387 煽る



 「鎮台殿。実はの、こちらに来るまでにわしらは2度ほど賊に襲われたんじゃよ」

 「そそそそそれは‥たたたたたいへんでございましたな‥」

 「最初は明らかに木端の賊が10人じゃ。で2度めはな、どこぞの騎士団みたいな連中を含めて100人くらいじゃったかの」

 「‥‥」


 立ち並ぶ騎士団員の中に目線が泳ぐ者がいた。


 「いやいやすまんな鎮台殿。違うの。わしは年寄りじゃからな。きっと目も悪くなったんじゃな。まさか誇りある騎士が賊紛いのことをするわけはないわな。うんうん」

 「一応聞くがの鎮台殿。わしらを襲えと言わなんだかの?」

 「めめめめめ滅相もございません!」

 「ではの。わしらを襲った賊にこのアネッポの人間はおらんというのだな?」

 「あああああ当たり前でごごごごございます」

 「今おるこの謁見の間にもおらんのじゃな?」

 「おおおおおりませぬ」

 「ふむ……」












 「ほれそこに隠れておる男。そう今ビクッとしたお主じゃ。そうお主じゃよ。前に出ようかの」

 「ミミミミミーざますか?」

 「そうじゃ。お主じゃよ」

 「鎮台殿この男はお主の配下かの?」

 「いいいいいえ。違います」

 「ではただの賊と考えてよいのじゃな?」

 「いいいいいえ、其奴はたたたただの商人でして、そそそそ其奴がぞぞぞぞ賊などとは‥‥」


 さっきから話がぜんぜん進まねえよな。ロジャーのおっさんのせいだからな。


 「(少しやり過ぎたかな)」

 「(そうだよ!やり過ぎだよおっさん)










 「止まれ!ああお主じゃ。動くでない!そうお主じゃよ。また証人を殺されてはたまらんからな」

 「!」

 「鎮台殿」

 「ななななななんでございましょう」

 「お主の息子も100人の賊の中に入っておらなんだかの?」

 「ああ私見た覚えがあります!」

 「そうじゃのサンデーちゃん。わしら見た覚えがあるよのぉ」

 「!」

 「!」

 「「‥‥」」


 あーさすがの水樽も黙ってしまったよ。もちろん水樽ジュニアの爬虫類男も。


 「申し開きはあるかの?」

 「老師様私にはなんのことだかわかりかねます」

 「ろろろろ老師様。愚息もこここここう申しておりますればその‥」

 「この血の気の多い若者は鎮台殿の息子であったか。ふむふむ‥」






 「まあよい。それもわしらの勘違いかソックリさんでもおったんじゃろ。まさか大の大人がたった1人の子どもにやられて逃げるわけなどないからの」


 「!」

 「!」

 「!」

 「!」

 「!」

 「!」

 「!」

 「!」

 「!」


 変なざーます男も。水樽ジュニアの爬虫類男も。この場にいる何人もが驚きの顔をしたんだ。


 「そうですわ先生。まさか騎士団の方や鎮台様のご子息が子ども1人にいいようにやられたなんてあり得ませんわ。そんなの中原中の笑い者ですわ」

 「ワハハハハ。ああああ。サンデーちゃんの言うとおりじゃの。100人からの大の大人が子ども1人にやられては話にならんくらい弱すぎるわの。ワハハハハ。うん、そうじゃ。わしの見間違いじゃよ」


 ワハハハハ

 フフフフフ


 そんなあからさまな嘲りでアネッポの領都騎士団を馬鹿にする話にロジャーのおっさんも乗っかったんだ。


 「うん?老師それってまさかウチの狐のことか?100人の賊ってのはやっぱり老師の見間違いじゃないのか。ただの寄せ集めの賊だぞ。いくら弱いとはいっても騎士団員だったんだろ?騎士団員がウチの狐にやられるわけはねぇだろうが」

