第五十六話 攻略:東京ダンジョン(1)
紛い物の太陽に手をかざし、魔力の流れを感じ取る。
意気揚々と突入したC級ダンジョン。そこは、草葉が揺れる草原。
刀を構え、草木を踏み荒らし道なき道を行く。脛当てを撫でていく草花の感触が、足を通り抜けていった。
「銀雪。寄越せ」
空を泳いでいた銀雪に呼びかけると、彼が一度咥えていた氷剣を離し、口部に白銀の魔力を集中させる。眩い光の狭間から、白銀のケースに覆われたスマホが出てきて、それを俺に手渡した。
スマホを操作し、確認した情報。このダンジョンは、全部で四階層か。まあ、オーソドックスな感じだろう。
『竜の第六感』を以って、敵の位置を探る。それに『空間識』を合わせて階層の探査を行った。この、かなり広い第一階層には、全部で八十匹のモンスターがいる。
少数精鋭型であることを考慮しても少ないような気がするが。まあ、いいだろう。
魔力を使用し『竜魔術』を用いて、空を飛んだ。『竜の瞳』を使えば、豆粒のように小さいモンスターも見つけられる。
体に龍を取り込んだのに伴い、習得したスキルは多い。『竜の第六感』はただでさえ強かった直感の制限を取り払い強化した能力だし、『竜魔術』は竜が用いるという飛行補助、身体能力の向上に加え様々な攻撃手段を有する、便利なスキルだ。『竜の瞳』は魔力の流れを捉え……『第六感』と合わせれば、未来視のようなこともできる。それぞれが、ユニークスキル級の強さを秘めていた。
「銀雪。この階層、お前に任せる」
「……クルルルゥルルル!」
命令に答えた銀雪は、俺の周りを泳ぐように一周した。その後、俺が刀の鋒を向けた馬型のモンスターを見据え、口を開く。
吸い込まれていく冷気。それが塊となって、光線を放つ。
駆け抜ける白銀。降り注ぐ銀色の雪。地を凍らせながら進むそれに、逃げ惑う馬のモンスター。それを追いかけ、一匹残らず銀雪は凍らせていく。
青々とした草原を、霜の野原としたところで。カチカチに凍っていた馬たちが、灰となりて爆発した。結果だけ見れば、最上のものと言える。しかし、思った以上に時間がかかってしまった。
「……やっぱり、あの龍のようにはいかないな。それに、これを撃っている間はお前が無防備すぎる」
「クルルゥ」
ふうと一息ついた銀雪の姿を見て、考える。文字通りこいつと俺は以心伝心なので、意思疎通がスムーズだし、やはり考えていた通り俺のサポートに徹させるのが良さそうか。
空から氷の大地に降り立ち、階段の方へ向かっていく。
ここからは、俺の時間だ。
第二階層。そこは、壁と柵に囲まれた、箱庭のような草原だった。降り立ってすぐに、こちらを警戒するモンスターの群れが俺を取り囲む。筋骨隆々とした二足歩行の牛と、体を贅肉の鎧で覆う、豚の群れが俺を取り囲んだ。
その数、三十ほど。さらにその先に、こいつらを魔改造した、形容しがたい見た目のモンスターたちがいる。腕が頭から生えていたり、四本の足が腹から飛び出ていたり。
銀雪が口部に魔力を集める。竜喰を構え、奴らを見据えた。
やはり、久々のダンジョンを祝うのにビーフとポークは欠かせないということだろうか。素晴らしい。
竜の脚力を用い、強く地を蹴る。黒漆の魔力を込め刀身以上の大きさを有す刀を、二閃。
斬った、という言葉は相応しくない。歯型が付き体を八割以上吹き飛ばされた牛と豚は、文字通り喰われていた。
「ハハハ……この鎧袖一触に敵を捻り潰していく快感。竜の身となっても変わらない」
それに、今は里葉がいない。好き勝手やっても、怒られない。
