第66話
仕事の入っている日であったが、その前に母の知人のいる事務室に行った。
「あら?躑躅さん、早いですね」
「先生、本日は妻を紹介に…」
「はじめまして!いつも夫がお世話になっております!宝之華といいます!」
宝之華に言われてしまった。ひょっこりと私の横から現れ、ぺこりと頭を下げる宝之華。
「まあ!かわいらしいお嬢さんねぇ」
それは僕も思ったが、言ってはいない。先生はまじまじと宝之華を見ていた。
「あ、あの~私、変ですか?」
「いえ!とんでもないです。その着物、私が昨日お渡しした物よね?」
「はい。零さんから受け取りました」
「それは私が作ったんですよ」
「え!すごーい!」
「ふふ、お会いしたときにお渡ししたかったんですが、お忙しそうだったので、先に渡してしまいました」
先生はそんなことを考えていたのか。
「そうなんですかー。なんかすみません」
「いえ、私、着物作るの趣味なんですよ」
「へえー、すごいです」
「さ、中に入って下さい」
と、促され椅子に座る。
お茶とお菓子を出され、宝之華は嬉しそうである。
「お菓子まですみません!」
「いえ、遠慮せず食べて下さいね」
「はい!」
「躑躅さんの奥様がこんなに明るい方だったなんて」
「え?」
もぐもぐとお菓子を食べる宝之華をよそに先生は話した。
「おしとやかでおとなしい方だと思っていまして」
とんだ偏見である。
「あはは!私全然おしとやかじゃないですよ!」
「いいえ、元気で明るくて本当にかわいらしいですね」
そう言う先生はにこやかに笑っていた。そうか、宝之華は僕以外の人も元気にさせているのか。
「やだなー照れちゃいます!」
「本当ですよ?」
「先生もかわいらしいですって!」
「まぁ、お上手だこと!私おばちゃんですよ?」
「そんなことないですよー!」
なんだか宝之華はいつの間にか馴染んでいた。
「あ、私は仕事なので…宝之華はどうします?」
「私、零さんが帰るまで待っとくね」
「躑躅さん、奥様のことはお任せ下さい」
「よろしくお願いします。では、失礼します」
結局宝之華自身に、紹介させているという。
僕は宝之華がいないと何もできないな。
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