第426話~妹、バカなことを言い始める~
「わかったわ」
俺に嫁になれと言われた妹のやつはそう返事をした。
正直俺はホッとした。
これでようやく頭痛の種から解放される!
そんな気持ちで心が満たされた。
と、そんな最高の気分の俺に対して妹のやつがトンデモ発言をぶつけてくる。
「それで、お兄ちゃん。私はいつどこでお兄ちゃんに初めてをあげたらいいの。どうせあげるんなら、どこか素敵な場所に連れて行って欲しいな」
俺はこいつは突然何を言い出すのだろうかと思った。
初めてをあげる?何のことだ。
そう思った瞬間、俺は目の前のバカがとんでもない勘違いをしていることに気がついた。
「レイラ。お前、『嫁になれ』という言葉の意味を、まさか『俺の嫁になれ』とか解釈していないか」
「え?違うの?」
「アホか!お前は何を考えているんだ!『嫁になれ』とは、『嫁に行け』って言う意味に決まっているだろうが!」
この妹は本当に言葉の表面的な意味しか理解できない奴だ。
だからこそ詐欺業者になんか簡単に騙されるんだろう。
そう思った。
ちなみに、妹の発言には嫁たちも激オコのようで。
「レイラさん!兄妹で結婚するとか何を言い出しているんですか!いい加減にしなさい!」
「そうですよ!いくら妹ちゃんの頭が弱くても言っていいことと悪いことがありますよ!もうちょっとしっかりしないと、本当に将来破滅しますよ!」
「ヴィクトリアちゃんの言う通りだよ!確かにホルスト君は素敵な人だけど、兄妹でそんなことを考えちゃダメだよ!」
と、妹のやつ、嫁たちに散々怒られてしまったようだった。
まあ、ここまでやらかせばうちの嫁たちの怒りを買うのも当然なので仕方がないけどね。
★★★
さて、妹のアホが嫁たちに一通り怒られたところでお話の再開だ。
「ということで、レイラ。お前は俺の言う通りに嫁に行って、大人しくしていろ!わかったな?」
「それはいいんだけど、嫁入り先はお兄ちゃんじゃないんだよね」
「当たり前だ!というか、お前、そんなに俺の嫁になりたいのか?」
「全然なりたくない。でも、お兄ちゃんのお嫁さんになったら一生お金に困らなさそうで楽に生きられるかなとは思った」
この野郎!
本音をずけずけと言いやがって!要は金目当てかよ!
俺は金だけが目当ての女と一緒になりたくないし、そもそも妹と結婚したいなどとこれっぽっちも考えたことはない。
だから妹の言い分を聞くだけでも本当腹が立つ。
とはいえ、ここで腹を立ててもしょうがないので、話を進めることにする。
「まあ、いい。それでお前には俺の言う通りに嫁に行ってもらうからな。言っておくけど、これはエレクトロン家の家長としての命令という形でやらせてもらうからな。つまりは政略結婚でお前は嫁に行くんだ。だから、お前に拒否権は無いからな」
「政略結婚?ということは、それなりの人と結婚させてくれるの?ヒッグス一族のそれなりの魔法使いの家とか?」
その妹の希望的観測に対して、俺は首を横に振る。
「残念だが、お前の悪行は一族の間でも広まってしまっていてな。一族の中でそれなりに家格の高い魔法使いの家はもうお前を嫁にもらっちゃくれないんだよ」
「え~そんなあ。じゃあ、どこへお嫁に行くの?」
「ヒッグス家に代々使えている騎士家だな」
「騎士家?それって魔法使いよりだいぶ格が落ちるじゃない」
妹の言う通りだった。
ヒッグス家の家臣団は魔法使いの家が上位に位置付けられていて、騎士の格はどうしても落ちた。
普通なら俺の家から騎士家に嫁を出すのはあり得ない話なのだが、この際だから仕方がなかった。
「うるせえ!全部お前の所業が招いたことだから諦めろ!それとも嫁に行くのを拒否して、怪しい仕事でもして借金を返すのがいいのか?」
「いえ!嫁に行く方でお願いします!」
俺に最後通牒を突きつけられた妹のやつは、結局大人しく政略結婚を受け入れる気になったようだ。
ふう、一時はどうなるかと思ったが、妹のやつが受け入れてくれて肩の荷が下りたような気がしてホッとするのだった。
★★★
