第433話~月へと続く遺跡 その2 一階・森林編~

 入り口の扉をくぐるとそこは森だった。

 それを見て妹のやつが怪訝そうな顔をする。


「あれ?また森?もしかして遺跡の中へ入ったと思ったのに実は入っていなかったとか?」


 と、ダンジョン攻略経験の少ない妹からすれば当然の疑問を口にする。

 俺はその疑問に対してこう答えてやる。


「高難易度のダンジョンにはよくある話なんだ。実は入り口が他の空間に続いていて、一見外に出たんだと思っても実はダンジョンの中だったってことが。何せここは月の女神ルーナ様が造ったダンジョンだからな。何が待っていても不思議じゃない」

「ふ~ん。そうなんだ。不思議なこともあるものね」


 俺に説明された妹のやつは不思議そうな顔をしつつも一応納得したみたいで、首を縦にウンウンと振るのだった。

 さて、バカな妹への説明も終わったので早速探索開始である。


★★★


 森をしばらく歩くと濃い霧が出てきた。まあ、森ではよく見るトラップである。

 俺はすぐに仲間に指示を出す。


「みんな!今すぐロープで体を繋いではぐれないようにしろ!」


 そうやってみんな体をロープで繋ぎ、万が一にもはぐれないようにする。


「とりあえず、一安心だな」


 これで脱落者が出るという最悪の出来事は防げそうになったものの、霧が出ているという最悪の状況であることは変わらない。


 さて、どうしようかと思い過去の出来事を思い出してみる。

 そして、以前獣人の国でこんな風に霧で前が見えなくなった時、魔法で霧を吹き飛ばした事を思い出す。


「『天風』」


 ということで早速魔法を使ってみると。


「おっ、うまくいったな」


 見る見るうちに風で霧が吹き飛ばされて行き、視界良好となった。


「旦那様、これなら無事に進めそうですね」

「そうだな。それでは行くか」


 そして俺たちは移動を再開した。


★★★


 移動を再開しても行く当てがないのでとりあえず前へ進んで行く。


「『重力操作』」


 一度俺が空を飛んで周囲を見て回ったが、木が生い茂り過ぎていて上空からではめぼしいものを発見することはできなかった。

 という訳で歩いて怪しいものが無いか探すことにしたのだった。


「エリカとホルスターとレイラは『探知魔法』を使いながら歩け。俺とリネットとネイアは生命力探知を使う。ヴィクトリアとフレデリカは精霊で探索だ。銀とマーガレットとベラは目視で探索だ」


