藤原明

「藤原さん、あのー」


佐賀さんが遅刻してやって来た。珍しいこともあるものだ。


「なんですか?」


「社長っていつ会えます?」


「ああ、まだ挨拶もしてなかったっけ。ちょうど今来てて。で、カメラマンはみんな呼び出されてる」


「えーそうなんですか?」


「その後、行ってみる?」


「はい」


なんだろう、緊張してる?なんだかきりっと、何か決断したような、そんな返事だった。


小暮さんたちが部屋から出てきたあと、中に入れてもらった。


「社長、福岡からスカウトしてきたほのかさんを連れて参りました」


「あー、どうぞ」


「失礼します、はじめまして!ほのかです!」


「あらまー髪型変えてまるーくなったもんだ!」


社長は相変わらず、軽い口調である。


「あの、私、実は…」


なにを言い悩んでいるんだ?


「子供が、できちゃって」


「え、ええっ?」


それは聞いてない。まだ東京に来てから3か月くらいしか経ってないというのに。思わず声が出てしまった。社長、どう対応するのだろう。


「あらそう。おめでとう」


え、なんという単純な答え。


「辞めないわよね?」


「辞めたくないですけど…」


「大丈夫、顔かわいいし、全身写さなきゃいけるわ」


「え!そうなんですか?」


「ええ。元気な子を産んでねー」


「ありがとうございます!」


それでいいのか、社長。今まで、結婚した人は仕事辞めてたのに。佐賀さんはやる気あるんだかないんだか。


「ま、これからも頑張ってねー」


「はい!」


社長室を退散した。


「子供のこと、聞いてないんだけど」


「今日わかったんです。すみません」


「え、そうなの?」


「零さんには言ってないんですけどね」


本当に今日わかったようだ。


「それだめじゃん。早く言いなよ」


「私今から仕事だし。あとでいいです」


「いやだめでしょ。もう帰っていいから。萩原さんには言っとくんで」


「はい、じゃあ…帰ります」


まったく佐賀さんは。どうなってんだよ。

萩原さんにこのことを伝えると、すぐにみんなに知れ渡った。

これが初日だったら大変だったな。

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