターと勘違いされて少々噂になるかもしれないけど、私は気にしないから大丈夫。それもやがて良い思い出になるよ。いやあ、照れるね」
「手で渡せや」
「え? じかに渡されたいのかい? 少年も案外と積極的だね。いやあ、照れる照れる。今からでも告白の練習をしておこうかな。きみのために書いたんだよって」
「……LINEでお願いします」
こうなる。8割くらいは当たってるんじゃないかな。いまシミュレートしたから実際にこうなった場合は初手でLINEをお願いすると思うけどね。
そして皆川副部長の場合、
「え? なんで? どうして聞かなかったの? あんなに一生懸命に考えたのに。昨日は夏希の演説を褒めてたのに。なんでわたしのは聞かないの? わたしって碓氷くんに何かした? してないよね? なんでそんな理不尽なことをするの?」
「……すみません」
「謝って欲しいなんて言ってないよ。理由を聞いてるの。なんで夏希の演説は聞いたのに、わたしのは聞かなかったの? わたしも褒めて欲しかったのに。お陰で自信がなくなっちゃったよ。碓氷くんみたいに聞かない人が多かったのかなって。つまんない演説だって思われたのかなって。部活の後輩すら聞いてくれないようなお話をしちゃったのかなって。ねえ、碓氷くん。わたしのどこが悪かったの?」
「……悪いのは俺です」
こんなんだった。周り全員女子だからって訳じゃないけど、誰も助けてくれなかった。ぶっちゃけ部活をやめたくなったわ。パワハラにも程があるだろ。
少なくとも男子にどっちの態度が望ましいのかのアンケートを採ったら9割以上が上条先輩を選ぶよ。下手したら10割だよ。あの上条先輩がモテちゃうんだよ。そのくらい皆川副部長みたいなヒステリーは受け入れ難いんだよ。
という訳で昨日からそこそこイライラしてる。傍目にも分かるくらいにね。その証拠に昨日の女子どもは慰めるのを通り越して近寄っても来なかった。触らぬ神に祟りなしってやつだね。賢明な判断だよ。
だから今日は部室にも行かない。内炭さんにその件を伝えたところ、優姫と川辺さんを招くそうだ。すっかり仲良しになってくれて俺も嬉しいよ。
てか理不尽なことをされてんのは俺の方なんだよな。玉城先輩が演説を聞かなかったって話なら好きに怒ればいいと思うよ? けど俺だよ? 同じ中学の出身で、同じ部活の後輩。それ以外に関係性がないんだよ? なんでそこまで自分を優先して貰えてると思ってんだろ。美人だからか? 巨乳だからか? 今までずっと男子に持ち上げられてきたからか? そんなん知らんわ。少なくとも俺はあんたに興味ねえわ。
まじでイライラするな。だから天パに愚痴を聞いて貰おう。3組には行かないって誓った気もするけど、そんなん反故だ。反故。
もう広報に立候補する生徒の演説が流れちゃってるが、部内の立候補者は残すところ愛宕部長ただ1人。庶務だから明日のはずだし、気にせず足を動かしてく。
念のために水谷チェックをしよう。よし、彼氏のとこに行ってるな。これで安心して天パの腹を撫でられるぜ。
そう思ったのに、天パがもうメシを食い始めてた。しかもぼっちじゃない。
コロッケだ。コロッケパンのやつが久保田とランチしてる。
あの2人って接点があったのか。って思ったけど、コロッケは油野の前の席だもんな。久保田が1組に行くたびに顔を合わせてもおかしくないし、ちょっとしたことから交友関係が始まったのかもしれん。久保田って陰キャのくせにコミュ力はずば抜けてるからな。
ふむ。今さらだけど久保田にアポを取るべきか。けど断られたら傷付くしなぁ。
どうしよう。もう今日はぼっち飯にしとこうかな。メンタルが不安定だし。
「何をしてるの?」
俺に対する質問かどうかはともかくとして、超至近距離から声が聞こえたからそっちに振り向いた。そしてのけ反る。僅か数センチって距離感で牧野がいた。
「こんなとこで会うなんて奇遇だね。それとも運命かな?」
開幕から右脳をフルドライブしていらっしゃる。
「牧野ってラプラス派なのか」
「……ら、らぷ? ラプンツェル?」
「ラプンツェル症候群は恐いよな。俺らは猫じゃないから毛玉を吐けんし」
「そ、そう! 恐いよね! 毛玉!」
「そういう意味でもケラチンって厄介だよな」
「……ケラチン?」
「消化できんくせに不足すると毛髪が弱ってくし。地味にたんぱく質を摂ってくのが一番なんだろけど。亜鉛でブーストするかケラチン加水分解物を取るのも手だよな」
「……意味が」
「勉強して出直せ」
さて、邪魔者は蹴散らした。どこでぼっち飯をしようかね。
「そうだ。一緒にランチしない?」
