7/25 Mon. プライスオブバイオレンス――後編
「すみませんでした」
戻ってきた優姫はみんなの前で頭を下げた。隣には俺がいて、
「俺のせいでイライラしてたみたいなんで俺のせいでもある。悪い」
俺も頭を下げた。それに優姫は慌てて、
「カドくんは悪くないよ! あたしが勝手に怒ってたんだから!」
カドくんが悪いんだよって言ったくせに。あれは一生忘れんからな。
「俺が佐藤を殴ってなければこんなことにならなかった。すまん」
油野も頭を下げた。優姫が本格的に焦る。
「圭介が荒れてたのは私のせいでもあるの。ごめん」
水谷さんも頭を下げた。優姫はパニックだ。
「私もあの日の前日に油野くんを怒らせちゃったから。ごめんなさい」
高橋さんも頭を下げた。おい、そろそろ気付け。
「実は僕と彼女のせいでもあるんだよね。すみませんでした」
堂本も頭を下げた。早くしないとネタを持ってない人が困るんだが。
「1人だけカッパですみません」
ほら! 久保田が尊い犠牲になっちゃったじゃん!
「あれ? これみんな謝るパターン?」
けどお陰で気付いてくれた。後は川辺さんが言えばゴールだ。なのに言おうとする気配がしない。なら次に行くしかないな。俺は頷く。浅井も頷いた。
「女子の水着目当てで来ててすみません」
お前は本当に反省しろ。ほら、女子が浅井を睨んじゃってるよ。
「遊ぶことしか考えてなくてごめんなさい!」
あんたも反省しろ。宿理先輩らしくて良いと思うけどさぁ。
「スタイルがよくてごめんなさいね?」
天野さんのどや顔がむかつく。謝罪の理由もそこはかとなくイラつく。
「絵麗奈ちゃんしか見てなくてすみません」
えっ。大岡さん、カミングアウトしていいの? 大丈夫?
「私なんかがこの場にいてすみません」
内炭さんはなんか普通に凹んでるな。後でメンタルケアしないと。
そして。
「ひどいことを言ってごめんなさい」
川辺さんが頭を下げた。優姫はちょっとびっくりしたような顔を見せて、それからすぐに表情を柔らかくして川辺さんに近寄ってく。
「あたしの方が悪いから。出しゃばっちゃってごめん」
「そんなことないよ」
巨乳と巨乳が微笑みあった。いいね。と思ったら優姫が俺を指さして、
「あの人があたしのことを劣化川辺さんって言うからちょっと嫉妬してました」
おいおい。このタイミングでそれはねえよ。
「これは碓氷くんが悪いわね。相山さんはよく我慢してたと思うわ」
水谷さんの超速攻。対処のしようがねえわ。
「はいはい。少年少女よ、そこまでだ。今日はお遊びなしって話だよ?」
上条先輩にまた借りができてしまったわ。
という訳でお掃除お掃除。
開始が遅すぎたせいでリフィスと川辺ママが来るまでに3割も終わらなかった。
「仕方ないですね。私も参加しましょう。水着を用意してきます」
昼メシの途中でリフィスがそう言って去っていった。下手したら年下に見える川辺ママもその後すぐに帰っていき、
「では午後も頑張りなさい」
リフィスのサンドイッチを片手に上条先輩が俺らを送り出した。本当にいるだけなんだな。有難かったけどさ。
水を撒き散らしてるとはいえ夏の午後は暑い。合理厨の水谷さんがラッシュガードを脱ぎ、白い生地に水色の水玉模様のビスチェビキニを披露したら対抗するように全員が脱いでいった。脱いでないのは久保田くらいだ。一番暑そうなのに。
左端の方を一心不乱にデッキブラシでごしごしやってたら、
「少しいい?」
高橋さんがやってきた。花柄のワンピース。スカートみたいなフリルが付いてるのが愛らしい。
「みっきーの気持ちは分かってるよね?」
どストレートできたな。
「気付いてないフリをされるのってつらいと思うの」
危ない。そんなつもりはないって言おうとしちまった。
