明日までに金を振り込まないと、電気が止まる

 一通のメールと一通の手紙が来た。



 メールには、

 明日までに電気代を支払わなければ、電気を止める、と書いてある。


 手紙には、

 3日後までに水道料金を支払わなければ、水道を止める、と書いてある。



 初めて目にする公共料金の督促状とくそくじょう。私は思わず眉をひそめた。


 ありえない。口座からの引き落としを指定していたので、料金は自動で支払われるはず。なぜに金を払え、とおどされる状況に追い込まれているのか。

 今までだって、一度たりとも、そんなことはなかった。


 何が起きたんだろう。考えを巡らす。銀行のシステム障害か、あるいは残高不足か。本当は払っているのに間違って送信された可能性もある。不安をあおる要因がとりとめもなくあふれ出す。


【重要】という書き出しで始まる文面は、ひどく高圧的に見えた。



 まずは急いで確認しないと。このままでは人類が築きあげた文明的な生活を失ってしまう。

 私はメールの中ほどにある「詳細情報はこちら」というボタンを押した。スマホの画面いっぱいに電力会社のホームページが出てくる。



 ログインIDとパスワードを入力してください。



 ああ、こういうときに限って、パスワードを思い出せない。「パスワード管理アプリ」なる、ミイラ取りがミイラになりそうなアプリを開いて、ログイン情報を探した。


 しかし、残念なことに、電力会社のパスワードは見つからなかった。

 これはもう、あきらめて再発行するしかないか。


 「パスワードを忘れた方はこちら」というボタンを押そうとしたとき、ふと別の可能性がよぎった。


 ──あれ? もしかして


 慌ててログイン画面をもう一度見る。鮮やかなロゴと、スッキリとしたデザインは公式のページそのもの。


 しかし、URLはどうだろう。

 東京電力のブランド名であるTEPCOという単語が、TEPCCOとつづられている。

 これは……



 ──詐欺だ



 パチン、私は心のなかで指を鳴らすと、同じような迷惑メールの情報が出回っていないかを探した。すぐに、東京電力をかたった迷惑メールが横行していることを知る。


 私は間一髪のところで、怪しいサイトに個人情報を渡してしまうのを防いだのである。


 これにて一件落着。



 手紙の方も調べてみると、水道料金の催促さいそくは本物だった。

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チンパンジーに進化してる 中辛バーバリアン @ns_barbarian

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