ほんとポジティブだな。こいつの思考って上条先輩以上に理解しかねるわ。
「しない」
「でもあたしって碓氷くんのせいで一緒に食べる相手がいないんだよね」
「は?」
「今朝まで相山さんと一緒に食べることになってたのにさ。碓氷くんがご機嫌斜めで部室に行かないことになったじゃん。その結果、相山さんは川辺さんと一緒に内炭さんとこに行っちゃって。あたしはとばっちりでぼっちになっちゃったってわけ」
俺の言動1つでパズルの組み合わせが変わっちゃうんだね。バタフライエフェクトみたいでちょっと面白いな。碓氷が怒れば孤独が生まれるって感じで。
「てかお前はわざわざソロで食わんでも2組の連中に混じればいいだろ」
「……碓氷くんって頭は良いのに、こういうのに関してはバカだよね」
露骨な上から目線。けど俺はイラっとするより関心を持った。
「くわしく」
「えぇ。怒るかなって思ったのに」
「知的好奇心の方が勝った。どういう論理か知りたい」
「論理って。そんな大層なものじゃないけど」
そう言いつつも牧野は少し誇らしげに口角を上げた。
「今週のあたしは宣言通りで相山さんと仲良くしてるのね。だからランチも2日続けて2人で食べてたの。当然、あたしは人気者だからランチのお誘いは引く手あまた」
ピンと来た。
「けど優姫のために断ってた訳だ」
「相山さんって言ってよ」
「そして今日も優姫のために朝から誘いを断ってた。なのに優姫は部室に行った」
牧野が頬を膨らませてるが気にしない。
「この状況で牧野が教室に戻って他の連中に混じったら優姫に対する悪口が出かねない。せっかくかおちゃんが気を遣ってくれてるのに生意気じゃないの? みたいな」
「もっかい! かおちゃんってもっかい言って! 録音するから!」
「連中からすればハイカーストの牧野を優先するのが当然って認識だもんな。それをしないのは調子に乗ってるって判定になってもおかしくない訳か」
「……録音」
「お前も色々と考えてくれてるんだな」
「そう! だから録音!」
うるせえな。って思ったのは俺だけじゃなかったっぽい。
「何してんの?」
放送演説の最中でそこそこ静かなのに、喧しくしてるからコロッケに見つかった。
こういう時に女子が見せる早変わりってすごいよね。コンマ5秒で笑顔を作って、さらにちょっと高めの声で媚を売るようにしゃべりやがる。
「あっ、煩かった? ごめんね、
コロッケって田中って言うのか。佐藤、鈴木、高橋に次いで全国4位のメジャーな苗字だからありきたりって感じがするけど、田も中も左右対称かつ上下対称の漢字だから地味に縁起が良いんだよな。ひっくり返しても変わらないってことで裏表のない人ってイメージもあるし。割とぴったりなのかもしれん。
「俺はいいけどね。他のやつらが気にしてるからさ」
つい先週にやらかした組み合わせだもんな。これは俺らが悪い。
「2人ともメシはまだなのか。一緒に食う?」
コロッケのやつ、コミュ力おばけだな。さすがは通りすがりで話に入ってくるだけはある。相手は初見のイケメンと得体の知れない紙袋野郎だったのに。
「そうすっか」
一応は牧野に目配せしてみる。一瞬で頷かれた。
「願ったり叶ったりってやつ?」
「踏んだり蹴ったりの間違いだろ」
小さく会釈して3組に入ってく。久保田の席は窓際の最後方だ。夏と冬で地価が最も変わる場所の1つ。その値崩れ真っ只中の場所にいそいそと移動する。
しかし最後方と言うことは久保田と隣接する席が2つしかないということだ。そして前の席にはコロッケがいる。右隣は空いてるけど、女子の席なんだよな。
うわっ。陰キャに座られてる。最悪じゃん。後で消毒しないと。って思われることを想定するなら立ち食いが安定かね。
「
少し離れたとこにいる女子2人がビクッとした。そりゃびびるわ。名前を知ってることもそうだけど、よそのクラスなのにどの席が誰のかを知ってることがすごい。俺なんか8組の座席表すら危ういっていうのに。
偏見ではあるが、相手の女子は序列の高い生徒に見えない。ゆえに肯定の一択。
「ありがと!」
カースト上位による下位からの搾取を呼吸のようにやらかす牧野さん。恐ろしい。
「あたしは清水さんの席に座るね。田中くんは鈴木さんの席に移ってくれる?」
なんでだよ。わざわざ座ってるやつを動かす理由はなんなんだよ。ってコロッケもきっと思ったに違いない。けど牧野って笑顔の圧が強いんだよな。
「いいぜ。碓氷と久保田って親友なんだよな?」
思いのほかすんなり譲ってくれた。コロッケ、良いやつだな。今日は焼きそばパンみたいだけど。
席に座ったら早速とばかりにリュックから弁当箱とほうじ茶を出した。南無三!