「告白された訳じゃないからね。フリも何もないと思うけど」
「……みっきーのあんな顔。初めて見た」
きっと俺が優姫を連れていった時のことだな。あれは俺も驚いたけど。
「みっきーの想いが叶わないなら。いっそ突き放してあげて欲しい。恋心を振り回さないで欲しいの。そうしないと。みっきーが壊れちゃうよ」
切実な願い。高橋さんのそれに感化されたことを認めよう。そのせいで俺は普段の何倍も口が軽くなってしまった。
「分かるよ。俺も好きな人に振り回されてるから」
「……いるんだ」
「まあ、いなかったとしても川辺さんを受け入れるかは分からんけどね」
「どうして?」
「俺が川辺さんに恋してないから」
高橋さんは俯いた。色々な要素で葛藤してるのかもな。
「時間が経てば可能性が生まれるってこと?」
「可能性なんて大雑把な括りで言えば高橋さんが相手でも可能性はあるでしょ」
「ないよ。私なんか」
「それ。俺も思ってんだよ」
複雑そうな表情を見せたからには理解してるんだよな。
「川辺さんは8組のアイドルみたいな存在だ。そんな子と俺が? それどこのラノベですかって感じだろ。気付く気付かないの前にリアリティがないんだよ」
「でも」
「川辺さんがこっち見てるよ」
目の端にホルスタイン柄のタンキニを着た川辺さんがいる。ブラシを動かしてはいるものの、顔はこっちを向いてた。さっきから同じとこをずっとゴシゴシしてる。
「いくね?」
「いってら」
よし、掃除に集中だ。って思ったら入れ違いで内炭さんが来た。宿理先輩と色違いで買ったというタンキニだ。宿理先輩のイエローに対して内炭さんはグレー。ブレないね。さっさと灰色教から脱退しなさいよ。
「碓氷くん。今日の私って何点?」
「いいとこ30点」
内炭さんは盛大な溜息を吐いた。
「そうよね。私がもっと相山さんを気遣ってたらよかったのよね」
「そっちの話だったか」
「は?」
やっべ。水着の話だと思ってたわ。
「内炭さん、その水着、超似合ってるね」
「あ、そう? やっぱりグレーが落ち着くのよね」
よし、話題を逸らしたぜ。このまま一気に畳みかけるぞ。
「話を戻すけど、優姫の件に関しては9割近くが俺のせいだから気にするな」
「9割も? 具体的に何をしたのよ」
「リフィマのバイトに誘わなかった」
「……え? 普通は誘われるものなの?」
おっと。深淵を覗いてしまったようだよ。
「私、ボウリングに誘われたのも今回が初めてなんだけど」
やめて! それ以上自分を傷付けないで!
「どっか行きたいとこがあったら内炭さんから誘ってもいいんだよ?」
「えっ。そうなの? おこがましくない?」
どんだけ自己評価が低いんだよ。よく油野を諦めないでいられるな。
「まあ、俺ら友達だし。そういうのはなしでいいよ」
「じゃあ夏コミとか行ってみたいわね!」
初めてのお誘いが県外とはこれまた大きく出たな。
「東京ってか千葉か。さすがに今年は資金的に無理だな」
「そうね。早くても冬コミよね」
「久保田にも確認しとくわ。リフィマにも積極的に行かんとなぁ」
「うん! 楽しみだわ!」
無事にメンタルをケアできたらしい。内炭さんはほくほく顔で去って行った。
さて、どうしようかな。このまま掃除をしててもいいんだけど。
気付いてないフリをするなって言われちゃったからなぁ。
さっきからずっと視線を感じるし。よし、行くか。
「やあ」
俺が近付いた途端に床を見てゴシゴシし始めた川辺さんに話し掛けてみた。
「……やあ」
川辺さんはこっちを見てくれたけど、そこに笑顔はない。落ち込んでるね。
俺も隣でゴシゴシする。優姫が悪かったねって言おうとしたが、なんか彼氏ヅラをしてるみたいでよくないよな。
「……碓氷くんってさ」
