だから僕はフローラ派と争うのを辞めた

 スーパーファミコンソフト『ドラゴンクエストV-天空の花嫁-』(以下、ドラクエV)の発売から30年が経ったというネットニュースを見かけて度肝を抜かれ、本当は全然別のテーマで書く予定だったのだけれど、急遽、これを書き始めた。ライブ感を大切にしたところで誰も得しないのだけれど。

 ドラクエVは、僕の人生を変えたゲームのベスト3に入る(いずれ、他の作品についても語ることがあると思う)。何しろ、スーパーファミコンを買った理由が、「友人の家で見たドラクエVが面白過ぎて自分でもやりたくなったから」だし、久美沙織の書いた小説版だってむさぼるように読んだ。PS2版、DS版とリメイクされるたびに迷わず買ってプレイしたし、評判の悪い映画版の存在からは未だに目を逸らし続けている。そんな、本当に大好きな作品なのである。

 ドラクエVで何が一番好きかといえば、モンスター仲間システムである。倒したモンスターが起き上がり、仲間になりたそうにこちらを見てくるのである。こんなにわくわくするシステム、他にない。新しいモンスターが出てくるたびに、「もしかしたら起き上がるかもしれない」と期待できるので、冒険中、常に楽しいのである。仲間になる可能性があるのは決められた一部のモンスターだけなのだが、リメイク版でその種類が大幅に増加したので、製作者は「わかってる」人達である。僕は、モンスターのステータスにあまり頓着せず、好きなモンスターを連れ歩くタイプのプレーヤーなので、メッキ―(キメラ)とジュエル(おどるほうせき)は絶対に最終メンバーに入っていた。リメイク版ではそこにサイモン(さまようよろい)が加わった。本当はロビン(キラーマシン)もかなり好きで、積極的に使っていきたいのだが、起き上がる確率が低すぎたので、クリア後にやりこみの一環で仲間にすることになるのが常だった。

 さて、ドラクエVにおいて、モンスター仲間システムとは別にもう一つの画期的な代物があって、それがつまり、今回の本題でもある『結婚イベント』である。主人公が、物語の中でビアンカとフローラ、二人の女性のどちらと結婚するのかを、プレーヤーが選ぶのである。それによってメインのストーリーが分岐するということはなく、細かい部分で差はあるものの、一番大きな違いは「後に生まれる息子と娘の髪の色」くらいなので、完全にプレーヤーの好みが試される究極の選択だ。DS版からは、第3の選択肢としてフローラの(それまで存在しなかった)妹のデボラまで加わり、「誰を選ぶか」論争は、さらに激しさを増している。

 かくいう僕は、ビアンカ派の中でも過激派の人間で、SFC版の頃から、「ビアンカ一択」であると主張してきた。リメイク版含めて、何度もプレイしてきたが、ビアンカ以外選んだ試しがない。SFC版で結婚イベント直前でセーブデータを分けて、その両方でビアンカと結婚したくらいである。まずもって、フローラにはアンディというお相手が既に用意されており、主人公が結婚する必要がない。恋愛相関図は主人公-ビアンカ、フローラ-アンディの組合せで過不足なく完成し、事実、ビアンカと結婚した暁には、そのような2つのカップルが成立するのに対し、フローラと結婚してしまうと、ビアンカは山奥の村で孤独に暮らし、アンディもネトラレによって脳を破壊されて廃人同然になるしかないという、衝撃のバッドエンドの構図になってしまう。フローラは、天然気味のお嬢様キャラということで、キャラクターとしては愛すべき存在だと思うし、結婚した場合、覚える呪文がビアンカより強い、父親である富豪のルドマン氏から様々な宝物の援助があるなど、ゲームをプレイする上での多少の有利もあるのだが、それでも、第一選択としてフローラを選んでしまうやつは人間の皮を被った悪魔か何かだと思っていた。

 ただ、「ビアンカは幼馴染みのようなふりをしているけど、実際にはたかだか数日間、一緒にお化け退治をしただけだ」とか、「主人公のことを好きなくせに、他の人(フローラ)との婚約指輪探しの冒険を手伝うとか言い出すのがあざとすぎて無理」といった意見は真摯に受け止めなければならない。そもそも、アンディがいるから、という理由でフローラを選ばないことや、結婚しなかった時のビアンカが悲惨すぎて可哀そうだからビアンカを選ぶということは、予断によって選択を歪められており、好ましからざる状況である。例えば、仮にフローラを結婚相手に選んだ場合「ビアンカはひょんなことから意気投合したアンディと結婚して慎ましく幸せに暮らします」という展開になるのだとして、それでも「ビアンカを絶対に選ぶ」と言えるだけの愛がそこにあるのか、という話だ。……正直、僕はそれなら必ずしもビアンカを選ばなくても良いような気もしていて、「ビアンカ派」の僕を支えていたのは、どちらかといえば、独りになるビアンカへの同情とか、余り者はない方が良いというカップル厨特有の論理によるものだったようなのだ。まあ、仮にそんな設定であったとしても、「10:0でビアンカ」だったものが、「6:4でビアンカ」くらいになるというのが正直な話で、一応、ビアンカを選びそうではある。短期間一緒にお化け退治をしただけという批判はあれど、僕の中で、幼馴染みという設定の好感度は、お嬢様属性のそれを上回るのだ。何より、これまでの人生で何度も何度も結婚相手に選んできたという、メタ的な絆も芽生えており、「ドラクエVのヒロインはビアンカ」という構図が強く脳に刻み込まれてしまっている。重症である。


 とりあえず、今や、多様性を尊重する時代である。過激派のビアンカ派ではなく単なるカップル厨だったらしい僕は、今後は、フローラ派にも理解を示し、歩み寄っていきたいと思う。

 ……そして、いずれはフローラ派と一致団結し、新参者のくせにわかったような口を利くデボラ派を駆逐したいと、そのように考える所存である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る