 「ふむ。ロジャーの言うとおりじゃの。だがの‥‥賊は騎馬で襲いかかったんじゃぞ?騎馬の騎士団が子ども1人にやられるようでは民を守れんだろう?」

 「そうだな老師。たしかにそういえばそうだなあ」

 「ふむ……」

 









 「わかったわい!騎馬ということは馬に乗る練習をしていざ有事となれば民を盾に逃げる手合いかもしれんな」

 「おっ!さすが老師だ。それが正解かもしれんぞ」

 「そうじゃのロジャー」


 わはははは

 ワハハハハ


 「もう2人とも!仮にも騎士様ですわよ。それを手合いって。でも‥‥ええたしかに子ども1人にやられて逃げ帰る、しかも鎮台様のご子息にそっくりの輩も‥‥ええ本物じゃなさそうですわね」


 謁見の間に不穏な空気が流れる。それは先ほどまで恐怖に震えていた人たちが怒りに燃える心持ちの表れだ。


 「答えがわかりました!先生、ロジャーさん。騎士団員でもご子息でもありません。絶対違いますっ!100人いたあの人たちぜんぶ、特に騎士団員っぽかったのは騎士団員を真似た猿ですよ!猿!」

 「ああなるほど!そうかサンデーさん」

 「なるほどの!サンデーちゃん。素晴らしい推理じゃの。そうじゃ猿じゃ猿!あやつらはどこぞの騎士団員を真似た猿じゃ!

 すまんの伯爵。猿と貴公の配下の者たちを勘違いしとったわ」

 「先生もう間違えてますよ。それじゃあ伯爵様がお猿さんを飼ってるみたいじゃないですか!」


 わはははは

 フフフフフ

 ガハハハハ

 

 「やっぱり猿としか考えられませんよ。よーし!私王都に帰ったらミカサ商会も含めて中原中に話を広めます!ヴィヨルドの北あたり。アネッポには騎士を真似た猿がいたって!うんそうでなきゃ100人の大の大人が子ども1人に負けるって考えられませんもん!」

 「そうよのサンデーちゃん」

 「ロジャーさん。あらためて聞きますけどロジャーさんとこの狐君って?」

 「おおロジャー。わしも聞きたかったわ。主のとこの狐君は?」

 

 「ん?ハンスか?」
















 「こいつは1年生だぞ?」

 「本当じゃろうの?」

 「ああ。こんなこと嘘言っても仕方ないだろ。ハンス、ああ狐は1年生だぞ?」

 「そうか。てことは‥‥」


 わはははは

 フフフフフ

 ガハハハハ


 ここに鉤爪まで乗っかったんだ。


 ワハハハハ

 わはははは

 ワハハハハ


 「ヒィーヒィー腹いてぇ」

 「笑えるよなぁジェイブ」

 「おおよゲイル。1年生の狐の兄貴に大の騎士団員がメッタメタだってよ。なぁフランクリン」

 「違うぞゲイル。騎士団員じゃねぇ。猿だ猿!」


 ワハハハハ

 わはははは

 ワハハハハ



 鉤爪の大爆笑。正直あんまり強くない冒険者の3人組の大笑いだから‥‥うんめちゃくちゃ腹たってるだろうなアネッポ領の領都騎士団の連中。煽りまくってんなぁ。


 「あまりに弱過ぎじゃのぉロジャー」

 「老師。狐は学園の1年生だからな。てことは100人の猿の賊は真面目にヴィヨルドの1年以下のレベルだな。ウチの領の騎士じゃ‥‥まったくありえんな」

 「そうじゃのロジャー。猿が服を着とってはいかんじゃろうな。ではどうじゃ?学園生の出来の悪いもんたちをこちらで雇ってもらうかの?」

 「いーねー老師。ウチの領にいたら屋台で肉売るか荷物運びくらいしか仕事がねぇからな」

 「どうかの鎮台殿?ヴィヨルドから学生を雇っては?わはははは」


















 「老師、ロジャー殿。訂正していただきたい!」

 「「「いただきたい!」」」


 憤怒の形相の騎士団員が皆、前に出て声を上げたんだ。


 まじか!このまま闘うことになるのか?!



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