川辺さんはとっくに綺麗になってる床をゴシゴシしながら言った。
「ん?」
「相山さんを特別に思ってるの?」
ふむ。これはまた難解だな。便宜上、女子語とでも言おうか。碓氷語の特別と女子語の特別って意味が違いすぎると思うんだよね。まあ、考えてもしゃあないか。
「意味が合ってるか分からんけど。俺にとってはみんな特別だよ。リフィスに言ったら、それはみんな特別じゃないって言ってるのと同じですとか返されそうだけど」
「言いそう」
笑ってくれた。リフィっさん、今だけは感謝してもいいぜ。
「そうだなぁ。川辺さんにとっての水谷さんってくらいは特別かもね。そっちと同じで家が隣同士だし。15年近い付き合いがある訳だし」
一歩だけ踏み込むか。
「庇ったから特別だと思ったの?」
「……それもあるけど」
床が綺麗になったからちょっと前進する。川辺さんも同じだけ前に出た。
「呼び方が違うから」
「優姫?」
川辺さんの肩がびくっと震えた。
「かどくん、とか」
言われてみれば俺が下の名前で呼ぶのって優姫と油野姉妹くらいだ。その中でも呼び捨てにしてるのは優姫だけ。特別って言えば特別なのかねぇ。
俺にとって名前ってのは人を区別するための記号でしかないからなぁ。一応は女子が二人称より名前で呼ばれたいと思ってるとかの知識はあるけど。ふーむ。
「そいえば」
俺が黙ったから気まずくなったのかもしれないな。悪いね。
「最近の碓氷くんって」
「うん」
なんだろ。
「おっぱい見なくなったね」
よりにもよってこれかよ。
「前に油野のことを痴漢って言ってたから見ないように努力してるんだよ」
水谷さんにもそれっぽいことを言われたしなぁ。
「……見てもいいよ?」
なにそれエロい。って思ったけど、これも女子語なのでは。
試しに川辺さんを見てみる。少し顔が赤いな。
「水着、似合ってるね」
もっと赤くなった。要するに正解なんだな。この鈍感クソ野郎が水着姿にノーコメントだったから胸(水着)を見ろって要望だったか。
「嬉しい」
可愛い。いや、なんというか。罪悪感もあるんだけどね。恋心を振り回す的な意味で。とはいえ、突き放すってのは気が引けすぎる。
「お待たせしました」
リフィスが戻ってきた。ってなんだあれ。ハーフパンツにラッシュ―ガードっていう俺と同じ格好で、箱を載せた台車をコロコロと転がしてきてる。
掃除の手を止めて近付いてみると水鉄砲の箱だった。加圧式ウォーターガン。射程6~12メートルって書いてある。ガチのやつじゃないのか、これ。
「お遊びはなしって聞いたので」
そういう意味じゃねえよ。
「えっ。10メートルも飛ぶの?」
川辺さんが目をキラキラさせてる。しゃあないな。
という訳で銃撃戦が始まった。
と言っても50メートルプールとはいえ14人もいたら手狭になる。まずは上条先輩の審判の元でタイマンの打ち合いをすることになったのだが。
「終わらないね」
「終わらないな」
川辺さんと一緒にプールの中で闘う師弟を眺めてる。
さすがは第一の悪魔リフィス。水属性を持つ第二の悪魔ウォーターバレーの射撃を正確に読み取って回避し、回避行動中にカウンターを差し込む。
しかしウォーターバレーは視線の流れを読み取ってすべての攻撃を回避する。
ロングレンジだと当たらないからミドルレンジに変更し、まったく当たらないからショートレンジに。今ではもう2メートルくらいしか離れてないが、それでも当たらなくてお互いが息を切らし始めた。ぴょこぴょこ動きまくってるもんね。
勝敗の要は若さだった。弟子が見事に師匠を討ち果たした。
「見応えはあったがつまらんね」
上条先輩の辛辣な意見に、だけどほぼ全員が賛同したので結局は乱戦をすることになった。
「くっくっくっ。愚か者どもが。我に敵うと思うておるのか?」
