第63話
イライラする。昨日の零さんなんなの?あれって先生に私を紹介するって話だよね?
なのに仕事関係の人に会わせるのは違うってどういうこと?私がダメってこと?書道をしていた零さんにどういうこと?と聞いても無視。朝だって全然起きない。私とは話したくないの?
「あの~ちょっと顔怖い…」
「は?萩原さんうるさいんですけど」
「え、撮影中なんだけどなぁ」
「だから、うるさいって言ってんですけど?」
「…よし、撮影は中断しよう。それがいい」
休憩の時間となった。私は始終イライラしていて、集中できない。そんなときに、
「どーぞ、飲みなよ」
「ありがとうございます。あ、今日お昼頼んでいいですか?」
「おーめずらしー!いいよ!」
「お願いします」
「ねえー新婚さんなんでしょう?聞いたよ?」
あーその話?もうどうだっていいよ。
「はいそうですが?」
「イケメンなんでしょ?しかもー優しくてー」
「全然イケメンじゃないし!うざいです!」
「わーお。新婚さんなのにやべーじゃん!」
「別にいいですけど?」
ああ、もうイライラする。零さんのせいだ!
「まあお茶でも飲みなって」
くっそー、家に帰ったら零さんを問いただしてやる!
そう意気込んで、家に帰ると、玄関には知らない人の靴があった。男物だけど…。
誰?
どたどたと中へ入って行くと、
「よー元気?」
と言われた。零さんといるその人は、前青森の動物病院で会った、姉の同僚である。
「な、なんで?」
「柊先生は川中先生のご友人だそうです」
「それで?」
「柊先生は、川中先生のお宅に遊びに来られていまして、それで碧唯さんに紹介されまして。私の家に案内したところでした」
「そういうこと。佐賀さん、なんか雰囲気変わったな」
「は?」
「もっとガキっぽかったじゃん?」
「失礼な」
「姉と会ってんの?」
「まさか。知りませんよそんなやつ」
「あっそ、相変わらず仲悪いんだな」
「あの、柊先生はご結婚されていたのですね」
零さんが話題を変えた。ふーんだ、私の話に飽きたってゆーの?
「あーうんそう」
「碧唯さんに聞いて驚きました。おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。子供一人いるよ」
「そうなんですね」
「ちなみに川中くんちの子と同じ誕生日」
「そ、それは!運命ですね!」
「そうか?で?零くんところは子供は?」
「まだです」
「そーか。なんか子供似合わないな、零くん」
「そうですか?私は柊先生のほうが似合わない気がします」
なんで零さん、そんな強気発言してんの?川中先生じゃあるまいし。
「よく言われる。でも気にしねーよ」
「さすがです。奥様は職場の方なんですか?」
「うん、零くんの知らない人だけど。佐賀じゃないのは確かだな」
「それ、当たり前のことですよ?うちの姉なんてキモすぎますからね!もしそうだったら柊先生を嫌いになります」
「姉に容赦ないな」
「そうですけどー?」
柊先生と、しばらく話していたらチャイムが鳴った。
「僕が出ます」
気を利かせた零さんが玄関へ向かった。また川中先生かな?
零さんは部屋へ戻って来た。
「柊先生、奥様がいらっしゃいました」
「は?…おい、勝手に上がるなよ」
零さんの後ろからとても美しいモデル並みの身長の美女が現れた。
「川中くんとこ行ったらさー、ここにいるって聞いてさ!」
「お前桃川のとこ行ったんじゃなかったのか?」
「行ったよ?その帰りだけど?」
なんというか、イメージしていた人とは違う。柊先生地味だし、チビだし。もっとこう地味な人だと思ってた。
「いや、まずお前の知り合いじゃないじゃん、零くん」
「いいの!あんたの知り合いでしょ?」
なんか、ちょっと怖いお姉さん。きついっていうか。
「あら?」
なぜか私を見ている。どうしよう、なにこのガキんちょって言われるのかな。
「なんか、見たことあるのよねー」
「ないない。お前が知ってるわけない」
「うそ、見たことあるしー。あ!モデルさんじゃない?」
「はい、そうです!」
「やっぱり!雑誌に載ってた!かわいいー!」
なんだろう、この直球な言葉。こんな風に言われたことなかったし、ましてやモデルの私を知ってもらえてるなんて…嬉しい!
「あ、ありがとうございます」
「やだぁー若い!羨ましい!」
「はいはい、わかったから」
柊先生がなだめる。なんか、面白い!
「ねー雑誌に載ってるのは芸名でしょ?本当の名前何?」
「躑躅宝之華です」
「そーなの?やだ、私極秘情報手に入れちゃった!」
「全然極秘じゃないと思うけど?ま、お前ここ座れよな」
立って話していた奥様を座らせた柊先生。さりげなく優しい。
あ、奥さんのお腹大きい。
「赤ちゃん、いるんですか?」
「そうよ?」
こんな綺麗で美しい人の子供って、どうなるんだろう?いや、柊先生の子供でもあるから微妙になちゃうか。
「名前はねーアンソニーとか?どうよ?」
え、真顔…そんなありえない名前を本当に?
「ありえねーし」
柊先生の突込みが入った。
「いいじゃないのー私が考えたんだから!」
「ないね」
「柊先生は海外に通用する名前をお考えになっているのでしょうか?」
零さんはなぞの質問をした。なんでそんな考えに?
「うけるー零くん!」
ギャルのようなノリ。私にはついていけない。
「はいはい、人様の家でうるさいって。零くん、日本人の子だし、そんな変わった名前にするつもりはない」
と柊先生は説明した。その後、2人とにぎやかに話したあと遅くなったので帰った。
楽しい雰囲気が去って、ふと思い出す。
「零さん、昨日の話なんだったんですか?」
「え?なんでもないですよ?それより今日の夕食はなんですか?」
「…そうですか!適当に作るんでさっさと食べて下さい」
「は、はい」
もう怒った。なかったことにしようとしてる!
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