第19話 呼び出し

 寄り添うようにくっついて合宿所に戻ってくると、夏南が遠慮がちに未冬から離れていく。そして、借りていたジャージを脱いだ。

「ありがとうございました。」

 まだ顔が赤い気がして、余り顔を上げられない。

 そんな後輩のことを知ってか知らずか、未冬は機嫌良さそうだ。

「うん。風邪ひくなよ。」

 会釈をして、その場を離れようとする夏南に、再び未冬は声をかける。

「あのさ、あと寝るだけだろ。ちょっとあたしンとこ来なよ。」

「え?」

「三年生は監督んとこ行くっていうからさ、あたし一人なんだ。ちょっと話そうぜ。なんつーか・・・色々。」

 確かに部屋割りはくじ引きで、学年ごとの区切りではなかった。

 未冬の部屋は彼女以外全員三年生とは。仲が悪いようには思えないが、一応、未冬も先輩には気を遣うのだろうか。

「未冬先輩は、監督のところへは?」

「・・・三年生は、もうすぐ引退つーか卒業じゃん。あたしも気を使ってんの。」

 監督との名残を惜しむ最上級生に、気を遣う。

 少しばかり意外だと思ったが、先程だって彼女は夏南に気を使ってくれたのだから、当たり前だろう。

「わかりました。上着取ってきます。」

「おう、待ってるよ。」

 一人で寂しいのなら、同じ二年の弥生や早苗と一緒にいればいいのにとも思うけれど。

 未冬はきっと寂しいから夏南を誘ったわけではないのだろう。

 部屋に戻ると、確かに、杏子先輩がいない。監督の元へ行ったのだろう。

 もうすぐ三年生が出場できる公式戦が終わってしまう。そしたらもう、彼女らは公式戦に出ることはなくなるのだ。

「三年なんて、あっと言う間だよ」

 入団の時に監督がそう言っていた。

 きっと三年生もいま、そう実感しているのかも知れない。

「どこいくの、夏南。もうすぐ消灯だよ?」

 北斗がパジャマに着替えながら尋ねる。

「・・・未冬先輩に呼ばれて。多分、またお小言かも。」

 荷物の中から長袖を引っ張り出しながら答えた。

「未冬先輩は、本当に夏南のことが気になるんだね。・・・もしかしたら、実は好かれてるのかも知れないよ?」

 ピンクのルームウェアに着替えた若葉が、髪をいじりながら言う。

 くわばらくばわら〜などと言ってスマホを見始めた北斗。その向こうには着替えをきちんと畳んでいる早苗先輩。若葉が、ブラシを枕元に置いた。

 全員分の布団は既に敷いてある。三年の杏子先輩以外は在室だ。

「いってきます。」

 小声でそう言って部屋を出た夏南は、ジャージのポケットにスマホを入れた。

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