「絵麗奈ちゃん! このボスっぽいやつを倒そう!」
「いいわね! 集中砲火するわよ!」
大岡さんと天野さんがプール内を悠然と歩く久保田を狙い撃ちしてる。
「効かぬ。効かぬぞ! 我が鎧の前では貴様らの攻撃など児戯が如し!」
防水性能が高いカッパのようで水鉄砲の射撃を弾く弾く。高橋さんと内炭さん、優姫も参戦して5人掛かりで撃ちまくる。ゆっくりとはいえ動く的を狙い撃つのは楽しいみたいで、理不尽な攻防なのに5人の女子はきゃーきゃー笑ってる。
「はっはっはっ! その程度か! 人間!」
一応は難易度を上げるためにステップを入れたり、屈み込んだり、3歩だけムーンウォークしたりと、久保田は女子のサンドバッグとして大活躍してる。
「クソっ。あの天パめ。女子に囲まれやがってっ」
8組のイケメン代表が歯噛みしてる。あんな囲まれ方でも羨ましいのかよ。
「オレもカッパを持ってきてたら!」
ねえよ。あれは久保田だから許されるんだよ。
「フハハハハ! 我を倒せるものはおらぬのか! 脆弱な人間どもよ!」
あっ。カッパで視界が狭くなってる久保田の背後から宿理先輩がそろりそろりと近付いていって、
「とぅ!」
膝カックンをかました。崩れゆく魔王クボ。
「倒した!」
えぇ。無邪気に笑ってるけど今のは久保田が可哀想すぎる。
「ちょっと。やめてくださいよ」
ロールプレイを忘れて抗議する久保田。そのクレームに対する宿理先輩の解答は、跪く久保田のフードをひん剥いて銃口を顔面に突き付けるというもの。
「文句ある?」
「ないです。顔はやめてください」
説明書に『顔を狙っての射撃はお控えください』と書いてあるからね。
「ふっふっふっ。だらしないね、クボ1!」
「……お、お前は! ムーン1! 生きていたのか!」
勝手に殺すな。けどこの思考の瞬発力は見習いたいね。
「きみを救うために地獄から舞い戻ってきたのさ!」
「ふっ。ならあたしがまた送ってあげるわよ。地獄にね!」
宿理先輩と川辺さんの銃撃戦が始まり、その隙をついて久保田はそそくさと装備を整えて、
「フハハハ! 貴様らも掛かってこい!」
また女子5人の的になった。なんでやねん。ムーン1の支援に行けよ。ってよく見たらこいつ水鉄砲を持ってないじゃん。お前が一番の脆弱だわ。
プールサイドでポカリを飲みながらそんな青春の一ページを眺めてた。水谷さんとリフィスは端っこの方でまたタイマンしてる。油野と堂本は水鉄砲を構えたり構えなかったりの繰り返しをしてるから、カイシンの一撃みたいなコンビネーションプレイでも開発してんのかな。
「少年は戯れなくていいのかい?」
上条先輩がやってきた。
「それとも私が来るのを待っていたのかな?」
俺の隣に座り、そんなことを言ってくる。
「そうです」
「参ったね。好きというのは冗談だと言ったのに」
「そんなんじゃねえから」
「照れなくてもいいのに」
「照れてねえから」
「ではなんなんだ」
「今日のっていつから気付いてたんですか?」
上条先輩と優姫が会ったのは今日が初めてだ。その証拠に上条先輩は優姫の名前と顔が一致してなかった。名前と幼馴染って間柄しか俺は教えてないからな。
「そうだね。強いて言えば2年前かな」
またこの人は。と思った直後に気付いた。お守りを買いに行ったのも2年前だと。
「私が恋した相手も幼馴染だったんだ。
知ってる。同じ中学の先輩だ。ただし今の確認は違う意味を持っている。
「皆川副部長、皆川美奈さんの彼氏ですよね」
あの2人はどっちも顔が良い。だから学年が違っても交際の噂が流れてきた。
「私は勘の鋭い方だと自負している」
「賛同します。鋭すぎだと思うくらいです」
「だから私は気付いていたんだ。拓也の恋慕に」
混乱した。あれ? 両想いだったってことか?
