第十八話 ボス戦:裏庭ダンジョン

 


 第二階層。再びぼんやりと光る蟻の巣の中を進んでいく。何度も枝分かれする蟻道をしらみつぶしに進んでいっては、部屋に到達し中にいる蟻を殺戮していった。


 兵隊アリを相手に戦うときはそこそこ楽しいが、働き蟻を相手にするのはもう楽しくないし、竜喰も楽しくなさそうな気がする。まあ経験値にはなるので、全て残らず屠っているが。


 部屋の中に溜め込まれていた蟻の卵にも生きている反応があったので、一つ一つ喰らっていった。自分でやっておいてなんだが、かなりえげつないことをしている気がする。


 慣れた手さばきで、真っ直ぐ突進してきた兵隊蟻の胴体を叩き斬る。なんか薄々感じていたんだけど、ワンパターンなんだよな。こいつら。


 開けた地形や草木が生い茂るような場所ならともかく、真っ直ぐに道が続く蟻道である。蟻は得意の集団戦に持ち込めなくて、本領を発揮できていないのかもしれない。


 蟻道には傾斜があるし、たまに穴から飛び降りたりもした。結構下っていったように感じるので、そろそろボス部屋に辿りつけるかもしれない。辿り着いてくれ。


 そう願い続けたのが功を奏したのか、下り続けた蟻道の先。行き止まりにぶつかる。壁の向こう側にとんでもない数の蟻と大きな一体の敵の存在を知覚した。


 巣の主であるボスを守るため部屋の中に密集する蟻たちを相手に、スキルから得た知識、今までの経験から確信する。



 勝てる。問題などないと。こんなところで俺は立ち止まらないって。



 竜喰に最大限の魔力を込めて、濃青の輝きが刀身を包む。刀を鋭く振り下ろすと、濃青の輝きが迸るように疾駆した。


 それは蟻たちが急造したであろう壁を破壊し、その先にいる女王の元まで突き進んでいく。


 ぼんやりとしたこの空間の中。光り輝き駆け抜ける濃青の剣閃を止めようと、働き蟻に兵隊蟻たちが命を投げ打って、自ら飛び込んでいく。


 盾になろうとした蟻たちが面白いように吹っ飛んでいった。蟻たちが女王のため命を捧げる感動的な光景ではあるが、百匹撃破! とか通知で出てきそう。あ、でもそういうタイプのゲームではないか。ダンジョンシーカーズ。


 堂々と正面から竜喰を手に訪れた俺は、ぞわぞわして鳥肌が立つんじゃないかと思うぐらいにひしめく蟻たちの姿を見た。視界が茶色で埋め尽くされている。



 これ、俺は竜喰があるからいいが普通のプレイヤー攻略無理じゃね……? あ、でもヴェノムが使っていたような毒ガスとか魔法だったらまとめて潰せるか。いやでも無理があるよな……



 竜喰抜きでの攻略法を考えていると、蟻の山の中から一匹のどデカイ蟻が飛び出てきた。一軒家をボリボリ食べてしまえそうなくらいでかい牙。卵を産むためだろう、大きなお腹を持つ体を見てなんとなく思う。


 多分このボス、戦闘に特化したタイプのボスじゃない気がする。明らかに身体が、戦うための構造をしていない。まだオーガの方がむきむきで全然強そうだった。正直言って、気合を入れなきゃ死ぬ、という死線を感じない。


 多分、ここは数で攻めてくるタイプのダンジョンなんだろう。そしてそれは、今の俺と最も相性が良い。


「よし。ならば試すか」


 先ほど習得した三つのスキルのことを思い、その調整にはちょうどいいんじゃないかと考える。『魔戦術』の下魔力で身体強化を行い、『魔剣術』の知識を利用して、竜喰に魔力を込め飛ぶ斬撃、剣閃以外の技を試そうとする。『飜る叛旗』が適用される状況のため、その効果により体はダンジョンに突入してから一番調子がいいし、蟻の分隊の些細な動きが全て把握できる。


「……蹂躙してやる」


 竜喰。蟻さん食べ放題コースだ。







 蟻を斬り飛ばし吹き飛ばし、竜喰に貪り食わせて狩り続けた。最後に女王を守ろうとその体に張り付いていた蟻をぶち殺し、灰燼となり爆発の音のみが響く部屋の中。


 ギチギチ、という蟻の叫び声を無視して、跳躍し空を舞う。


 回転し地に落ちていく勢いのままに、最後に女王蟻の首を切り落として撃破した。


 力を失い、ズシンと倒れ込む音。


 どでかい体が全て灰燼となり爆発するので、灰を全身に被ってしまいそうでビビる。


「よし。これで全部だ」


 ポケットにしまったスマホの通知が、また一度鳴った。


 なんか大して強くはなかったし、戦いの興奮を味わいたい自分としては流れ作業的であったので不本意だった。


 というか、竜喰がこういう敵に対して強すぎる気がする。本来あるはずの差を武装で補っている感じがした。


 しかしそれはそれとして、自分の戦闘スタイルを確立できたように思うので良しとする。


 自分の戦闘スタイルは竜喰の『暴食』による防御力を生かした、魔法剣士があっていると思う。魔力を使い斬撃を飛ばすだけでなく、刀身を伸ばしたり、シンプルに強化された身体能力で蹴りいれたり。典型的ななんでもできるファイターといった感じで、ソロプレイヤーっぽい戦術だと思う。


 他のプレイヤーはどのような戦い方をしているのだろう。少し、気になるな。集団で潜るときには役割とかをはっきりさせているのかもしれない。


 蟻が死滅し、広さだけが残る部屋の中。報酬部屋に向かうことができるのであろう魔法陣が展開される。


 竜喰のような武器は手に入らないと思うが、また何か攻略に役立つ装備でもあるといいな。


 報酬部屋の方へ向かおうと、魔法陣へ体を向けた場面で。




「待って、ください」




 雨上がりの青空のように澄み切った、凛とした誰かの声が後ろから聞こえた。




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