第434話~月へと続く遺跡 その3 二階・砂漠編 前編~

 次の階層へと続く登り階段はそんなに長くはなかった。

 大体五分ほどで登り切った。

 登った先には扉と小さな窓があった。


「うわー、見てください。地上がはるか下ですよ」


 好奇心旺盛なヴィクトリアが早速窓から外の景色を覗くと、そこには地面をはるか下に見下ろす雄大な景色が広がっていた。


「たった五分階段を登っただけで何でこんな空高くにいるのよ!どうなっているのよ!」


 この景色を見て妹のやつが混乱している。


 まあ、わからなくはない。

 階段をたった五分、高さにして二、三十メートルという所だろうか、登っただけで今現在地上をはるか下に見下ろす位置にいるのだ。

 妹が混乱するのもむしろ当然だと思う。


 そんな妹に仲間の子が声をかけている。


「レイラ、気にするだけ無駄だよ。ここは神様が造った遺跡なんだから」

「そうだよ。気にしたら負けよ」

「それよりも先へ進んでお宝をゲットしようよ」

「……そうだね。気にしたらダメだよね。先に進もうか」


 仲間に諭された妹は納得したようで、ウンウン頷くのであった。


 それを見て俺は思う。

 妹のやつ、本当にいい子たちを仲間にしたものだな、と。


★★★


 さて、二階の扉をくぐるとそこは砂漠の世界だった。

 先程までの森林エリアと打って変わり、うだるような暑さが俺たちに襲い掛かって来る。


 これはホルスターと銀にはきついかな?

