295 野営と砲弾の雨



 「じゃあ今日はこのまま野営をしようか」

 「任せてください」

 「アレク君お願いね」

 「はい」

 「今日はいつもと違う野営陣地ですからね」

 「あらそうなの?」

 「アレク野営食堂じゃないの?」

 「あははは。今日はちょっと小さめなんだ」

 「「「?」」」

 


 ゴーレムは昼も夜も関係なく襲ってくる。でも土魔法で対ゴーレム用の野営陣地が作れる俺にはぜんぜん問題はない。そう言いたいところなんだけど、ここにきて正直魔力が不安になってきた。それは疲れからなのか、満タンにならないガソリンみたいなものなんだ。今夜にでもみんなに話そうと思っている。



 42階層野営陣地。

 いままでの野営食堂は魔獣の侵入を防ぐ高い柱の建屋に3重の堀が外周を守る仕様だった。でもここではまったく違った仕様が求められると思う。

 ゴーレムのみ襲ってくるこの階層に聳え立つ男子寮は必要ないんだ。必要なのはゴーレムの岩や石礫からの攻撃に耐えられる外壁を持つ野営陣地なんだ。

 だから正解は地下に構築するのが望ましいんだと思う。地面から上に露出している部分は少なめにして地下を広めにした構造のもの。


 頭の中でイメージするのは塹壕っていうか分厚いコンクリート製のトーチカ。地面からわずかに屋根だけが見える半地下のドーム型野営陣地だ。


 大きさはこれまでの最小。畳20畳程度プラストイレとシャワー室。その上でとにかくトーチカの上部を厚くすることに魔力を極振りした。これなら岩石をどれだけぶつけられても大丈夫だろうから。

 シンプル仕様の野営陣地。なにより気をつけたのはこれまでの3階建男子食堂より消費魔力を少なくしたんだ。


 「いでよトーチカ!」


 ズズーーーーッ。


 イメージどおり。砲弾の直撃を食らってもぜんぜん平気な円型トーチカ。入口も螺旋階段で地下1階に降りる感じにした。


 「うわぁ、いつもと違うねアレク君」

 「これでも本来のものよりかなりでかいがな。」

 「アレクこれって‥」

 「やっぱりアレク君もなのね‥」

 「あははは‥」



 ▼



 「「「お帰りー」」」

 「「「ただいまー」」」


 「アレク野営は俺たちも一緒で大丈夫か?共闘にならないのか?」

 「はいタイガー先輩。ゴーレムだけだから大丈夫です。こちらから仕掛けるつもりもありませんし」

 「まあお前が大丈夫って言うんだから大丈夫なんだろうがな」

 「はい。あははは」



 トーチカの外に発現した堀も初の2重仕様だ。理由は魔力温存のためもある。今までの3重と違い2重にしてかなり深く掘った。それも落ちたら外に出られないくらいに。もちろん底には槍衾をつけてある。



 「でもいつもと型がぜんぜん違うよな」

 「はい。投石してくるゴーレムに耐えられる厚さの屋根にこだわりました」

 「「「へぇー」」」

 「それよりも何かあっても守護神様2体が護ってくれますよ」

 「おおよ!まかしとけ!」

 「あらオニールったら‥」


 クククッ

 フフフフ

 ププッ‥


 マリー先輩やリズ先輩、オニール先輩がクスクスと笑っていた。



 「ただですね、ちょっと心配な点があって‥‥」


 俺は気になっていることを素直に話した。



 「階層にいる時間が圧倒的に増えましたよね」


 41階層も今いる42階層も滞在時間が増えている。この階層も野営が何日か続くだろう。おそらく今後も長く野営をする気がする。


 「食糧も減ってきました」


 現地調達できる食材も皆無な以上、食糧はみるみる減っている。


 「このまま何も補充できなければ食糧はあと1か月はもたないと思います」

 「だよね」

 「そうなるよね」

 「やっぱりな」

 「まあ仕方ないよな」

 「残念だよね」


 だからお楽しみの食事も一気に節約レシピになったのも仕方ない。



 「でも俺がいちばん気になってるのが‥‥自分のことで申し訳ないんですが、魔力量なんです」


 「魔力量っていってもアレクはふつうの何倍もあるんだろ?」

 「人よりは多いかもしれません。でもここんとこ不安なんですよね‥」


 41階層以降、魔力量が満タンになっていない自覚があるんだ。いつもと明らかに違う。


「いつもなら1晩寝たら元に戻ってたんですけど‥ここんとこ起きても全量回復してないんです。なんか疲れもとれないし‥‥」

 「アレクもですか?私もそうです!」

 「私もそうなの」

 「私もよ。みんな残存する魔力が不安になってきたわね‥‥」

 「「「‥‥」」」

 「魔力がない俺たちにはよくわからないが、たしかに41階層から急激に疲労感が増してるよな」

 「タイガーもか。オイもなんか筋肉痛がとれないんだギャハ」

 「「「‥‥」」」



 やっぱりみんなもそうなんだ。かと言ってどうすれば良いという明確な答えは見つからなかった。解決策も浮かばなかった。せめて回廊では長めに休憩しようっていうことが決まったくらいだった。



 こうして俺たちみんなはゆっくりと転がる石になっていることに誰もが気づき始めた。





 ▼




 翌朝。

 結論でいえば野営トーチカは正解だった。ズーンッズーンッと朝まで夜通し砲撃の音が止まなかったが。



 朝、トーチカ周りにはたくさんの岩が落ちていた。外に1体のゴーレムもいなかったのは想定どおりだ。

(内堀にも外堀にも何体ものゴーレムが倒れ伏していたけど)



 「お、俺が‥‥」

 「オニールがぺしゃんこなの!」

 「なんでレベッカさんが無事なんだよ!不公平だろ!」


 ぺしゃんこのオニール像の横でレベッカ像はふつうにポージングをしていた。






 昼間は時おり襲ってくるゴーレムに気は休まらなかった。翌日もまた翌日もそのまた翌日も。夜は野営トーチカ。

 結局42階層では5泊の野営を要した。


 「あっ、回廊だよ!」


 やっと回廊が見えた。ホッとした。

 回廊からは魔獣は出てこなかった。これも学習できた。


 「今までの休憩室で楽しかったのが嘘みたいだね‥」


 しみじみとビリー先輩が言った。


 「そうだな。疲れは溜まっているが誰も傷ついていないことだけは幸運だな」

 「「「だよね」」」


 うん。タイガー先輩の言うとおりだ。


 

 結局41階層も42階層も魔獣肉など食糧の補充はできなかった。物資面でもストックは減る一方だ。

 単調なんだけどだんだん神経がすり減るようなダンジョン探索。みんなメンタルがやられてるんだろうな。疲労の蓄積もハンパないし。




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