第14話 「見習い魔導士」
「…対戦形式はどうする」
「んなもん決まってる。 気絶するか、負けを認めるかだ」
「我に挑んだ事、後悔するなよ」
「はっ! 後悔するのはてめぇのほうだ」
2人が煽り合いをしている中、少し離れた場所に、虎太郎、シエル、フランは立っていた。
「おいヤバくね…? 流石に勝てないよな…?」
「勝てるわけないでしょ…! いくらゴルドが天才だからって、経験も技術も、向こうが上よ」
虎太郎は、改めてゴルド達を見る。
「じゃあ、始めようぜ」
「待て」
ゴルドが姿勢を低くすると、ロイドはそう言った。
「なんだ。 今更怖気ずい…」
「我は今回の戦闘では魔導器は使わぬ。 他にハンデはいるか?」
ロイドが言うと、ゴルドは目を見開いた後、その顔を怒りで染める。
「てめぇ…ふざけてんのか…?」
「ふざけてなどいないが。 そうだ、片手も使わない方がいいか?」
「っ…! あああっ!!」
ゴルドが耐えきれず、走り出した。
「そんなにハンデが嫌ならば、我に魔導器を使わせてみよ」
「言われなくても…!!」
ゴルドは、走りながら右手に神経を集中させる。
すると、ゴルドの身体に電気が纏い始めた。
電気を纏ったゴルドは身体能力が上がり、スピードがさらに上がった。
「来い!
ゴルドの右手に、刀が現れた。
色は黒に、黄色の雷のようなギザギザ模様が刻まれており、それが黄色く発光している。
「
ゴルドは、凄まじい速度でロイドに向かって刀で突きを放った。
虎太郎達は、あまりに早すぎるゴルドを目で追うのがやっとだった。
自分だったら反応する事は出来ないだろう。
だが…
「…こんなものか」
ロイドは違った。
ロイドは、ゴルドの刀での突きを、人差し指と中指の2本だけで止めていたのだ。
ロイドはゴルドの刀を指で挟んだまま、ロイドの腹を蹴り上げた。
「ぐはっ…!?」
ゴルドはそのまま地面を転がる。
そんなゴルドに、ロイドはまだ指で挟んでいたゴルドの刀を投げつけた。
「どうした。 もっと技を見せてみろ」
ゴルドは、ヨロヨロになりながらも立ち上がり、刀を鞘に納める。
虎太郎やシエルの魔導器には鞘はなかったが、ゴルドの魔導器は、腰に鞘が出現していたのだ。
刀を鞘に納め、姿勢を低くする。
「ふむ、居合か。 よく集中して当ててみろ」
ゴルドは目を閉じ、集中する。
ゴルドの周りに電気が纏わりつき、バチバチバチ…!と音を立てる。
凄まじい魔力だ…と虎太郎達全員が感じた。
そして、ゴルドが目を開け、右足を踏み込み、前へ飛んだ。
先程よりもスピードは速く、虎太郎達は見る事は出来なかった。
「
虎太郎達は、ゴルドの姿を見失った。
まるで雷が落ちた時のような音と共にゴルドは飛び出し、ロイドに居合斬りを放つ……
「…が…はっ…」
前に、ゴルドはロイドに腹を殴られ、地面に倒れた。
虎太郎達からしたら何が起きたから分からない。
一瞬だったのだ。
ゴルドの姿が音と共に消えたと思えば、次の瞬間にはロイドに腹を殴られ、地面に倒れていた。
「速さが足りぬ。 力も足りぬ。 何もかもが、足りぬのだ」
ロイドは、地面に倒れているゴルドの背中を踏んだ。
「貴様の速さ、自信過剰になるだけはある。 Bランク程の魔導士ならば対応出来ないだろう。
だが、所詮はその程度」
「っ…!」
「だから我は言ったのだ。 思い上がるなよ。と」
ロイドは、ゴルドの脇腹を蹴った。
「ぐああっ…!!」
「どうした。 負けを認めよ」
ロイドは、何度も何度もゴルドの腹を蹴る。
だが、ゴルドはロイドを睨みつけ、何度も立ち上がろうとする。
「貴様が負けを認めぬならば、我は貴様が気絶するまで痛めつけるぞ。
そういうルールだ」
「ぐっ…! ぐあっ…!」
ゴルドは、何度も何度も蹴られる。
だがプライドが許さないのか、頑なに負けを認めない。
「っ…! おいゴルド! はやく降参しちまえよ…!」
虎太郎が叫ぶと、ゴルドが虎太郎を睨む。
「うる…せぇ…っ!! 俺は…負けられねぇんだ…!」
ゴルドは、なんとか立ち上がったが、そんなゴルドに構わず、ロイドは膝蹴りをくらわせた。
ゴルドは口から血を吐き、前のめりに倒れる。
ロイドはそんなゴルドの髪を掴み、持ち上げる。
「まだ気絶しないか。 中々しぶといな」
「っ…! おいロイドさん! もう辞めてくれよ! 勝負はもうついてるだろ…!」
「何を言う。 まだ決着はついてはおらぬ。 まだこいつは、降参もしていなければ気絶もしておらぬ」
ロイドは、ゴルドの頭を掴み、地面に叩きつけた。
シエルは、そんな悲惨な光景を見て口を手で塞ぎ、顔を逸らした。
虎太郎は怒りに顔を歪め、走り出した。
「うおおおおっ!!! 来い!炎魔ぁ!!」
虎太郎の身体が炎に包まれ、刀が現れ、虎太郎の服が変わる。
そんな虎太郎を見て、ロイドは一瞬目を見開いた。
「ゴルドから…! 離れやがれ!!」
虎太郎は、思い切り刀を振るう。
ロイドは後ろに飛んで躱す。
「フラン! ゴルドを連れていけ!」
「えっ…虎太郎様…?」
「っ…早くしろ!ゴルドはもう…! 気絶してる!」
虎太郎がチラッとゴルドを見ると、ゴルドは気を失っていた。
つまりはこの勝負はロイドの勝ち。
なのだが、ここまでゴルドを痛めつけたロイドに、虎太郎は怒っていた。
フランは虎太郎の怒鳴り声に一瞬ビクッとしたあと、すぐにゴルドを抱えて去っていった。
「虎太郎…!」
シエルが虎太郎を呼ぶ。
虎太郎は、魔力を炎として放出し、刀に纏わせる。
(加減はできないが、少しはビビるだろ!)
「これでもくらっとけ!!!!」
虎太郎は思い切り刀を振り下ろした。
超高密度の魔力が炎の斬撃としてロイドに飛んでいく。
ロイドはその斬撃を見て目を見開いた後、炎に包まれた。
「…シエル、逃げるぞ! とりあえずゴルドを病院に…っ!!」
魔装が解け、シエルと共に病院へ向かおうと走りだすと、爆炎の中からロイドが飛び出し、後ろから虎太郎の頭を掴み、地面に叩きつけた。
「っ! 虎太郎…!」
虎太郎は、一瞬で気を失っていた。
対してロイドは、虎太郎のあの斬撃を受けたにも関わらず、汗ひとつかかず、無傷の状態だった。
シエルは虎太郎に近寄り、虎太郎の身体を揺する。
「も、もうやめて下さい…!」
シエルは、虎太郎を守るように立つ。
シエルの身体は、恐怖に震えていた。
「…勘違いをするな。 我はただ降りかかる火の粉を払ったに過ぎない。
早く病院へ連れて行くがいい」
そう言うと、ロイドは去っていった。
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