第二十八話 攻略:C級ダンジョン(1)
彼女と二人。石の塔が乱立する庭を行く。『ダンジョンシーカーズ』によれば、このダンジョンは全部で四階層。等級が上のダンジョンと聞くと、何十階層と続く深いものがあるんじゃないかと思ったが、そういうわけでもないらしい。
彼女曰く、C級あたりから罠が多くなるのだという。俺の武装なら簡単に突破できるとは思うが、まずはそれを体験して欲しいと言っていた。
現に今彼女は、ダンジョンの防衛機構に襲われている。
ただのオブジェだと思っていた小さな石の塔が、なんと地から発射され、ミサイルのように飛んでいく。どんな原理で飛んでいるのかもわからないそれを、彼女は事も無げに捌いていた。というか、彼女が動くまでもなく空に浮かぶ武装たちが自動で迎撃していった。
「このように、我々の意表を突く防衛機構が多くなるのです。いわゆるC級ダンジョンから一気に、です」
宙で回転した金槌が石の塔を叩き潰す。槍が弾いて剣が切り裂く。彼女が使っている武器に竜喰ほどの性能はないが、間違いなく逸品だった。
「ヒロ。貴方に私が話をしたことによって、ダンジョンの公開されていなかった情報を参照できるようになったはずです。あの、非公開とかになってた」
「ああ。権限未所持につき、ってやつか」
後方より飛来してきた石の塔を竜喰に喰わせ破壊する。背後からやってきているのは『直感』で気づいていた。
「……そうです。私が全部対応するので、一回それを見てみてください」
更に飛んでくる石の塔。飽和攻撃とも言えるそれを前に、黄金の武装が色を残す。
宙に浮かぶ彼女の武装のキレが、一段階変わった気がする。ゆらゆらと動いていたようなそれは今、アクロバティックな機動を取って石の塔を迎え撃っていた。
破砕し響き渡る音をBGMにダンジョンの情報画面を開く。第八迷宮と表示された画面の下に、不思議な文が書いてあった。
C級:枝の渦 15/326 破壊推奨
権限を所持していたとしても何を言っているのかよく分からない。なんかもっと、細いの出てくると思ってたんだけどな……
「ヒロ。貴方は仙台のダンジョンを全て制圧したい、と話していましたね?」
横目にこちらを見る彼女に向けて、首肯する。
「その具体的な方法を教えます。まず、ヒロ。この前話したように、裏世界側は我々の世界が持つ魔力を奪いたいと考えているため、軍事拠点である渦を配しているという説が有力だという話がありました」
人差し指を立て話を続ける彼女。あ、金色の槍が石の塔を切り裂いた。最初はびっくりしていたけど、この石の塔が鳴らす風切り音にも慣れてきた。
いつまで飛んでくるんだろう。これ。というか全周囲を守る彼女の武装……自動迎撃システムでもあんのか? いやこれは里葉が全部手動で……?