進化した俺のスキルにステータス。そこから導かれる俺の戦闘理論━━俺の流儀が、合っているかどうか。
ユニークスキルというのは、きっと使い手を体現するのだろう。
その発動を感じて、そう確信する。この能力は、俺にぴったりのものだ。
降り注ぐ陽光。乱反射する氷雪の残滓。
戦いは続く。今までは、攻略を目的として敵を敢えて見逃したこともあった。しかし今は、この階層にいる全ての生命を消し去ろうとしている。
「逃げるなァッ!! この豚もどきッ!」
俺に背を向け駆け出した奴の足目掛け、銀雪の氷息を放つ。足を凍らせ鈍らせたそいつを狙い、空を飛び加速して首を断った。
奴を囮にでもしていたつもりなのだろうか。二足歩行の牛がアイデンティティを放棄し四足歩行となって、地を削りながら俺に突進してくる。
迫る頭蓋と大角。それがどうした。
左手の人差し指を伸ばし、奴に触れその突進を止めた。土煙が大きく舞う。
奴は巨大な岩を相手にしているかのように、どんなに力を込めても俺を動かすことができない。
「ブモボボモもおオオっ!!」
「死ね」
今の俺の練度ではまだ上手く使えない『竜魔術』を用いて、左手に小さな黒雲を生み出す。そこから雷電を迸らせ焼き付かせ、そのまま奴をミディアムレアくらいにした。
ああ。なんて俺は圧倒的。
しかしここはC級ダンジョン。敵はモンスターだけではない。
草原だったはずの足元が、突如として足を取られる沼地に変容したことに気づく。さらに、地中に埋まっていたのであろう、その機構が動き出した。
粉塵を撒き散らし、大爆発。魔力の動作を感知し起動した地雷。その直撃を貰う。
俺がどうなったかを確認しようと、距離を取りながら様子を伺うモンスターたち。
……黒煙の中から歩みを進め、無傷のまま堂々と現れ出てやった。魔力障壁の、鱗一枚剥がすことができない。せいぜい、鎧に煤が付いた程度。
牛と豚の動揺する声が聞こえる。
ああ。なんという。
戦えば戦うほどに、力は強くなっていく。俺はきっと、死ぬまで戦いをやめない。どんな形の戦いであれ、止めることはない。それこそが、俺の選んだ道。
自身の強化されたステータス。そして得た、多種多様なスキルたち。
その中で恐らく最も等級が高く、俺を体現したそれは━━━━
☆ユニークスキル
『
彼が歩むその道に、果てなどない。
戦闘時、自身の集中力・身体能力・魔力が大幅に向上。戦闘時間が長引けば長引くほどこの能力は強化され、また連戦を行えば行うほど効果は増強される。
彼の根源となる重世界を展開。
畏怖の呪いを相手に与え、抵抗する敵を蝕む。
黒漆の魔力が立ちはだかる敵を討ち滅ぼさんと、俺を焚きつける。魔力により強化されていた竜の心身は、更に強靭に。俺の思いに応える銀雪は、独眼を輝かせ。
雑魚の妖異が、俺を止められるとでも思っているのか。
「殲滅するッ!」
竜喰に込めた魔力。それを振るい斬撃を放ち、手当たり次第に牛と豚を斬り殺す。背を向け逃げ出した敵は銀雪が口から放つ白銀の魔弾で仕留め、近接は俺が片付けた。
右からの薙ぎ払い。首を切り落とす。
返す刀の刃。胴体を両断する。
氷の剣を尻尾に纏わせた銀雪が、鋭く一回転し尾を鞭のようにしならせて、破砕し飛び散る氷塊とともに牛の頭蓋を叩き壊した。
戦場にて光彩る。
立ち昇る黒漆の魔力は、大空を染め上げるように肥大化していく。
俺の勝利を喜ぶ竜喰。しばらく我慢させてごめんな。これからもっともっと━━━━
喰わせてやる。
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