 そう思った俺は二人にタオルを頭からかぶせると肩車してやり、その上で。


「『天凍』」


 魔法で氷を作り出すと、布袋に入れて二人に持たせてやる。


「ホルスターに銀。しんどくないか?」

「うん。大丈夫だよ。氷気持ちいいし」

「銀も大丈夫です」


 どうやら早い対処が功を奏したようで、二人とも大丈夫なようだった。

 二人が無事なようで俺としては一安心だが、ここに一人だけ文句を言うやつがいた。


「ねえ、お兄ちゃん。私にも氷ちょうだい」


 誰あろう、俺の愚妹だ。

 俺の嫁たちや妹の仲間の子たちは水で濡らしたタオルを頭からかぶり、大量の水を飲んで何とか暑さをこらえているというのに、情けないやつだ。


 とはいえ、このままだとうるさいので氷を作って渡してやると。


「わ~い!ありがとう」


 と、子供のようにはしゃいでやがる。


 本当情けない大人の見本のような奴だ。

 こんなのが妹だと思うと、本当に情けなかった。


 それはさておき、妹のことは置いておくとしてもこのままでは砂漠でさ迷いそうなので、次の手を打つことにする。


★★★


 次の手を考えた結果、俺は航空偵察に出ることにした。

 大きなパラソルをヴィクトリアに出させて、それに仲間たちを残して一人航空偵察に飛び立つ。

 その成果はてきめんだった。


「お、遺跡らしきものがあるな」


 現在地から歩いて一日ほどの位置に遺跡らしきものを発見した。さらに……。


「あれはオアシスか。遺跡の途中で休憩するのにちょうどいいな」


 オアシスまで発見することができた。ここで休めば人心地着けると思う、

 さて、皆への手土産となる情報を得たことだし、帰るとしよう。


★★★


 皆の所へ帰るなり行動を再開する。


 しかし、相変わらず暑い。

 汗が体中から噴水の様に噴き出てくる。

 その度に大量に水を飲むが、水を飲んでも飲んだ水が汗となって大量に出て来るだけの話だった。


「何かいい手はないかな」


 俺は少しでも涼しくなる方法を考える。

 そして良い方法を思いついた。


「おい、ヴィクトリア。風の精霊を呼び出せ。そして、風を吹かせることはできるか?」

「もちろんできますよ。あ、もしかして風を吹かせて少しでも涼しくしようという作戦ですか?」

「そうだ」

「やっぱりですか。でもあまりお勧めな方法ではないと思いますよ。こんな暑い中で風が吹いても熱風になるだけですから」

「普通ならそうだろうな。でも俺に考えがある。『天凍』、『重力操作』」


 俺は魔法を使用して俺たちの後方に巨大な氷の塊を出現させ、空中に浮かべる。

 それを見て、ヴィクトリアがハッとした顔になる。


「ああ。あの氷の向こうから風の精霊に風を吹かせるのですね。確かにそれなら涼しい風が期待できますね。では早速やってみます。『精霊召喚 風の精霊』」


 俺の意図に気がついたヴィクトリアがすぐさま風の精霊を呼び出して風を吹かせる。

 するとすぐに涼しい空気が俺たちを包み込む。


「旦那様、最高です!」

「さすがはホルストさんですね」

「ホルスト君、頭いいね」


 と、嫁たちが俺を褒めたたえてくる。

 他のメンバーも涼しい風に満足したようで、「おおおおーーーー」と、俺の方を向いて手を叩いてくる。

 皆に褒めてもらえた俺は、うれしくなり思わず笑顔になるのだった。

 皆の役に立つアイデアを思いついて本当に良かったと思った。


★★★


 さて、多少暑さも和らいだことだし移動を再開する。


 暑ささえしのげれば砂漠は楽に移動できた。

 とりあえずの目標であるオアシスに向けて順調に進んで行く。


 進んで行くのだが……やはり砂漠はそこまで甘くなかった。


「ホルストさん、地中から魔物の反応があります。ワタクシの召喚した土の精霊から報告がありました」


 どうやら魔物が現れたようだった。


「みんな!戦闘準備だ!」


 俺は仲間に指示を出すと自らも剣を抜き、戦闘準備を整えるのだった。


★★★


「砂漠モグラか」


 地中から現れた魔物は砂漠モグラという魔物だった。


 モグラと言うと小さくてかわいらしい姿を想像するかもしれないけど、こいつは普通のモグラのように可愛くはなかった。


 まず体がとんでもなく大きい。多少の個体差はあるものの大人だと平均で十メートルくらいあるらしい。

 さらに言うと目の前の砂漠モグラはその平均サイズよりもさらにでかく、約二十メートルくらいの大きさがあった。

 本当にでかい。


 その上この砂漠モグラというやつは物凄く獰猛だ。


 普通モグラという生き物は地中を動き回って地中にいる虫などを食べる生き物なのだが、こいつは違う。

 地中を動き回るという点では同じだが、こいつは物凄く音に敏感で、その優れた耳で地上の生き物の動きを探知し、獲物を見つけたら地痛から出てきて容赦なく襲って食べるのだった。


 現に俺たちだってヴィクトリアの土の精霊がいなかったら急に襲われて後手に回っていたかもしれないのだ。

 砂漠モグラとはそういう恐ろしい相手なのである。


 さて、説明はこの位にして砂漠モグラと対決と行こうか。


★★★


 砂漠モグラ戦では主に俺とリネットネイアの三人で相手をすることにする。


 妹たちでは荷が重すぎるし、子供二人はここまでの道中で疲れているだろうから戦わせたくない。

 そこでエリカとヴィクトリアには防御に回ってもらい、妹や子供たちを守ってもらうことにする。


 まずは俺が牽制の一手を放つ。


「『天爆』」


 砂漠モグラの至近で爆発魔法を炸裂させる。

 これは砂漠モグラを殺傷するのが目的ではなく、砂漠モグラから聴覚を奪うのが目的だ。

 俺の狙いはうまく行ったようで、案の定砂漠モグラは聴覚がおかしくなってしまったのか、今まで堂々と威勢良く構えていたのが、急におろおろとし始めた。


 とはいえ、まだ油断はできない。

 モグラはほとんど目が見えない代わりに聴覚と嗅覚が優れていてその片方を潰しただけだからな。

 もう一方の嗅覚も無効化して万全を期す必要がある。


「ヴィクトリア、風の精霊でこっちを風下になるように風向きを調整しろ」

「ラジャーです」


 そうやって俺がヴィクトリアに指示を出し、ヴィクトリアが風邪の精霊に命令しようとしたところ。


「ここは私に任せてください!」


 何とフレデリカがここで名乗り出てきた。


「私が『風の小精霊』を呼び出して風向きを変えてみますので、やらせてください」

「いいでしょう。フレデリカ、やって見なさい」

「はい」


 そんなフレデリカにエリカがオーケーを出したので、早速フレデリカが魔法を行使する。


「『精霊召喚 風の小精霊』。風の小精霊よ!風向きを変えてください」


 フレデリカがそう風の小精霊に命令すると途端に風向きが変わり俺たちのいる方が風下になる。

 これで砂漠モグラの最後の探知手段である臭覚も奪うことができた。


 後は砂漠モグラを倒すだけである。


★★★


 砂漠モグラ自体はあっさりと倒せた。

 まあ、しっかりとした前準備のおかげで感覚器官を奪われて、大分戦闘能力が落ちているからな。

 その隙をついてリネットとネイアが攻撃を仕掛けて行ったらあっさりと倒せてしまった。


「『武神昇天流 龍殺飛翔撃』」


 まずそうやってネイアが竜をも倒すことができる必殺技を砂漠モグラの隙だらけの腹に打ち込む。


「グヘ!」


 それだけで砂漠モグラの巨体が揺らぎ、ドタンと地面に倒れ伏す。


「『飛翔一刀割』」


 倒れてもがいている砂漠モグラに対して、今度はリネットが必殺技を叩き込む。

 今度はガコンという大きな音をってて砂漠モグラの頭蓋骨が真っ二つに割れる。

 この一撃が致命傷となり、砂漠モグラは絶命した。


 普通の冒険者からしたら砂漠モグラは強敵なはずなのだが、俺たちにかかればこんなものだった。


★★★


 さて、砂漠モグラも倒したことだし移動を再開する。


「さあ、皆目的のオアシスまでもう少しだ。頑張ろう!」

「はい!」


 このような感じで俺たちは移動を開始した。

 目指すオアシスまであと少し。

 頑張って歩こうと思う。

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