「それで、お兄ちゃん。私はどこの誰と結婚するの?」
「それはまだ未定だな。今エリカのお父さんが探してくれている。ただお前の場合、今までの所業がひどすぎて騎士家でも長男は無理そうだから、次男坊で将来性がありそうなのに新規で家禄を与えて、そいつと結婚ということになると思う」
「新規召し抱え?でも、それだと住む所とか探さなきゃね」
「安心しろ。実家の屋敷をお前にやるから、そこに住め」
「え?実家をくれるの?」
「ああ、やる。その代わり、オヤジとおふくろの世話はお前がしろ」
正直な話をすると、実家の家屋敷は俺には不要だ。あそこには嫌な思い出しかないからな。
だから、あそこは妹にくれてやって、ついでにオヤジたちも押し付けられれば、俺の中でまとめて色々なものを整理できて好都合だった。
「でも私が実家をもらうと、お兄ちゃん、家が無くなるけど構わないの?」
「お前が気にすることじゃない。俺はもうしばらく冒険者で稼ぐつもりだから当面はノースフォートレスにいるつもりだし、将来的にヒッグスタウンに帰るとしてもすでに屋敷を建てるための土地を買ってあるから、そこに新しく屋敷を建てるつもりだしね」
「え?家を建てるの?じゃあ、私にそっちをちょうだい」
「ふざけるな!新しい家が欲しいんだったら、自分で金を貯めて実家でも建て替えろ!」
「ちぇっ!」
本当にどこまでも図々しいやつだ。こんなのが妹だと思うと、本当に嘆かわしかった。
まあ、いいや。今回の件で妹の件も片付きそうだし、これ以上を求めるのは止めておこう。
★★★
こうして妹の件は片付いたわけだが、こうなると心配なのは妹のパーティーの子たちだ。
妹が嫁に行くということは、どうしてもパーティー解散ということになってしまうからだ。
三人ともまだまだこれから稼ぎたいだろうに、妹のせいでそれがおじゃんということになっては申し訳が無い。
ということで、できるだけフォローしてあげたいと思う。
「マーガレットにベラにフレデリカ。そんなわけでレイラは嫁に行くことになった。ということで、レイラはお前たちのパーティーから抜ける可能性が高くなってしまった。急にこんなことになってしまって、お前たちにも迷惑をかけてしまって申し訳ない」
そう言いながら俺は三人に頭を下げる。
それに対して、三人は慌てて手を振って別にいいよとアピールしてくる。
「「「レイラが抜けるのは痛いですけど、これでレイラが結婚して幸せになれそうなので良かったです。私たちのことは自分で何とかしますので気にしないでください」」」
その言葉を聞いて、本当にこの子たち良い子だなと思った。
こんな時でもこういう事を言えるなんて本当に天使のような子たちだ。
どこかの迷惑ばかりかける妹とは大違いだ。
こんな子たちを見捨てることなど俺や嫁たちにはできなかった。
だから、前々から考えていたレイラがもしパーティーを抜けることになった場合のフォロー案を言ってみることにする。
「なあ、お前たち。もしよかったら、お前たちもこの際だから結婚する気はないか?もちろん、結婚相手は俺とエリカできちんとした奴を紹介してやる」
「「「え?私たちにも結婚相手を紹介してくれるんですか?」」」
「ああ。とは言っても、相手はレイラと同じくヒッグス家の騎士になると思うけどな。それでいいのならお見合いしてみないか?」
俺たちが紹介するのはヒッグス家の騎士家の子になると思う。
まあエリカの実家から家禄をもらっているきちんとした家の子を紹介するつもりだ。
だから役職にさえついていれば食うに困ることはないし、社会的な地位も下級貴族並みにはあるので三人も満足してくれるのではないかと思う。
それに三人とも結婚願望が強いみたいで、結婚のためにお金とかも貯めていたりするみたいだから俺たち的には良い提案をできたのではないかと思う。
実際、話を聞いた三人は。
「「「是非紹介してください」」」
と、大いに乗り気だったしね。
ただ、結婚するに際して三人とも悩みがあるらしくて、その点を俺たちに相談してきた。
