第11話

涙が落ちたのは、俺も、彼女もだった。

顔を俯かせて彼女の顔が目に入らないようにした。


悔しかった。

だって俺が担当するやつは碌な奴がいないって言ったけど、それは裏を返せば俺が見る目がないのと、しっかり管理してやれてないからだ。

採用したのに、これから頑張っていこうなっていったのに、それを俺がもう無理って思って捨てるって事だ。

無責任にも程がある。

アドバイスもある程度マニュアル通り。教科書から脱しないそれだけしか、していなかったのかもしれない。

でももう限界なんだ。

俺に才能がなかったのかも知れない。

いい人材を持っても、俺がダメなのかも知れない。

一番、その人に合わせたコーチングが出来ていないワガママ放題は、俺の方だったのか...。


「...。」


シン...と静まり返っていた。

シュンシュンとお湯が沸いてきている音がする。

もうこれ以上俺には話すことも、話す権利もない気がしている。

ムカつきと情けなさと、静かさが相まって、尚、声を出しにくくしている。

俺は涙を拭った。

袖が濡れた。

彼女が買ってくれたジャケットが濡れた。


恐る恐る顔を上げて、彼女を見た。

無表情のままひとつ、また一つとこぼしていた。

目線はよくわからないところを見ていた。

瞬きする度に、溢れていた。

頬から顎まで、いや、顎から下に滴っていた。

...俺には、わからない。

なんで泣いているかも、なんでそんなに表情がないかも、なんで反論しないかも。


彼女という人間を知ろうとしたことが、ない。

どうせ仕事。

社会人として当たり前。

女ってこういうものだろ。

人としてこういうものだろ。

全部当てはめて考えていた。

当てはまらないと異星人感覚で話した。

何を考え、何を感じ、何に感化され、どうなりたいか、知らない。


やっぱり、俺には向かない仕事だったのかな。


「...ごめんな。」

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