第429話~妹たちの行く末~

 さて、妹のレイラたちの結婚の件をお父さんに頼みに行ってから半月後。

 妹のパーティーを俺の家へ呼んで、状況がどうなっているかの報告会を行った。


「ほら、ケーキを買ってきましたからこれでも食べながらお話ししましょうか」


 エリカがそう言い、お菓子をテーブルの上へ並べ、妹たちをテーブルに座らせると会議開始だ。


 まず俺たちの方から状況を説明する。

 説明するのはエリカだ。

 こういう話は同性がした方が話した方が良いと思うので、今回はエリカに話してもらうことにした。


「それではまず私たちの方の状況から説明しますね。あなたたちの結婚の相手探しは私の父に一任しているわけですが、まあ概ね順調だという話です」

「「「「それは良かったです」」」」


 婿選びが順調だと聞き、妹たちは一様に笑顔を浮かべる。


「まあ、そういうことでもうちょっと待ってくださいね」

「「「「はい」」」」


 さて、俺たちの報告はこれで終わりだ。

 次は妹たちの方の話を聞こうと思う。


★★★


 まずはフレデリカから話を聞く。


「この前話し合いが終わった後、早速実家の父の所へ私の結婚の件と兄の仕官の話を書いた手紙を送りまして、その返事が今日届きました」

「そうですか。返事が届きましたか。それで結果はどうでしたか」

「はい、『勘当を解き、結婚を認める』とのことでした」

「勘当を解いてもらえたのですね。それは良かったですね」


 そう言いながらエリカはフレデリカの頭を撫でてやっている。

 自分がかわいがっている子が、勘当を解いてもらえてうれしいのだと思う。


「これで、堂々と結婚できるようになりましたね」

「はい。それもこれもすべてエリカさんたちのおかげです。ありがとうございます」

「いえ、これもあなたが自分の行いを反省して、態度を改めた結果ですよ。だからもっと自分を誇りなさい」


 そう言いながらまたフレデリカのことを撫でてやっている。

 それを見ていると、エリカ、随分フレデリカのことを気に入ったように感じられた。


「それで、エリカさん。兄の仕官の件はどうなっているのでしょうか。父からは、そっちの方もどうなるか知らせてほしいと来ているのですが」

「それでしたら、あなたの結婚式の時にでも話しましょうか。ですから、あなたのお父様には『結婚式の時に家族で来て欲しい。その時に仕官の面談もする。結婚式の日取りは決まり次第連絡するので待って欲しい』と伝えておきなさい」

「はい、了解しました」


 こんな感じでフレデリカとの打ち合わせは終わり、以後の予定が決まったのだった。

 何にせよ、これでフレデリカはお父さんと仲直りできそうで良かったと思う。


★★★


 次はマーガレットとベラの二人を聞くことにする。


 マーガレットとベラは同じ村、同じ孤児院の出身だ。

 それで、それぞれ弟と妹を出身の孤児院に預けて出稼ぎに出ている身だ。

 だから、二人まとめて聞くのが一番効率が良いと思い一緒に聞くことにした。


 ちなみに二人に話を聞くのは引き続きエリカだ。


「それで、マーガレットにベラ。手紙の方はちゃんと送りましたか」

「はい、私は弟と孤児院の神父様に手紙を送りました」

「私も妹と神父様に手紙を送りました」


 どうやら二人ともエリカに言われた通り故郷へきちんと手紙を送ったようだった。


「それでどんな感じでしたか」

「「二人とも神父様に祝福の言葉をいただいて、良い縁談の話が来ているのなら是非結婚しなさいと言われています」」

「そうですか。祝ってもらえたのですか。よかったですね」

「「はい」」

「それで、弟や妹さんたちはいつ引き取りに行くつもりですか」

「それがですね。私とベラ二人で一緒に引き取りに行くと手紙には書いていたのですが……」

「神父様からの返信の手紙には、『私が結婚式の日取りに合わせて二人を連れて行くから、結婚式の日が決まったら知らせなさい』と書いてあったんです」

「まあ、神父様が連れて来てくれると仰っているのですか」


 神父様が二人の弟たちを連れて来てくれると聞いて、エリカが驚いている。


 それはそうだろう。

 孤児院を運営している神父様が村を離れたら孤児院はどうするのだろうか。

 俺はそう思った。


 エリカも同じことを思ったらしく。


「でも、神父様が弟さんたちを連れて来るとなると、孤児院の運営はどうするつもりですか」


 二人にそう聞き返している。

 それに対して二人はこう答える。


「それなら大丈夫だと思います。孤児院は神父様だけでやっているのではないので」

「シスター様もいらっしゃって、二人でやっているんです。だから半月くらいなら神父様がいなくても問題ないと思います」

「まあ、そういう事なのですか。それならば大丈夫そうですね」


 二人の返答を聞いたエリカがホッとした顔になる。

 俺もエリカ同様に安心した。

 確かにシスターがいるのなら孤児院の方は大丈夫だと思う。


 ただ、少し心に引っかかる。

 神父様がそうやって心を尽くして二人のためにしてくれようとしているのに、その好意に甘えるだけでよいのかと。


 そこで、俺はしばらくどうすればよいか考えた。

 考えて結論を出し、二人にこう提案する。


「神父様がこっちまで来てくれるというのなら、神父様にシスター様、孤児院の子供たち全員をこっちへ招待すればいいんじゃないか」

「「全員ですか」」


 俺の提案に対して、今度は二人が驚いた顔をする。

 多分そんな事、二人は考えてもいなかったからだと思う。


「そうだ。何せ二人の門出の儀式だからな。祝ってくれる人は多い方がいいだろう」

「「それは……そちらの方が私たちも嬉しいですが、孤児院には小さな子もいるのです。そんな子を連れて歩いてこっちへ来るのは無理です」」

「歩く?そんな必要はない。馬車をこっちから派遣すればよい。大きくてゆっくり旅のできる馬車を送り込めば、子供でも安心して旅ができるだろう」

「「馬車ですか?確かにそれなら行けそうだと思いますけど、孤児院には三十人くらいは子供がいるんです。馬車の一台や二台では運びきれません」」

「ならば、必要な分だけ馬車を送ればいいじゃないか。費用のことなら心配するな。全部俺たちが出してやるから」

「「え?そこまでしてもらうわけには」」

「いいや、お前らはパトリックの世話をよくしてくれたし、子供たちとも遊んでもらった。何より、俺の妹と仲良くしてくれている。だから俺も嫁たちもお前らにはとても感謝しているんだ。だからこの位の事をしてやるのは当然だ。みんなもそう思うだろ?」

「「「はい、その通りだと思います」」」


 俺の意見には嫁たちも全員賛成で、異口同音にそう言うのだった。


「「でも……」」


 それでも二人は固辞しようとしたが、嫁たちが「「「いいから、いいから……」」」と猛烈にプッシュするものだから、二人とも抗しきれなくなり、最終的には、「「お願いします」」ということで落ちついたのだった。


 さて、これでフレデリカとマーガレットとベラの話は聞いたことだし、次は妹の番だ。


★★★


 妹の番とは言ったが、特にやることはなかった。

 妹はエリカのお父さんが決めた相手と結婚するだけの話だからな。

 特に言う事は無いのだった。

 ただ、それでも一応最後の情けはかけてやることにする。


「エリカのお父さんには複数の人を選んでくれるように頼んであるから、そいつらと見合いしろ。それで気に入った奴を選べ!」

「わかった。そうする」


 これで妹との打ち合わせは終わりだ。

 妹のパーティーは重大事案が終わったことに安堵したのか、全員一様にホッとした顔をしている。

 そんな妹のパーティーの子たちにエリカが声をかける。


「さて、これであなたたちの将来も固まりそうですが、お嫁に行くのならその前にやることがあるのはわかっていますね?」


 エリカに諭すように言われた四人がゴクリと唾を飲みながら、エリカの話を真剣に聞く。


「ということで、明日からあなたたちの花嫁修業をしましょうね」


 にこやかな顔でエリカはそう宣言した。

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