第12話 「青髪奴隷は押しが強い」

「こ、虎太郎の側に置いてくださいって…どういう事…?」


シエルが聞くと、フランは答えた。


「元々、私達の種族…エルファレスは、自分より強い殿方に仕えるのが決まりでした」


「えるふぁ…れす…?」


虎太郎が復唱する。


「エルファレスって…並外れた身体能力を持った狩猟民族よね…? 10年前に滅んだ種族なんじゃ…」


「はい。 エルファレスの集落は10年前に大規模な奴隷狩りに遭い、その半数以上が殺害、残ったエルファレスは奴隷にされました。 その中の1人が、私です」


シエルは、悲しそうな顔をする。


「なので、私が自由に生きるとするならば、エルファレスの掟に従います。

貴方は、私よりもずっと強い。 ぜひ、お側に置いて下さい」


また、フランは頭を下げた。


当の本人虎太郎は、かなり焦っていた。

先程から冷や汗が止まらない。


「え、えーっと…んー…えーっと…」


露骨に焦っている。


無理もない。

いきなり同年代の美少女からあんな事を言われたのだ。

動揺しないわけがない。


「フラン…で合ってるわよね? 貴女はそれでいいの? せっかく自由になれたのよ?」


「はい。 私にとって、エルファレスである事は誇りです。

奴隷として殿方に仕えるのは嫌でしたが、エルファレスとして殿方に仕えるのは、むしろ嬉しく思います」


考え方の違いなのだろう。

フランは、真っ直ぐな瞳で虎太郎を見る。


「なら良いじゃない虎太郎。 側に置いてあげたら?」


「えぇ!? いや、でもなぁ…」


「…私ではお役に立てないでしょうか?」


フランが上目遣いで言ってくる。


「はぁ…分かった。 じゃあ、とりあえずは今俺の所にいて良いけど、何処かに行きたくなったら遠慮しなくていいからな」


「はい…! ありがとうございます…!」


そう言って、フランは膝をついて頭を下げた。


「ちょちょ…! そう言うのやめようぜ!?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あーそっか…そうなるのか」


宿に戻ってきて、虎太郎は頭を抱えた。

フランは、さも当然のように虎太郎の部屋に入ってきたのだ。


そのまま自分の部屋に帰ろうとしていたシエルの腕を掴み、今は3人で虎太郎の部屋にいる。


「…なぁフラン。本当に俺の部屋に住むのか?」


「はい」


「で、でもさ…? 俺男だぞ?」


「はい…? 知っていますが」


「んー…! えっと…嫌じゃないのか?」


「嫌じゃないです」


そんな虎太郎とフランのやり取りを見て、椅子に座っているシエルが笑う。


「シエルも笑ってないで何とか言ってくれよ…」


「だって私フランの主じゃないもーん」


心底楽しそうにシエルが言う。


「この薄情者が…」


「虎太郎様の身の回りのお世話は責任を持って私が致します。 なんなりとお申し付け下さい」


「お申し付けないよ。 あのなフラン? 一緒にいる事は許可したけど、別に俺は主従関係とかは興味ないんだ。

だから、もっと対等に…」


「なるほど。 ではもっとフランクに接しろと?」


「そうそう。 もっとフランがやりたいように…っ!?」


虎太郎が言い終わる前に、虎太郎の顔の横にフランの足が掠った。


どうやらフランが虎太郎に向けて蹴りを放ったらしい。


「…え、えっと…フラン…さん…?」


「はい。 なんでしょうか」


フランは姿勢を正し、首を傾げる。


「今の蹴りは一体…」


「エルファレスでは、思い通りにならない者がいたら力尽くで屈服させよ。

という掟があります」


「屈服て」


「私は虎太郎様に仕えたいと思ったから、こうして仕えています。

その事が気に入らないのなら、力尽くで虎太郎様を屈服させ、仕えさせていただきます」


「めちゃくちゃな事言ってる自覚ある…?」


そんな2人のやり取りを見て、シエルは机を叩きながら爆笑している。


「あー面白い…! 良いじゃない虎太郎、フランのやりたいようにさせてあげたら?」


「いやでもさ…せっかく奴隷から解放されたのに…」


「これじゃあ奴隷と変わらない。 と、そう言いたいのですか?」


フランが言うと、虎太郎は頷く。

すると、フランは優しく笑う。


「確かに、客観的に見たら、変わらないかもしれませんね。

ですが、私からしたら、虎太郎様に仕える事は、奴隷とは全く別物ですよ。

虎太郎様は、私を人間として見てくれます。 私はそれだけで興奮なのです」


そんなフランの言葉を聞き、シエルは優しくフランの頭を撫でた。


「あっ…もちろんシエル様の事も尊敬しています。

ただエルファレスの掟で、強い殿方に仕えているだけで…!」


「そんなに焦らなくても大丈夫よ。 私とはお友達でいましょ?

