第11話 名目

 僕が広場にたどり着くと、そこにはもうたくさんの人だかりが出来ていた。

 わざわざ、王都から司祭を呼んで来て、無料で【天啓の儀】を受けさせるなんてことは、他の貴族はもちろん王都ですら行われていない。

 そこには、平民に力を与える必要はないと考える貴族特有の選民意識が大きく作用しているのだ。

 要するに、下手に平民が自らの力に気づくと、反抗される虞があるというのが根本に存在している訳だ。


 僕はなんと浅はかな考えだろうと思う。

 かつて、戦国武将で有名な武田信玄が『人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり』という言葉を残している。

 これは、人すなわち『人材』こそが最も大切なものであることを説いていた。

 仮に立派な城があっても、そこにいる人の力が無ければ役に立たない。

 国を支える一番の力は人の力であり、信頼できる人の集まりは強固な城に匹敵する、というものだ。


 まさにそのとおりで、こんな辺境の地においては、住民ひとりひとりの力がどれほど大切か。

 そこで僕は領地の懐が暖かくなってきた数年前から、子爵領の住民全員に対する天啓の儀を行うことにしたのだった。

 そこにかかる費用は一切が『アキュラ家』持ち。


 対象は天啓の儀を行う当日時点で、全て。

 ずるい言い方をするならば、当日に宿屋に宿泊している者もそこに含まれる。

 いちいち選別するのも手間がかかるので、以前にそれを許可したら、今ではそれを狙ってやってくる者も少なくなかった。


 それ故の大盛況。

 今では当領地における数少ないイベントのひとつとなったのであった。


 どっちみち、司祭様には期間中の天啓の儀は人数制限はしないとの約束で来てもらっているので、多少人数が増減しても問題はない。


 近年では、ウチの領民たちもそれを弁えていて、お祭り料金……要はボッタクリ価格で客を受け入れているとか。

 なかなか強かな人々だと感心したものだ。


「テメエ!とっとと並べっつて言ってんだろうが!」

「んだと!?」

「この領地でいきがるなよ!」

「ヤんのか?」

「あ゛あ゛!?」


 そして、儀式が始まる前から、すでにトラブルが発生していた。

 順番を守らずに我先にとやってきたと、それを整理していた領軍兵士たちが殴り合いの喧嘩を始めていた。


 それなりに高ランクと見られる冒険者のと、素手で殴り合って圧倒している兵士。


 この場合、高ランクと渡り合うなんてたいしたものだと褒めればいいのか、兵士が率先して殴り合うなよと諌めればいいのか……。


 あっ、冒険者のの仲間が参戦した。

 こっちは、屋台を出していた【ミモザ】や、見物に来ていた以前からいる者たちが加わった。


 ああ、今年もか……。


 人が集まれば何かと問題は発生する。

 そして、それに喜々として殴り合いを挑む戦闘狂バーサーカーたち。


 僕は毎年の恒例行事ともなってしまった大喧嘩に、思わず頭を抱えるのであった。 



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


なかなか儀式にたどり着かない……。


次回こそは、権能スキルにたどり着きたいなと……。


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