あああああ。赤い球体があるよ。今日はプチトマト処理班がいないのに。
「あたしが食べよっか?」
牧野が野菜しか入ってない弁当箱を開けながら言ってきた。それでよく持つな。
「プチトマトはこの世から消えて欲しいくらい嫌いなんでしょ?」
「お願いします」
「お願いされちゃった」
いちいち嬉しそうにしてプチトマトをさらっていった。
「碓氷氏」
既に菓子パンを2袋も開けてる天パが俺の弁当を凝視してる。
「唐揚げも嫌いなのでは?」
「都合よく改竄するな。まあ1個やるけど」
「かたじけない! この恩は一生忘れぬ!」
「重すぎるわ」
「では5分忘れぬ!」
「今日1日くらいは憶えとけや」
牧野とコロッケが噴き出した。
「息ぴったりなんだな。お前らの印象が一気に変わったわ」
「懐かしいね。中学の時によく見た光景だよ」
まじか。中学で牧野と同じクラスになったことって1回もないんだけど。
「ところで田中くんと久保田くんって仲いいの?」
牧野がノンオイリーなドレッシングをサラダに掛けてる。梅っぽいな。
「一緒にメシを食うことがあるって程度だな。遊びに行ったことはない」
「うむ。ちょっとした共通点が判明してから少々縁があるのだ」
なんだそれ。油野くらいしか思い付かんのだけど。
牧野もサラダをもぐもぐしながら考えてるようだった。その時、
『全校生徒のみんなー! やっほー! 2年4組の武田麻衣でーす! このたび生徒会広報に立候補しちゃいましたー! アイアーム! まいたけだ!』
室内にちょっとだけ笑い声が上がった。堅苦しい挨拶ばっかで辟易としてた頃合いだからね。実際のところ、広報ならこのくらい愛嬌があった方がいいとも思う。
「まいたけ先輩は相変わらずだねー」
牧野の呟きに賛同を禁じ得ない。この人はもう5年経っても変わらない気がする。
『みんなも私を見かけたらぜひぜひ呼んでみてね! まいたけだー! って』
この名前の印象付けはチート級だよな。少なくとも選挙当日までこの放送を聞いた全員が名前を憶えてると思う。それこそぼくはクボくらいに。
「あっ」
急に牧野が久保田とコロッケを交互に見つめた。
「共通点が分かったかも」
まじかよ。
「2人ともさ」
「待たれい!」
久保田が即座に制止した。そしてコロッケを見遣り、2人同時に頷く。
なぜか2人は揃って俺の方を向いて、
「ぼくはクボ」
「知っとるわ」
「逆から読んでもボクはくぼ!」
「だから知っとるわ」
無駄にやり切った感を見せる久保田に続いて、
「俺は田中
まじかよ。そんなんさすがに笑うわ。
「逆から読んでもタナカカナタ!」
同じくやり切った感を見せてくれるコロッケ。自己紹介の掴みネタが共通してるって意味が分からんわ。川辺さんが喜びそうな展開ではあるけど。
「あー、アホらし」
いかんな。まだ胃袋が笑い袋っぽくなってるわ。ちょっとしたことで笑いそう。
「ちょっと妬いちゃうなぁ」
言葉と裏腹に牧野は笑顔だ。意味が分からん。
「碓氷くん、ご機嫌じゃん」
「……あー」
言われてみればイライラがなくなってるな。笑う門には福来るってか。水谷さんにそう説いておきながら自分で実感することになるとはね。
いや、これは久保田のお陰だな。あとコロッケも。少しだけ牧野も。
1人でイライラしながらメシを食ってもイライラしっぱなしだったと思うし、こういう何でもないようなことが気分転換になるんだな。
「碓氷氏、機嫌が悪かったん?」
「ちょっとな」
「また牧野がやらかしたのか?」
「あたしは何もしてないよ。強いて言うなら恋はしてるけど」
コロッケが安っぽい口笛を吹いた。そこはかとなくイラっとするね。
「話して楽になるようなことなら聞いたんだけどなぁ」
世話好きの親友は少しだけ眉を落とした。ほんとに、こいつは。
「じゃあ聞いてくれるか? 話してる間にまたイライラするかもしれんけど」
「そしたらまたぼくらの力でストレスを吹き飛ばすだけさ」
「おいおい。あれを2回やるのはさすがに寒いぞ」