「女子の感情は点じゃなく線。その線は点と点を繋ぐことで生じる」
上条先輩は微笑んだ。弱々しい。儚いとも言える微弱な笑みだった。
「私の恋愛感情の最後の点は、拓也と美奈が付き合うことだった」
困ったな。失って初めて気付くってやつか。掛ける言葉が見つからない。
「その美奈があのお守りを持っていてね。私のことを好きだったはずの拓也が急に美奈と付き合うことになったから。きっとあれのせいだって思ってしまったんだ」
「……それはまた。非論理的ですね」
「そうだね。ただ私は認めたくなかったんだと思う。拓也が私を諦めてしまったことを。私が諦めさせてしまったという事実を」
あぁ。今の言い方で分かった。要するに、
「先輩も自分で思ってるより鈍感だったってことですね」
諦めさせてしまった。でもそんなつもりはなかった。そういうことだ。
「きみ、酷いことを言うね」
「あんたも言っただろ」
「そうだった。まあ、後はお察しの通りさ。私は拓也の気持ちを知っておきながら、いや、知ったつもりになっていた。当時の思いを正直に言えば、気が向いたらそのうち相手をしてやってもいい。くらいに考えていた」
「随分と上から目線ですね」
「何を言っているんだ。そんなのいつもだよ?」
自覚があるなら少しは是正しなよ。
「もう! 拓也はそんな私を好きになってくれたの! だから私はこれでいいの!」
この人のぶりっ子ってなんか超可愛いんだよな。純度0%の贋作なのに。
「しかし後になって思ったんだ」
また急に真面目になる。感情が追い付かないよ。
「前にも言ったが、恋は恐ろしい。何が恐ろしいって。あの感情はキラキラと光ってるんだ。そして当然だけどね。光というのは必ず影を生み出す」
先輩は俺の目を見てきた。二度とあの夢を見たくないから目を逸らす。
「少年は優姫を諦めようと思ったことはないかい?」
「ありますよ。何十回も」
「なのに諦められていないよね」
「未練がましいですか?」
「それを肯定すると私は自分をそう評価することになる」
「ってことは今もまだ玉城先輩のことを?」
「そうだね。これが影の一つだよ」
先輩が視線をずらした。行き先は優姫だ。
「人は恋を諦めようとしたとき、その気持ちの強さを思い知る」
あぁ、確かにね。胸に刺さるよ。その言葉。
「未練か。言い得て妙だね。我々の場合は未だ恋していると書いて未恋だけど」
「厄介ですよね」
「あぁ、実に厄介だ」
どのくらい厄介かと言うと、俺と優姫の関係を過去の自分に重ねてわざわざここにきたくらいだ。塾をサボってまでね。
俺は前に言ったからな。好きな人がいるって。
川辺さんと紀紗ちゃんの時に女子の名前をいっぱい出したが、優姫の名前を出したのは今回が初めてだった。
幼馴染って間柄。加えて川辺さん的に言えば下の名前で呼ぶ特別な相手。
勘の鋭い先輩はすぐにピンと来たはずだ。けどそれがハズレだったら恥ずかしいから、俺らが四苦八苦する姿を見に来たなんてそれらしい理由を用意したんだろ。
性別が違ったり、関係性が違ったり、そもそも状況も違ったりすると思うが、きっと俺が優姫にしたことは、過去の上条先輩が玉城先輩にしたことに近いんだろね。
「何のお話をしてるの?」
川辺さんが寄ってきた。宿理先輩との戦いが壮絶だったがためにびしょ濡れだ。
「別に大した話じゃぶぁっ」
顔面に二条の水がぶち当たった。前髪からぽつぽつと落ちてくる雫を無視して射線の方向を見てみれば、2匹の悪魔が銃を構えていた。
俺は湿った前髪を上の方に撫で付けながら言う。
「ウルフ1からムーン1へ」
「っ!」
「あの悪魔どもを駆逐するぞ」
俺は水鉄砲を手に水のないプールに飛び降りる。
「ムーン1からウルフ1へ! 一緒にあの2人を倒そう!」
許せねえ。
顔面を狙っちゃダメって説明書に書いてあったでしょうが!
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