493 クロエの誕生日(後)



 「みなさん‥‥ご迷惑をおかけしました‥‥」


 「ホントダゾ!」


 ふだんの腹いせだろうな。珍しくデーツが1番に応えたよ。


 「お兄ちゃんもう歌っちゃだめよ!」


 「私夜が怖くなったんだから!」


 「「約束だからね!」」


 「はい‥‥」


 クロエとアリサの2人がマジ顔で俺を非難した……。


 「アレク‥‥あんた父ちゃんか母ちゃんがゴブリンだったんさね。ヒッヒッヒッ」


 ゴブリンじゃねーわ!


 「アレクよ‥‥まぁどんまいだ‥‥クックック」


 オヤジが俺の肩をポンポンと叩く。あーあの憐れみいっぱいの顔だよ!オヤジ……。







 「じゃあ気を取り直して‥‥クロエ蝋燭の火を消してくれよ。一息にな」


 「うん!」


 ケーキに顔を近づけてクロエが蝋燭に息を吹きかける。


 「フーーーッッ!」



















 「あれ?」


 「フーーーーーッッ!」



 よしよし。炎は揺らぎこそすれ消えないぞ。


 「あれれ?消えないなぁー。なんでかなぁー。不思議だなぁークロエ」


 「フーーーッッ!」



 「フーーーッッ!」



 「フーーーッッ!」


 「アレクお兄ちゃんぜんぜん消えないよ!」


 「そうだなクロエ」


 「どうしよう?」


 「お兄ちゃん?」


 心配そうにアリサも声を上げる。


 「ワシがやろうか?」


 オヤジが口を窄めて近づいてくるが‥‥


 「オヤジはダメだぞ!これはクロエが自分で消さなきゃいけないんだから」


 「へぇーそうなのか」


 「ああクロエが1人でやらなきゃだめなんだ」


 「「「‥‥」」」



 「クロエ、自分でできない、俺たち家族も手伝えない、そんなときってどうしたらいいと思う?」


 「うーんと‥‥お兄ちゃんに憑く精霊のシルフィちゃんに手伝ってもらったらダメなの?」


 「まぁクロエちゃん!私を頼ってくれるのね!うれしいわ!だけど‥‥クロエちゃんには私じゃない誰かがいるんじゃないかしら?」


 「えっ?!シルフィちゃんじゃないの?」


 「ええ私じゃないわ。クロエちゃんにも誰か大切なお友だちができたんじゃないかしら」


 「ん?」


 「(アレク、クロエは誰と話をしてるんだ?)」


 「(アレクお兄ちゃん?)」


 「「「(アレク?)」」」


 「(しーーーっ)」



 「えーっと私どうし‥」


 クロエが自然と振り向いたんだ。

 そこには。





























 水の精霊ウンディーネがいた。


 「メルティーちゃん!」


 「クロエちゃん!」


 クロエが水を掬うように広げた両手の中にすぅーっと入ってきたウンディーネ。


 「かわいい名前を付けてくれたのねクロエちゃん!」


 「うん!だってメルティーちゃんはメルティーちゃんだもん!」


 ふふふふふ

 フフフフフ



 クロエに水の精霊ウンディーネが憑いた瞬間だった。


 「メルティーちゃん火を消してくれる?」


 「ええもちろんよ!」


 「アレクお兄ちゃんもう1回やってみるね!」


 「ああクロエ。やってごらん」


 「うん!」


 「フーーーッッ!」


 ジュッッ!

 ジュッッ!

 ジュッッ!

 ジュッッ!