 そうやって複数の探知手段を用いて探索する。

 ただ、中々成果は上がらない。


「ホルストさん、ワタクシの精霊が魔物を発見しました。ポイズンスネークですね」

「ち、魔物か。俺が始末してくるから、お前たちはここに居ろ」


 そうやって時たまが魔物が現れる程度だった。

 現れた以上は対処しなければならないので俺は列を離れて魔物へと向かう。


「往生しろ!」


 そして一刀のもとに斬り捨ててしまう。

 そんな光景が先ほどから繰り返されていた。

 とは言っても、ひたすら地道に探すしか手はなさそうだ。ということで、魔物も倒したことだし次へ進むことにする。


 と、その前にポイズンスネークを回収しておくか。

 ポイズンスネークは毒を持った大型の蛇の魔物で、森の中で動物を狩って生きている魔物だ。

 結構獰猛な上に強い魔物で、時にはビッグヘルキャットでさえ狩られることがあるそうだ。


 そんなこいつの皮は防具の素材として高く売れる。

 だからちょっとした資金稼ぎにはなるので回収することにする。

 俺はヴィクトリアを呼ぶ。


「おい、ヴィクトリア」

「ラジャーです」


 俺に呼ばれたヴィクトリアはポイズンスネークを収納リングに回収する。

 すると魔物の姿はすぐに消え失せ、無事に収納リングに収まるのだった。


 さて、魔物を始末し、素材も回収したことだし、先へ進もうか。

 俺がそう考えていると、魔物を回収していたヴィクトリアが何かに気がついたのか声をあげる。


「ホルストさん。あそこの木陰に何かいますよ」


★★★


「どれどれ」


 ヴィクトリアの指摘を受け、俺はその木陰に近づいてみる。

 すると……。


「狐?」


 一匹の狐がそこにいた。

 多分先ほどのポイズンスネークに襲われていたのだろう。

 かわいそうなことに、息をひそめるようにして木の陰に隠れてプルプルと震えていた。

 よく見ると怪我もしているらしく出血までしている。それがポイズンスネークのせいだとすると毒ももらっているかもしれない。


 俺はすぐにヴィクトリアを呼ぶ。


「ヴィクトリア、すぐにこの狐に治癒と解毒の魔法をかけてやれ」

「ラジャーです。『上級治癒』、『解毒』」


 こうして俺たちはポイズンスネークに襲われていたであろう狐を一匹助けたのだった。


★★★


 狐の治療が終わった後は、銀に事情を聞いてもらった。


「さあ、いい子だから銀に話しなさい」


 そう言いながら銀が声をかけ、事情を聞き始める。


 しばらくその様子を俺たちは見守っていたのだが、しばらくすると、狐のやつ、突然銀に平伏し始めた。

 狐の会話はわからないので想像でしかないのだが、多分銀がこの世界の狐の長たる白狐の娘だと知って態度を改めたのだと思う。


 それで、狐が平伏したままの状態で会話は続き、一通り話し合いが終わったところで銀が俺に報告してくれる。


「ホルスト様。やはりこの子はさっきのポイズンスネークに襲われていたそうです。『危ないところを助けていただき、ありがとうございます』と、皆様にお礼を述べています」

「おお、やはりポイズンスネークに襲われていたのか。それは危ないところだったな。助けられてよかったよ」


 本当偶然とはいえ銀の眷属である狐を助けられてよかった。


「それで、ホルスト様」

「何だ?」

「銀がこの子に何か遺跡のようなものに心当たりがないか聞いたところ、ここから五キロほど離れた所に、月の紋章が描かれた建物があるそうです」

「本当か?」


 月の紋章か。確か遺跡の入り口にもあったやつだ。それが描かれた遺跡があるということは……

間違いなく前へ進むための遺跡に違いなかった。


「本当ですとも。この子が助けてもらったお礼にそこまで案内してくれるそうですよ」

「それはありがたい。是非頼むと伝えてくれ」

「畏まりました」


 そんなわけで俺たちは狐に遺跡まで案内してもらえることになったのだった。


★★★


 小一時間後。


 俺たちは問題の遺跡へ到着した。

 遺跡は小さな物置小屋くらいの大きさで、森の木々の中に隠れるようにして存在していた。


「お?これは月の紋章だな」


 遺跡を見てみると入り口の扉には月の紋章が描かれていた。

 この遺跡が目的の遺跡で間違いなかった。


 そんなわけで早速行動開始だ。

 俺は扉の月の紋章に手を開け、魔力を流し込む。


 すると、パタンと扉が勝手に開いた。

 どうやら中へ入れということらしかった。

 中を覗き込んで見ると上へと続く階段がそこにはあった。


「この階段を登れば次へ行けそうだ」


 ようやく先へ進むルートを見つけることができて俺たちはホッとした。


「ヴィクトリア、この狐にお礼をあげてくれ」

「ラジャーです」


 俺に言われたヴィクトリアが収納リングから稲荷寿司が入った包みを出し、案内してくれた狐に渡す。

 狐はそれを受け取ると、最後にぺこりと頭を下げ、包みをくわえたままどこかへ行ってしまった。


 さて、狐にお礼もやったことだし先へ進むとしよう。


「さあ、皆行くぞ」


 こうして俺たちは次の階層へ行くべく階段を登り始めたのであった。

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