第428話~パトリックに新しく子供ができたよ~

 エリカの実家での用事が済んだ後は、ヒッグス家の牧場へ行った。


 何のためかって?

 それはパトリックの新しい子供たちを見に行くためだ。

 今年も無事にパトリックの嫁さんたちが子供を出産したと報告を受けたので見に来たのである。


 まあ、俺は一回見に行ったんだけどね。

 というのも、パトリックの新しい子供たちが生まれたのは俺たちが獣人の国へ旅立つ前のことで、その時はドタバタしていて行けなかった。

 その後、春の馬の繁殖シーズンくらいになってパトリックの嫁さんたちに次の子を種付けするために俺がパトリックを牧場へ連れて行ったことがあり、その時に子供たちを見たのだった。


 とても元気そうな仔馬たちだったので、「元気に育てよ」と仔馬たちに声をかけてその時は帰ったのだった。


 ちなみに今回もパトリックの種付けは成功して、パトリックの嫁さんたちは新たな命をお腹に宿している。

 このまま行けば、来年も三頭ほどパトリックの子供が増えることになると思う。


 話が少しそれたが、ということで、俺以外はパトリックの新しい仔馬たちを見るのは初めてである。


「あら。かわいい仔馬さんたちですね。銀ちゃんとホルスターちゃんもそう思うでしょ」

「はい、ヴィクトリア様かわいいです!」

「うん、かわいいね」


 仔馬たちを見るなり動物好きのヴィクトリアが早速食いついて行き、それに銀とホルスターが続く。

 仔馬たちはまだ小さいので母馬たちにくっついて牧場の中を歩き回っていた。

 その光景がとてもかわいらしい。


「まあ、仔馬ちゃん。お母さんにべったりですね。とても羨ましいです。いつかはワタクシも」

「私も次の子ができたら……ああしたいですね」

「アタシも来年くらいには」

「私はああいう風に子供を連れてエルフの森を歩きたいです」


 と、四人の嫁たちは母馬と戯れている仔馬たちをほほえましそうに見ている。

 自分もああなりたいと強く願っている感じだった。


 俺も嫁たちの意見には賛成だ。

 世界を早く平和にして嫁たちとゆっくり子供を育てたい。

 ここの馬たちのように!


 そう思うと、サッサと地脈を封印して神聖同盟の奴らを黙らせてやろう。

 改めてそう思うのだった。


★★★


 さて、折角牧場まで来たのだから仔馬たちに名前をつけたいと思う。


「まずはパトリシオンの妹からだな」


 最初に名前をつけることになったのは将来ホルスターの乗馬になる予定のパトリシオンの妹からだ。

 母馬に似て小柄の鹿毛で見た目がとてもかわいらしい仔馬だ。

 それで嫁たちがこの馬の名前について相談している。


「私はエマなんかいいと思うのですが」

「ワタクシはクリスが良いと思います」

「アタシはメイがいいかなあ」

「私は、セイラがいいんじゃないかと思います」

「みんな、意見がバラバラですね。こういう時は……」

「「「「じゃんけんで勝負です」」」」


 ということで、じゃんけんで名前を決めることになった。その結果。


「ワタクシの勝ちですね。この子の名前はクリスちゃんで決定ですね」


 珍しくヴィクトリアが勝ち、この子の名前はクリスに決まった。


 次に名前を決めるのは嫁たちの乗馬になる予定のシーザーの妹だ。

 この子は母馬や兄と同じく黒毛の馬だ。

 雌馬にしては体格が良いが、とても丈夫そうな仔馬だった。


 この子の名前は銀が決めることになった。

 名前をつけることを任された銀はしばらく考えた後。


「リリスちゃんがいいと思います」


 そう自分の案を言ったので、この子の名前はリリスに決まった。


 最後は銀の乗馬になる予定のアリスの弟の名づけだ。

 こいつは父親のパトリックに似て大柄の葦毛だった。


 それで、この子の名前をつけるのはホルスターの役目だった。


「ホルスター、カッコいい名前をつけてやるんだぞ」

「うん」


 俺に言われたホルスターはしばらく考え、こう発言した。


「そうだね。アレックスなんかいいと思うよ」

「アレックスか。いいんじゃないか」


 ということで、この仔馬の名前はアレックスに決まった。


 さて、これで仔馬たちの名前も決まったことだし、もう少しのんびりしてから帰ろうと思う。


★★★


「ホルスターちゃん、仔馬さんたち可愛いですね」

「うん、そうだね」


 仔馬たちの名づけが終わった後、ホルスターと銀は二人だけの世界に浸って柵の外から仔馬たちを眺めつつ、時々仔馬たちに話しかけたりしている。


「「「「ふふふ。二人とも楽しそうですね」」」」


 そんな二人を嫁たちはテーブルに座ってお茶を飲みながら楽しそうに見物している。

 昼下がりの牧場でのんびりと馬の見物をする。

 とても牧歌的で絵になる光景で、俺も心が休まる気がしてのんびりとできて心地が良い。

 まだ小さい仔馬の側に子供たちを置いておくのは危ない気もするが。


「まだ仔馬たちは小さいからな。急に暴れたりする可能性もあるからな。気を付けるんだぞ!」


 一応二人にはそう注意しておいたし。


「大丈夫です。銀は動物の言葉が分かるので」


 動物の言葉が分かる銀も一緒なので大丈夫だと思う。

 銀のやつ、時々仔馬に話しかけては。


「まあ、ここの牧草はそんなにおいしいのですか」

「リリスちゃんは割と甘えん坊なのですね」


 そんな風に仲良く会話しているからな。

 それに、なぜかこの仔馬たちもその兄馬たちもとても賢いようだから暴れたりはしないだろう。


 ちなみに、この子たちの上の仔馬たちは今現在調教中だ。

 聞く話によると、三頭ともとても賢く、調教師さんの言うことをよく聞いて順調に調教は進んでいるようだ。

 この調子だと、秋か冬くらいには人を乗せて走れるようになると思う。

 本当、パトリックの子供たちってとても賢いと思う。


 というか、親であるパトリックも賢いんだよね。

 俺の命令はちゃんと聞いてくれるし、とても勇敢で魔物とか出ても全然動じないしね。


 その上、割と家族思い何だよな。

 この前種付けに連れて来た時も、やることが終わった後一緒の柵に放してやると、嫁さんたちの毛づくろいなんかしてやったり、仔馬たちと一緒に走って遊んでやったりしていたし。


 普通人間に飼われている牡馬は自分の子供とほとんど顔を会わせないので、目の前の仔馬が自分の子供だとわからなくて結構子供に対して冷淡だと聞くのに、こいつはきちんと自分の子供だと理解しているらしかった。



 そういえば、牧場の中で上の仔馬たちと会った時も「ブルルン」といなないて、鼻で子供たちの体を撫でてやっていた。

 これも上の仔馬たちが自分の子だと理解しての行動だと思う。

 それを見ていた牧場の飼育員さんも「珍しいですね」と言っていたから、本当に滅多にないことなのだと思う。

 不思議な話だが、まあそういう事もあってもいいのではないかと思う。


 何にせよパトリックにはいつもお世話になっているのだから、この際お礼でも言っておこうと思う。

 俺は放牧地でのんびりと牧草を食べながら、優しい瞳で自分の家族を眺めているパトリックに近づくとこう言うのだった。


「パトリック、これからもよろしくな」

「ブヒヒヒヒン」


 俺に言葉をかけられたパトリックはいなないて俺の思いに応えてくれるのだった。

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