第100話 難儀な時間

 未冬からの時折の電話は、彼女が卒団するまで続いた。その時によって若葉や北斗たち他のチームメイトの声を聞かせてくれたりもした。

 懐かしいチームの雰囲気を感じられて嬉しかった反面、もうそこにはいない自分を意識する。戻れないことを思い知らされている気がした。

 やがて夏南の学年が進級し、未冬たちの学年が高校入学という大きな節目を迎えた後には、その連絡も無くなった。

「あたしは寮に入るから、今までのようには連絡とれなくなるけど、あんたもそっちでがんばるんだよ。」

「はい。先輩も高校生活頑張ってください。」

未冬とのその会話が最後の電話となってしまった。

 しかし未冬からの電話が途絶えると、同級生の郁海や若葉が時々メッセージをくれるようになったのだ。そこはやはり、同じ受験生という立場ゆえの一体感があるのだろう。この三人でのやりとりばかりが増えている。

”ねぇ〜、夏南はちゃんと勉強してる?成績いいんだったよね?”

”フツーにしてるよ。”

”ちょっと教えて欲しいんだけどさー”

 などとメッセージが入ってきて、質問したり答えたりなどというやり取りが時折行われた。当然ながら進路相談もあった。

”夏南は市立?私立??偏差値なんぼ?”

”いや、直接偏差値聞くとかないっしょ。公立と私立両方考えているよ。”

”そっか〜、ウチ、公立無理そうよぉー。どうしよー”

”未冬先輩がいる高校、受験すればいいじゃん?若葉や郁海ならサッカーで行けるよ、きっと。”

”どーかなぁ、あれ、先輩だから受かったんでないの?ウチなんか無理無理。それに、寮生活ってのが〜、ちょっとねぇ。”

 未冬からはあれから一度も連絡がない。それだけ寮生活は厳しいものなのだろう。夏南からはメッセージを一度送ったが、返信は無かった。タイミングを逃すと、返信もしにくくなる。

”夏南は、本当にサッカーしてないの?”

”女子サッカー部ないんだ。やりたかったけど。”

”そっかー・・・出来たら、同じ高校受けたかったんだけどな。でも、夏南のが頭良いからウチには無理かぁ。”

”偏差値というより、通学圏という意味で難しいかもね。”

”そんなことないよ。ちょっとくらい遠くてもウチ通うよ?夏南とまたサッカーしたいもん。言ったじゃんか、ウチらうまくやっていけるよねってさ。ああ〜でも、成績がなぁ。夏南の成績、今の中学でもいい方なんでしょ?”

”フツーだよ。”

 メッセージのやりとりはときに深夜にまで及び、双方の親に注意されることもあった。夏南の叔父と叔母はあまりうるさくは言わないけれど、夏南自身のほうが気を使う。まだ幼い従兄弟がいるからだ。

 そうやって互いの不安をぶちまけながら、受験生という難儀な時間をどうにか消化していくのだ。





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