「私たちに具体的な仕組みはわかりませんが……軍事拠点である渦たちは、魔力を集めるため水分と栄養分を取り込む根のように、ないしは光を浴びようとする葉広のようにできている」
淡々と説明を続ける彼女。背後に迫る石の塔を空を駆る剣が弾いた。さも当然のようにしていて、彼女は全く気にしていない。
「その姿を私たち妖異殺しは木の枝になぞらえて、枝の渦、と呼ぶのです」
「……なるほど?」
「ダンジョンの渦というのは、樹木のように出来ている。幹となる根本を断てば全てが倒れ伏しますし、大枝を断てばその先の枝葉は死ぬ」
歩き続ける彼女が一度立ち止まってこちらを見た。しつこいぐらいに飛んできていた石の塔は一度鳴りを潜め、赤い空を背に彼女が語る。
「『ダンジョンシーカーズ』に設定されている等級を『妖異殺し』の言葉で表すのならば……A級が幹の渦。B級が大枝の渦。C級が枝の渦。D級を小枝と呼び、E級とF級をまとめて細枝と呼びます」
「全ては幹から始まり、枝分かれしていく……」
「仙台のダンジョンを全て制圧する。そのためには、大元となるA級ダンジョンを攻略することが必須です」
放たれた彼女の言葉には、不可能だろう、というニュアンスが多分に含まれていた。
石の塔が立ち並ぶ墓地を抜け、石段を降りた先。第二階層。そこにはまた、深紅の空があった。階段を降りて地下に行ったはずだというのに、全く同じ空がある。
ただ繰り返されるように。世界が構築されていた。恐ろしい。やはり人智を超越したものが、ここにはある。
彼女は石の塔のない、あぜ道を真っ直ぐに突き進みながら話を続けていく。墓地を抜け、第二階層はただの道と平原が続いているが、今度は地中からゾンビのような、腐った体のモンスターが湧き出てきた。
ゴブリンやオーク、昆虫のような奴に、わけわからん象の鼻が顔についた二足歩行の生き物とかが、かなりグロテスクな見た目でこちらに歩み寄ってきている。
ずっと彼女に守られっぱなしなのは癪だ。それに、レベルも上がらないので竜喰を使い参戦している。
真っ赤な空の下。薄暗くも見える道で彼女と共闘した。彼女の方に敵の注意が向いているのもあって、普通に対処できている。
手にとった槍で人型モンスターの頭を貫き、彼女は淡々と話を続けている。頭蓋から血が漏れ出て、金色の槍が紅に染まるのとともに、灰燼となってモンスターが破裂した。
槍にこびりついていた肉片も、灰となりて飛散する。見ようによってはかなり猟奇的だな……
普通の女子ならば泣き叫びそうなものだが、彼女は一切動揺していない。オークの首を切り落とし、犬型のモンスターに金槌を打ち付けて、肉体を破裂させながら話を続けられた時は流石に反応に困った。こんな動きをしながら、彼女はダンジョンについてずっと語っていたのである。
彼女の話をまとめると、どうやら仙台には根本となる木の幹のA級ダンジョンが一つ。そしてそこから生えているB級ダンジョンが五つ存在し、そのB級からは四つのC級。そしてC級からは三つのD級が続き……と、それこそ本当に樹形図のようになっているようだ。
最後に、D級から二つのE級が生えて、E級から一つのF級が現れる、と言った具合らしい。それで計算すると、合計326個のダンジョンが仙台には存在しているようだ。多いな……
彼女が話を続けていく。
「繋がっている、ということは、このC級ダンジョンの攻略に成功すればC級に連なる15個のダンジョンも破壊できる、ということなのです」
どこからともなく現れ手にした、杖の先を使い鷲のモンスターを吹き飛ばす彼女。
「故に、等級が上がれば上がるほど裏世界側も本気で防備を固めてくるので、攻略は困難を極めます。D級以降であれば渦側も簡単に再生してしまえるのですが、C級からは再生に時間がかかる。それが大枝ともなれば、再生は不可能と言っていい。そして幹を断たれれば、その渦たちは完全に生き絶える」
「……なあ。里葉」
「なに? ヒロ」
「一つ思ったんだが……今までの話を聞いた感じ、向こう側の世界と交渉することはできないのか? こっちがエネルギーを回す代わりに、技術やアイテムを貰うとか」
「あぁ。これは回収された各資料とかからもわかっていることなんですけど、裏世界の知的生命体から私たちは言葉を交わすことを禁忌とされるほどの悪魔扱いされているようですよ。実際、私たちが相手にしているモンスターは彼ら自身ではないですし……交渉しようという動きは数百年前もあったようですが全て失敗しました」
あぜ道。見通しの悪い茂みの中。竜喰を振るい、潜むように迫ってきていた骸骨の剣士を叩き斬る。
「やっぱり、もう試してるもんなんだな」
「ええ。そろそろ、第二階層も抜けます。ここから本番です。気合いを入れて。ヒロ」
「ああ」
ゆるい空気で行なっていた攻略に、一度気合いを入れ直す。この先は未体験の境地だ。里葉がいるとはいえ、油断は絶対にしてはならない。気を引き締めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます