第432話~月へと続く遺跡 その1 遺跡の入り口~

 潜水艇の完成までまだかかりそうなので、『月へと続く遺跡』へ行ってみることにした。


 『月へと続く遺跡』とは、文字通り月へと行くための遺跡だ。

 以前、魔法の修業のため、俺たちはヴィクトリアのおばあさんに月へ連れて行ってもらったことがあった。

 あの時はおばあさんの魔法で一瞬で月へと行ったが、本来は『月へと続く遺跡』から行くのが正規のルートなのであった。


 というか、俺の魔法を使えば今でも一瞬で月へ行けるので俺たちには行く必要のない遺跡だった。

 それにもかかわらず、俺たちがこの遺跡へ潜ると決めた理由なのだが、ヴィクトリアのおばあさんの話によると、ここにはあれがあるらしかった。


 あれが何かって?

 もちろん、お宝に決まっている。


 どうも月を目指す勇敢な冒険者向けにおばあさんが用意した物らしかった。

 もっとも、今の所この遺跡に挑戦した冒険者はゼロらしいので、おばあさんの折角の用意も今の所活かされていない状況という訳だ。

 だから俺たちが挑んでそのおばあさんの好意をいただいてしまおうという訳である。


 ただ、ヴィクトリアのおばあさんってヴィクトリアに似て、というかヴィクトリアがおばあさんに似て、適当にものを言うところがあるから、期待半分という感じでいることにする。


★★★


 さて、今回はいつもの嫁とホルスターたちに加えてネイアも連れて行くことにする。

 『月へ続く遺跡』にも魔物が棲みついているという話なので、良い実戦の機会になるからだ。


 え?この前の一角獣の件といい、今回の遺跡といい、そんなにネイアを連れ出して仕事は大丈夫なのかって?


 当然問題ない。

 エリカのお父さんの許可はちゃんと取ってある。

 エリカのお父さんは俺たちの神命についてもある程度知っているので。


「ネイア君がホルスト君たちの戦力になるというのなら、連れて行ってもいいよ」


 と、許可をもらっている。

 だから必要な時にはこうして連れ出しているという訳だ。


 後、おまけで妹のパーティーも連れて行ってやることにする。

 あいつらは嫁入り前にできるだけ稼いで、旦那や子供のために使ってやりたいと言っているからな。

 花嫁修業も兼ねたうちの手伝いも一生懸命やってくれているみたいだし、俺としても応援したいと思うわけだ。


 実力的にはちょっと厳しいかもしれないが、そこは俺たちがフォローしてやればよい。

 そんなわけで誘ってみると。


「「「「是非連れて行ってください」」」」


 と言うので連れて行くことにした。


 ちなみに妹のパーティーの中で妹だけはあまり連れて行く気がしなかった。

 こいつだけは稼いだ金を浪費してしまうような気がしたからだ。

 とはいえ、一人だけ連れて行かないのも妹たちの人間関係にひびが入りそうだったので、連れて行くことにした。


 もちろん、一応釘はさしておく。


「レイラ。お前、稼いだ金は無駄遣いしたりせず、ちゃんと持参金として嫁入り先に持って行くんだぞ」

「大丈夫!任せて!」


 本当かな?


 妹の軽い返事を聞いて、俺はそんな感想を抱いたが、妹のやつ最近エリカに金の収入をバッチリ把握されていて、余計な金はすぐ貯金させられているし、仲間の子たちも見張ってくれているみたいだから、とりあえず信じることにする。


 と、こんな感じでメンバーをそろえた俺たちは『月へ続く遺跡』へと向かうのだった。


★★★


 『月へ続く遺跡』の入り口は『エルフの魔樹』、まあダークエルフに言わせると『エルフの神木』なのだが、のある場所から半日ほど歩いた場所にあるとのことだった。


「『空間操作』」


 ということで、一旦『エルフの魔樹』まで魔法で飛ぶ。


「うわー、エルフの神木さん、大きくなりましたね」


 一年ぶりにエルフの魔樹のあった場所に行くと、俺たちが帰った後エルフたちの手によって植樹された『エルフの神木』がかなり大きくなっているのが確認できた。

 すでに四、五メートルくらいの大きさになっている。


 普通の木がどのくらいで大きくなるのか知らないが、結構早い成長速度ではないかと思う。

 まあ、元がバカでかい大木だったので、まだまだではあるけどね。


 そんな『エルフの魔樹』を横目に見物しながら、俺たちは遺跡に向かって歩み出す。


★★★


 予定通り半日ほどで『月へと続く遺跡』へ到着した。

 途中、ビッグヘルキャットが何度か出てきたりしたが、俺たちの今の戦闘力なら難なく倒せる相手なので軽く倒しておいた。


「何か物凄い魔物が出て来るね」


 妹のやつなど初めて見る魔物にビビッていたが。


「ビッグヘルキャットの毛皮って高く売れるんだぜ。エリカのお父さん何か金貨何十枚も出して買った大きなビッグヘルキャットの毛皮を持っているぞ」


 と、教えてやると。


「毛皮売ったら分け前ちょうだい!」


 先ほどのビビりはどこへやら、そんなことをほざいてやがった。

 本当に我ながらあざとい妹を持ったものだと思う。


 さて、肝心の遺跡だが、森の木々に隠されるようにして入り口が存在していた。

 正直ここに遺跡があると知らなければ見落としてしまいそうな配置だった。


 ヴィクトリアのおばあさん、これでは冒険者が寄ってこないよ。

 と、思わず思ってしまうような場所にあるのだった。


 まあ、いい。さっさと中へ入ろう。


 俺は入り口の扉の前に立ち、おばあさんに教えられた通り、扉に描かれている月の紋章に手を当てそこに魔力を流し込む。


「お、開いたぞ!」


 すると聞いた通りに扉が開いたのだった。


「それでは中へ入るぞ」


 そして、俺たちはいよいよ遺跡の探検を始めるのだった。

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