「実は私とベラは故郷の村の孤児院にそれぞれ弟と妹を預けているんですけど、私たちが結婚するんだったら、その二人に仕送りするのが難しくなりそうなんで、どうしようかと悩むんです」
どうやらマーガレットとベラは故郷にいる弟たちのことが気になるようだ。
まあ、離れて暮らす弟たちが気になるのはわかる。
だが、俺たちにかかればそんな心配は不要だ。
エリカが二人に対して優しく説明してあげる。
「そのようなことは心配しなくても大丈夫です。弟さんや妹さんは引き取ってあげればよいではないですか。その方が弟さんたちも喜ぶでしょうし」
「「でも、それだと結婚相手に迷惑がかかるんじゃ」」
「私や旦那様が紹介するのですから、あなたたちの弟さんたちを引き取るのを拒否するような甲斐性なしを紹介したりしません。だからご安心しなさい」
「「そうですか。そこまで気を使っていただけるとは、ありがとうございます」」
離れている弟妹達と一緒に暮らせそうだと知り、二人は喜ぶのだった。
「まあ、それでも気になるというのなら、ヒッグスタウンに籍を移して冒険者を続ければいい。簡単な仕事で稼げば旦那に気兼ねすることもなくなるし、家計の足しにもなって申し分ない。後、今度俺たちも稼ぎに行くつもりだからそれについて来いよ。バッチリ稼がせてやるから」
「「そこまでしてくれるのですか。ありがとうございます」」
俺たちの案に満足してくれたのか、そう言いながら二人は頭を下げて感謝してくれるのだった。
さて、これでマーガレットとベラの悩みは解決した。
残りはフレデリカだけだ。
「私、実家から勘当されている身でして。それなのに騎士家の人と結婚したら、相手の人が何か悪口を言われるんじゃないかと心配で」
ふむ。そういえばフレデリカは勘当されているとか言っていたな。
そして、そのことで結婚相手が何か言われるのを気にしているという訳か。
ふむ、そうなると何か手を考えてフレデリカの勘当を解いてもらいたいところではあるな。
俺は何か手がないか考える。
……そういえば、フレデリカにはお兄さんがいるという話だったな。
もしかしたらその辺から手が打てるかもしれない。
そう思った俺はフレデリカに聞いてみる。
「そういえばフレデリカにはお兄さんがいるんだったな。今何をしているんだ?」
「私には兄が二人いますが、上の兄は跡継ぎ息子なので父の仕事を手伝っています。下の方の兄は、官吏になるための学校を出たのですが、上手く仕官できず、実家の手伝いをしながら就職活動をしていますね」
その話を聞いた俺はそれだと思った。
官吏として就職するには能力も大切だが、何よりコネが一番重要だからな。
フレデリカの実家は最下級貴族の騎士爵家だからそういうのが無くて、お兄さんも就職できないのだと思う。
だったら、その点を何とかすればフレデリカも勘当を解いてもらえるのではないかと思う。
「だったら、俺たちがそのお兄さんの仕官の世話をしてやるから、それを条件にしてお前の勘当を解いてもらいな」
「え?兄の仕官って?そんなことができるんですか?」
「ああ。エリカの実家のヒッグス家は今後魔法大学を大きくしたり、領内の整備をしたり、魔道具工房を大きくしたりと色々計画しているので、新規に人を雇う計画なのさ。だから、エリカのお父さんに頼んで、フレデリカのお兄さんもそこへねじ込んでやることは可能だぞ。どうだ。試してみる価値はあると思うぞ。多分、喜んでお前の勘当を解いてくれるんじゃないかと思うぞ」
「そういうことなら、よろしくお願いします」
「よし!じゃあ実家の方へそのことを手紙に書いて送りなよ」
「はい!やってみます。きっと父も話に乗ってくると思います」
ということで、こうしてフレデリカの悩みも解決の見込みが立ったのだった。
さて、これで妹のやつの始末はつきそうだし、妹のパーティーの子のフォローもできそうだ。
俺たちとしては万々歳の結果となったのであった。
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