そうだ、今度一緒に服買いに行きましょうか!」


「ふ、服…ですか…?」


「うん! 貴女可愛いのに、そんなボロボロの服着てるの勿体無いじゃない?」


虎太郎の目の前で、シエルとフランが楽しそうに話している。


フランは虎太郎に仕えたが、シエルの事も虎太郎と同じくらい尊敬しているのだろう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「さて、お前の寝る場所どうしようかな…」


シエルが風呂に入る為に自室に帰り、部屋に虎太郎とフランの2人きりになった。


虎太郎の部屋は、1人用の部屋のため、そんなに広くはない。


1人で暮らすには十分だが、2人になると窮屈だ。


「私は床でじゅうぶ…」


「絶対ダメだ」


「なら一緒に…」


「それはもっとダメだ」


そう言うと、フランは頬を膨らませる。


「…寝る時だけシエルの部屋に行くって言うのは…?」


「私がいない間に虎太郎様に何かあったら危険なので、却下です」


「いや…そんな危険な事なんて…」


「却下です」


「はい…」


これは死活問題だ。

虎太郎とて普通の男子高校生。


同年代の美少女が部屋にいると言うだけで緊張するのに、一緒に暮らすというのだ。


虎太郎には刺激が強すぎる。


「…ちょっとこの事は後で考えるか。 とりあえず風呂だな風呂」


「承知致しました」


虎太郎がベッドから立ち上がる前に、フランが風呂へ向かった。

何をしてるのか見に行くと、風呂を沸かす前に簡単な風呂掃除をしていた。


テキパキと作業をこなし、あっという間にピカピカになった風呂に、お湯を溜め始めた。


「すっげぇ…」


「何処に仕えても恥ずかしくないようにと、4歳の頃から教えられていましたから」


「4歳って…すげぇな。 …あ、そういえばさ、フランって何歳なんだ?」


風呂に湯を溜めている間に、ベッドに座って雑談をする。


「16歳になります」


「あーやっぱり同い年か。 シエルも16歳だぞ」


「え、そうだったのですね。 私はてっきり…いえ、なんでもないです」


「なんだ?」


虎太郎が聞き返すと、フランは少し考えてから話す。


「てっきり、虎太郎様は歳下なのだと考えていました。 シエル様とのやり取りが…その…姉と弟のようだったので」


「…俺、そんなに子供っぽいか…?」


「あ、いえ…! そんな事はないです…! ただそう感じただけで…」


「なるほどなぁ…」


その後も数分話していると、風呂が沸いたらしく、フランが帰ってきた。


「虎太郎様、お風呂の用意が出来ました。 お先にどうぞ」


「いや、フランが先に入れよ。 入りたいだろ?」


「入りたいですが、先に虎太郎様が入るべきです」


「いや、ここはフランが…」


虎太郎の顔の横に蹴りが飛んでくる。


「…はい。 では先に入ります」


虎太郎は、諦めたように風呂場へ向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「上がったぞ、次フラン入ってこい」


「はい」


「長風呂していいからな。 ゆっくり暖まれ」


「ありがとうございます」


そう言って、フランは笑顔で風呂場に向かった。


それから数分後、部屋の扉がノックされた。

扉を開けると、そこには風呂上がりで顔がほんのり赤い、パジャマ姿のシエルが立っていた。


「あら、あんたもお風呂上がり? 奇遇ね、とりあえず中入れて」


「お、おう」


シエルは虎太郎の部屋に入ると、虎太郎をベッドに座らせ、シエルは洗面所の扉を開けた。


「えっ…!? く、シエル様…!? どうし…」


「プレゼントよ〜! わっ! フラン肌すっごい綺麗! 髪もサラサラー!」


「ちょ…シエル様…!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…なーんであんたは耳塞いで目閉じてんの?」


ずっと耳を塞いで目を閉じていると、シエルに無理やり手を剥がされた。


「なんか聞いちゃいけない気がした」


「別に良いじゃないのよ」


「それより、何持ってきたんだ? プレゼントって言ってたけど」


「とりあえず、パジャマと、明日着る用の服と下着持ってきたわ。 私のお下がりだけど、あの奴隷服よりはマシでしょう?」


「なるほどな。 助かる」


「どういたしまして〜」


それから、虎太郎とシエルは軽い雑談をしていた。

その際、フランが虎太郎の事を歳下だと勘違いしていた事をシエルに言うと、シエルは大爆笑をしだした。


「あんた歳下だと思われてたの!? しかも私との会話が姉と弟みたいだからって…! はー面白い面白い…」


「笑いすぎだろ…結構ショックなんだぞ」


「でも確かに、あんたはなんか同年代ってよりは1歳下って方がなんかしっくりくるわ。

あんたがお兄ちゃんって聞いた時私結構びっくりしたもん」


「お前もそっち派なのか…」


ある程度笑い終えた後、シエルは涙を拭き、真剣な表情になる。


そんなシエルの変化に、虎太郎は首を傾げる。


「私がこの部屋に来た理由ね、もちろんフランに服を渡す為でもあるんだけど、もう一つあるの」


「なんだ?」


「あんたの事よ」


シエルは、虎太郎を指さした。


「あんた、なんで装束魔法…魔装を使えるの?」

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