第4話 痛恨のミス! 転生する性別を間違えた!

 さて。

 落ち着いたところで自分の状況を整理してみよう。

 まず、転生に成功した。

 受精卵のときから意識はあったけど、実際に生まれるまで不安だった。だけど、こうしてボクはちゃんと二本の足で歩いている。


 前世の記憶があるというのを、家族に受け入れてもらえた。


 普通の子供として過ごすのは無理だと、胎児のときから思っていた。

 どう演技しても、ボクの異常性は早い段階でバレるに違いなかった。

 だったら自分から事実を言ったほうがいい。

 受け入れてもらえなかったら、赤ん坊のまま独り立ちする覚悟だった。


 それが、ここまでスムーズに行くとは思わなかった。受け入れてくれた母と祖父に感謝だ。

 父? そんな奴もいたっけ?


 ルルガと出会えたのも嬉しい。主人とペットという関係だけど、友達として仲良くしたいと思う。


 もう、今の段階で転生できてよかったと心の底から思える。

 ボクは幸せだ。


 けれど、ボクは大きな野望をもって転生したのだ。

 それは……女の子にモテモテになることだ!


 前世のボクは、はっきり言ってモテなかった。

 その理由は単純。

 分厚い筋肉を持ち、顔も野性味があるワイルドなもの。

 大昔は、そういう容姿が男らしいとモテたらしい。

 だが、時代は変わっていく。


 丸太のような腕は怖いと言われ、細身の体が好まれるようになった。

 濃い顔より、薄い中性的な顔がモテた。


 ボクは魔王の部下を倒しまくって尊敬はされたけど、女の子にモテなかった。

 顔は生まれつきだからどうにもならない。そしてトレーニングをしなくても勝手に筋肉が発達する体質だった。


 魔法で容姿を変える技術を身につけたのは、死の直前。

 前世には間に合わなかった。


 しかしボクは転生した!


 さっき「この家に転生したのは偶然だった」という話をしたけど、それは半分本当で、半分は嘘だ。

 女の子にモテモテな、かわいい系の顔に産んでくれる両親という条件を指定した。


 ボクはまだ自分の新しい顔を見ていない。

 だけど母上は最高の美人だ。父上も顔だけはイケメンだ。

 ならボクは間違いなく超イケメン。

 今度こそ女の子にモテまくって、ハーレムを作る!


 魔王を倒すまで死に物狂いで頑張ったんだ。

 そのくらいのご褒美がなきゃ、逆におかしいだろ!


 そんな煩悩の塊みたいなことを考えながら、母の部屋に入り、大きな鏡の前に立つ。


 おお、綺麗な顔立ちだ。


 母上譲りの金色の髪は、絹糸のような質感を感じさせつつ腰まで伸びている。

 きめ細やかな肌。骨格レベルから整った顔。見開いたわけでもないのに大きな瞳。

 女の子に好かれそうな、女性的な容姿――。


 いや、待て。


 ボクは股間に視線を落とす。

 ない。

 大切なものがないぞ!


「女性的って言うか、女の子そのものだぁぁぁっ!」


 しまった。

 転生魔法を使うとき、容姿だけこだわって、性別を指定しなかった。

 これは……仮に女の子にモテモテになっても、なにもできないのでは!?

 だって、ない!

 前世でやりたかったことをやりたいのに、やるためのアレがない!


 ど、どうしていいか分からない。

 魔王と戦ったときよりもピンチだぞ……。


「かわいすぎて、なにを着せても似合うけど……今日はこのドレスにしましょうね。もう夜だからすぐパジャマに着替えるんだけど」


 母に女児用のドレスを着せられたボクは、圧倒的な美少女だった。

 将来有望だ。

 もう何年かすれば、男たちが放っておかない。

 前世のボクだって目をギラつかせる。


 ああ、こんな美少女と仲良くなりたかった。

 その美少女に自分がなってどうする!


「ご主人様。どうして頭を抱えるでありますか? とっても似合っているであります」


「ええ、ええ。いきなり娘が大きくなって戸惑ったけど、一番手間がかかるところを飛ばして、かわいがるだけでいいんだから。初心者ママの私としては助かるわ」


 ルルガも母も、着替えたボクを見て大喜びだ。

 二人にボクの苦悩を説明しても分からないだろう。

 男として大切なもの……ある意味、自分自身を失ったにも等しい衝撃を、分かってもらえないだろう。


 し、仕方がない。

 今はとにかく『生きている』という状況を楽しもう。

 前世は、それさえ叶わなかったのだから。

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