第6話 好感度6

「そもそも、なんで私に使おうと思ったのですか?」


 次の日の放課後。氷川は不機嫌そうな顔で俺を見ながらそう話しかけてきた。


 俺はどう答えたら良いものか迷ったが、黙っていることもできないので、渋々答える。


「……一応、去年からずっと隣の席だからな。他に使うアテもなかったし……たまたまだよ」


 本当は去年からずっと仏頂面の氷川が、俺にメロメロになったらどうなるのか知りたかったから……とはちょっと言えなかった。


「つまり、ずっとアナタの隣の席だから、私は不運にもアナタの気持ちの悪いアプリの使用対象者に選ばれたってことですか?」


「そうだよ。悪かったな」


 俺がそう言うと氷川はなぜかニヤリと気味の悪い笑みを浮かべる。


「な、なんだよ……?」


「いえ。ここで、実は私のことが好きだったとか、言ってきたら即座に私はアナタが大嫌いです、二度と近づかないで下さい、とでも言おうと準備していたのですが、あまりにもくだらない理由だったので」


「……なんで、笑うんだ?」


「これは、アナタが私を選んだ理由があまりにもくだらないから笑えてきてしまったんです」


 そう言うと、氷川は立ち上がり、俺の方に歩いてくる。


「しかし、アナタはバカ正直にも本当の理由を言ってしまった。つまり、アナタは好きでもない女の子を実験対象として選ぶ、最低な人間ということです」


「ひ、酷い言い様だな……」


「だって、そうじゃないですか。何か間違っています?」


 ニッコリと笑って氷川は立ち上がり、俺の方に近付いてくる。


「もし、私がクラス中に才見君は女の子に変なアプリを使用してくる変態だ、と言いふらしたらどうなりますかね?」


 そう言われて俺は少し嫌な気分になった。元からクラスの誰ともほとんど関わっていないが……かといって、そんなことを言いふらされた完全にクラスで変態扱いである。


「それは……嫌だ」


「じゃあ、明日から私の言う事、なんでも聞いて下さい」


「はぁ? お前、何言って――」


 俺がそう言おうとすると、氷川は顔を近づけて俺を睨む。


「アナタはもう私に何か意見できる立場じゃないんですよ。変態君」


 そう言うと氷川は満足そうに教室を出ていった。


 なんだこれ……好感度があがるどころか、変なやつに目をつけられてしまった感じだ。


 俺はスマホを確認する。増加数値は確実に「6」と表示されている。


 「6」と表示されてはいるが……どうにも信用できない。


「……好感度、上がっているんだよな?」


 俺は自分で自分が信じられなくなりながらも、とりあえず、実験は続行するしかないのであった。

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