 蝋燭の火が立ちどころに消えた。

 ウンディーネのメルティーちゃんが蝋燭の火元にわずか数滴の水を翳したんだ。


 「消えたわ!」


 「消エタ!」


 「消えたぞ!」


 「消えたさね!」


 「やったー!消えたよアレクお兄ちゃん!メルティーちゃんありがとう!」


 「よかったわクロエちゃん」


 「うん!」


 「よかったなクロエ。クロエにも大切な友だちができたんだ。お兄ちゃんと同じだよ」


 「うん!」


 「クロエちゃん私ずっとクロエちゃんを見てたんだよ」


 「ごめんねメルティーちゃん気づかなくって」


 「いいわよ。でももうずうーーーっと一緒にいるんだから」


 「うんメルティーちゃん。ずーーーーーっと一緒よ!あのねメルティーちゃん‥」


 「なにクロエちゃん‥」









 「アレク一体‥‥?」


 「あのなオヤジ。クロエに水の精霊ウンディーネが憑いたんだよ」


 「精霊憑き‥‥神話の世界をクロエが‥‥」


 「ああ。俺と同じさ」


 「アレクドウイウ意味ナンダ?」


 「俺と同じなんだよデーツ。

 俺には風の精霊、クロエには水の精霊が憑いたんだ。昔と違って今じゃ帝国どころか中原で人族に精霊が憑いてるのは俺以外ほとんどいないぞ」


 「何か困ったことにならないのか?」


 「あるわけないだろ。家族以外で1番の理解者なんだぞ」


 「ソレッテ大丈夫ナノカ?」


 「大丈夫もなにも、自分にとって最強最高の親友が歳をとってもいてくれるんだぞ。いいことづくめさ」


 「ソウナノカ‥」


 「ああしかも精霊魔法が使えるからな。クロエは学園に入ったとたん6年間余裕で1位だぞ」


 「それでクロエが!そういうことかアレク!」


 「ああオヤジ」


 「アリサとクロエ。魔力より武力至上の帝国で、とんでもない魔法を発現できる姉妹が誕生したのさ」


 「あ、ああ‥‥クロエ、アリサ‥‥あゝうおおおぉぉぉーーーーーっ‥‥」


 「だからオヤジは泣きすぎだっちゅーの。鼻水!うわっ!汚ねぇ!」





 ▼




 「じゃあみんな座って。ケーキ取り分けるからな」


 「「はーい」」


 もちろんシルフィとメルティーちゃんの分も用意したよ。めちゃくちゃ小さなお皿に爪楊枝よりも小さなナイフとフォークを用意して。


 「美味しいね〜メルティーちゃん」


 「美味しいわシルフィちゃん!」


 「(デーツお兄ちゃんフォークが2つも浮いてるわ。ケーキが‥‥)」


 「(アア俺ニモ見エテルヨ‥‥)」


 わいわい

 わははは

 ふふふふ



 「(ありがとうなアレク)」


 「(何言ってんだよオヤジ。こんないい家族の中に入れてくれて俺こそありがとう)」


 「(まぁお前も息子だからな。ただ‥‥あの歌はクックックねぇなぁ)」


 「(あーもう言わないでー)」





 ▼




 「じゃあクロエ」


 「なぁにアレクお兄ちゃん」


 「みんなからクロエに誕生日プレゼントだぞ」


 「みんなが用意してくれたの?」


 コクコク

 コクコク

 コクコク

 コクコク

 コクコク


 「ありがとう!」


 「じゃあバブ婆ちゃん」


 「クロエ様、婆のプレゼントもらってくれるかね」


 「ありがとうバブお婆ちゃん!開けていい?」


 「もちろんさね」


 俺が用意したプレゼント用の箱を開けるクロエ。


 「なにかななにかな‥‥うわぁ帽子ね!」


 両手で大事そうに抱えたアリサが顔いっぱいに笑顔を表した。

 それは青いニット帽だ。


 「被っていい?」


 「もちろんさね」


 「どうかな?」


 クロエの青い瞳に栗色の髪に被った青いニット帽がよく映えた。


 「クロエすごくよく似合うわ」


 「ぴったりだ!」


 「ああかわいいぞクロエ」


 「カワイイ」


 「ありがとうバブお婆ちゃん!大事にするね」


 「喜んでくれて私もうれしいさねクロエ様」


 事実クロエは長くその帽子を被っていた。真夏以外、外出にはいつも被るくらいに。


 

 「さあ次はデーツからだ」


 「デーツお兄ちゃん!」


 「ホラクロエ」


 「ありがとうデーツお兄ちゃん!」


 照れながらデーツが手渡したのは木箱に入った絵だった。絵の額装と木箱はもう用意してあったからね。


 「デーツお兄ちゃんが描いてくれた絵だね!」


 「ソウダヨ」


 いそいそとクロエが木箱の蓋を開ける。


 「!」


 「デ、デーツお兄ちゃん‥‥あ、ありがとう‥‥うっうっうれしい!とってもとってもうれしいの‥‥」


 クロエが木箱ごとその絵を大事そうに胸に抱えた。


 「クロエ私にも見せて」


 「うんアリサお姉ちゃん‥‥」


 「!そっくりよクロエ‥‥よかったね‥‥」


 「うん!お部屋に飾って毎日母さまとお話するね!」


 「それがいいわ」


 コクコク



 それは絵の上手いデーツ渾身の絵画だった。

 庭の噴水側の椅子に座る女性とその膝に乗る赤ちゃんじゃない現在のクロエ。

 栗色の髪に青い瞳の美しい2人。背景の噴水周りには青い花が咲いていた。


 「まだ元気だった母様は赤ちゃんのクロエを抱いてここによく座っていたのよ」


 「青イ花ハ母上ガ好キダッタ花ダヨ」


 「デーツお前すごいよ。これ才能だぞ!お前絵描きで食ってったらいいじゃんか」


 思わずそう言った俺にデーツは呟くように言ったんだ。


 「(それじゃだめなんだ。俺も強くならなきゃ‥‥)」




 「次は俺だ。俺からはこれ、はいランドセルだよ」


 「ありがとうアレクお兄ちゃん!らんどせる?」


 「ああ。来年の春には学校に持ってく教科書やノートも増えるからな。それを入れて通学するランドセルだよ」


 「ありがとうアレクお兄ちゃん!大切にするね!」


 「クロエ、わしにも見せてくれるか」


 「はい父さま」


 「(これが調達課の‥‥なるほど‥‥よくできておるわ)」



 来年の春からはクロエもこのランドセルを背負って通学するんだろうな。



 「次はオヤジだ」


 「ク、クロエ‥‥わし何を送るかずっと悩んでてな‥‥これもらってくれ」


 それは木の人形だった。うさぎを象った木の人形。

 王国でもふつうにある赤ちゃんが口にしても大丈夫な少し大きめの幼児用の玩具。


 「(アレクお兄ちゃん‥‥)」


 「(ああ‥‥アレ赤ちゃん用だよな。ないわー)」


 「(デーツお兄ちゃん、バブーシュカ‥)」


 「(ナイナ‥‥)」


 「(ないさね‥‥)」


 たぶんオヤジの中でクロエは赤ちゃんのまま時が止まってだんだろうな。


 「かわいいっ!父さまありがとう!」



 「「「!!!」」」


 「「「(クロエ!なんていい子なんだ!)」」」




 「最後はアリサだ」


 「はいクロエ」


 アリサがジュエリーボックスを手渡した。


 「なぁにアリサお姉ちゃん?」


 「開けてごらん」


 「うん!」

 


 ―――――――――――――――



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