コロッケが焦りだしたとこで牧野が笑った。たまにはこういうのもいいかもな。
って思ったのによ。
「それは碓氷くんが悪いね」と牧野。
「いやいや碓氷は悪くねえだろ。困ってる人を助けてた訳だし」とコロッケ。
「うーん。どっちの気持ちも分かっちゃうなぁ」と久保田。
1勝1敗1分けって感じになった。
「だって他の先輩の放送はちゃんと聞いたし、褒めたんでしょ? ならその時点で期待しちゃうってば。自分の時はどう褒めてくれるのかなって。言わば誕プレを期待してたら友達が誕生日を忘れてたって感じ! しかも他の人にはあげてるの!」
「そう言われると悪いことをしたかもって思うけどな。だからって困ってる人を放置していい訳じゃねえだろ。その先輩は碓氷の善行を褒めるべきだったね。良いことをしたのにその対価が罰だったら性根が腐っちまうわ。仮にも年上なんだからそのくらいの度量は見せろっつってんの」
「年の差なんか関係ないの! 田中くんは女心を分かってない! 女子っていうのはね! 自分に興味を持って欲しいの! 話を聞いて欲しいの!」
「牧野は男心ってか人としての道理ってのを分かってねえよ! 自分さえ良ければ他人の不幸に目を瞑ってもいいって言うのかよ! それがそんなに大事なのかよ!」
「まあまあ落ち着いて」
代理戦争みたいなのが勃発してしまったわ。いやあ、お陰で冷静になるね。
牧野の意見を念頭に置くと、皆川副部長が怒髪天モードになったのも分からんでもないな。なぜなら俺は愛宕部長とそこそこ仲がいいからだ。
それこそ川辺さんやリフィスの誕生日会に誘ったり、リアル脱出ゲームも別チームだけど一緒に行ったり、同じバイト先で働いたりって感じでね。
その状態で夏希先輩の方に肩入れしたような態度をしたら、そりゃあ面白くないよな。2年の中で自分だけないがしろにされてるって思っても仕方ないことだ。
ふむ。俺が悪いか。悪いよな。けどそれも認めてるんだけどなぁ。
「それに碓氷くんの1番悪いとこはね!」
タイミングよく牧野が俺をディスって来た。
「謝ることしかしなかったことだよ!」
ん?
「と言うと?」
「謝られたらどうしたらいいか分からなくなるじゃん!」
「許せばいいのでは」
「許せないから怒ってるの!」
そいつはごもっとも。
「怒ってる側からすれば、謝ればいいと思ってんでしょ! ってなるの!」
「ああ、お前らが優姫にしたのと同じやつか。説得力があるな」
「……もう許してくれないかな?」
「おっと。攻守交替か?」
「やったれ、碓氷! 言い負かされた俺の仇を取ってくれ!」
「みんな。仲良くしようよ」
しかし久保田の願いは俺の耳に届かなかった。とことんぶちのめしてやった。
お陰でストレスフリーとなった俺は牧野の見解を参考に行動してみた。
放課後の技術科棟前。皆川副部長がいつも飲んでるミルクティーを片手に声を掛けてみる。
「よかったらどんな演説をしたのか教えて貰えませんか?」
ただそれだけ。それだけのことで皆川副部長は笑顔になった。
「あのね!」
いらない身振り手振りと合わせて10分以上も話を聞いた。それに関する感想も言った。生意気かとも思ったが、苦言も呈した。
「そっかぁ。原稿を書いた時点で碓氷くんに相談すればよかったのかな」
「次も立候補するならその時にどうぞ」
皆川副部長はただ俺と仲良くしたかったに過ぎない。せっかく同じ部活に所属してるのだから。
俺は難しく考えすぎなのかもしれないね。
『女子っていうのはね! 自分に興味を持って欲しいの! 話を聞いて欲しいの!』
これが本質なのかもな。
何を言っても「すみません」が返ってくるんじゃ話を聞いてるかも分からんし。
お前のことなんかどうでもいいわって感じになっちゃうもんな。
実際に半分くらいは思ってたしさ。
はぁ。
やっぱ難しいね。人間関係って。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます