第425話~妹 嫁になる?~
さて、ノースフォートレスの町へ帰ってきてしばらく時間が経ち、十分休養できたので、そろそろギルドの仕事でも受けようかな。
そんなことを考えながら仕事の準備をしていると。
「お兄ちゃん、こんにちは」
深刻な顔をした妹のやつが突然家に来た。
しかもパーティーの子まで一緒に連れてだ。
何があったんだろう。
ただならぬ雰囲気を感じた俺はそんなことを思いながら、とりあえず妹の話を聞くことにした。
正直なことを言えば、妹のことなどもう放って置きたかったが、もし妹のせいで仲間の子たちにまで迷惑がかかっては申し訳ないので、妹の為でなく、仲間の子たちの為に話を聞くことにする。
「まあ、家の中に入れ」
玄関で突っ立ったまま話すのもあれなので、家の中で話を聞くことにする。
全員が椅子に座ったところで、俺は妹のやつに単刀直入に聞く。
「それで、何があったんだ」
「……」
だが、妹のやつは押し黙ったまま一向に話そうとしなかった。
そこで、じろっと睨みつけてやる。
すると、俺に睨まれて怖くなったのか、一瞬だけ妹のやつがビクッと体を震わせたが、それだけでやはり話そうとしなかった。
てめえ!黙っていれば嵐が過ぎて行くとでも思っているのか!
妹の態度にイラっとした俺はそう怒鳴りつけようと思ったが、その前に妹のチームの子であるフレデリカが理由を話し始めた。
「あの、お兄さん。私の方から事情を説明してもいいですか」
「ああ、いいよ。むしろお願いするよ」
「それでは話しますね。実はですね。うちの方に借金取りが来たんです」
「借金取り!」
借金取り?
その言葉を聞いた俺はもう一度妹のやつを睨みつける。
すると、妹のやつは再び体をピクリと反応させたが、やはり話そうとはしなかった。
どうあっても自分から積極的に話す気はないらしかった。
このままでは埒が明かないので、俺はフレデリカに話の続きを聞く。
「それで、フレデリカ。借金取りは何て言っていたんだ?」
「それがですね、昨日見知らぬ男が家に来て、「レイラはいるか!」とか聞いてきたんです。それで、たまたまこの子がいなかったんで帰ってもらったんです。帰り際に『また来る!』とか言っていました。そして、この子に聞いたら、それは借金取りだって白状したんです。それで、皆で相談した結果、お兄さんに言わないと大変な事になるんじゃないかって心配になって、ここへ連れて来たんです」
「ふ~ん。そういう事情だったのか。フレデリカ、マーガレット、ベラすまなかったな。うちの妹のことで心配させてしまったな」
「「「いいえ、仲間だから心配するのは当然のことです」」」
「そうか。それはありがたい話だ。レイラ、お前もこんな素晴らしい仲間がいることを感謝すべきだぞ。……ほら!黙ってないで、お礼を言わないか!」
「うう……みんな、心配してくれてありがとう」
俺に言われた妹のやつは、ようやく口を開いて仲間にお礼を言うのだった。
うん、ここだけ見れば妹たちの友情が確認できて良い話だが、俺は忘れていないぞ。
お前が借金取りに追われていることを!
仲間たちに支えられて妹たちも少し落ち着きを取り戻したようだし、詳しい事情を聞くことにしよう。
「それで、レイラ。お前、借金の件はどうなっているんだ?」
★★★
「お兄ちゃんが獣人の国へ旅立ってしばらくした頃ね。私、投資のセミナーに参加したの」
俺に問い詰められた妹は、借金の件についてポツリポツリと話し始めた。
「投資のセミナーだと?なんで急にそんなものに参加しようとしたんだ?」
「エリカお義姉さんが、不動産の投資で儲けているって聞いたから、そんなに儲かるんだったら私もやってみようと思ってセミナーに参加して、話を聞いて、実際に投資してみたの」
投資した?なるほど、それが失敗して借金まみれという訳か。
正直こいつは何を考えているんだと俺は思った。
エリカが投資をして成功しているのは俺も知っている。
現金で持っておくとお金って減って行くだけだから投資で増やしたいのと、将来的には嫁さんたちとの間にできた子供たちに資産として不動産の一つや二つ、残してやりたいと思っているからだ。
ただ、エリカの場合は小さい頃からきちんとそういう教育を受けてきて、ちゃんと儲かる投資話に乗っかることができるコネも確保できているし、資金的にも今までの冒険で稼いできた豊富な軍資金があるから成功できているのだ。
予備知識が一切なく、コネもなく、余裕資金も全然持っていない妹が投資に挑戦しても失敗するであろうことは火を見るよりも明らかだった。
亀が月の真似をして空に浮かぼうとしても失敗するのと同じことだ。
まあ、妹のやつがエリカの真似をしようとして失敗したのはわかった。
それにしても、このバカ、何の投資に手を出して失敗したのだろうか?
この憔悴っぷりから見ても、間抜けなことに投資したに違いなかった。
「それで、お前。何に投資したんだ?」
「海産物の養殖業なの。最近、王国では海産物の需要が高まっているからその需要を見込んで生産量を増やしたいから投資しないかっていう話だったの」
「ふむ、養殖業か」
なるほど一見儲かりそうな話ではある。
俺たちも海産物を使った料理を王都で食べたことがあるし、そう言うのが割と人気なのも知っている。
だけど海産物の輸送って難しいんだよね。
干物にして輸送すれば簡単だけど、やはり生の方が味が良いので皆そっちの方を食べたい。
ただ、生ものを輸送するにはきちんとした冷凍設備が必要で、それがバカみたいに高いので数が少なく、海産物の輸送のボトルネック、つまり流通の急所になっているので、生産量を増やしたところで売り上げが上がったりしないのだ。
むしろ海産物を売りたいのなら、冷凍設備にでも投資した方が儲かるのだった。
これはお金を持っている人の間では結構有名な話で、実はエリカもこの種の儲け話に噛んでいたりする。
何せ、その冷凍設備はほぼ独占的にヒッグス商会が作っているからな。
賢くて目ざといエリカが絡まないわけがなかった。
実際、エリカも妹の話を聞いて呆れたようだ。
「まあ、海産物の養殖事業に手を出したのですか。でも、海産物関係で儲けたかったのなら海産物の輸送業の投資をすれば儲かっていたのに。作っても輸送しきれないから、今は生産量を増やしても意味がない状況なのですよ。なのに、どうして養殖業に出資したのですか?」
「だって、投資会社の社長が儲かるって言ってたし」
「何であなたはそんな赤の他人の話を簡単に信じるのですか?そんなに儲かる話ならどうしてその人たちは他人に折角の儲け話を喧伝するのですか。普通ならそういう話は自分の周囲の人たちだけにして、自分たちで利益を独占するものなのですよ。だから基本儲かる投資話というのは身内か仲の良い知り合いの間でうまく回すことが多いのです。実際、海産物の輸送業の話というのも私の父から話が来て、私も出資していますし。あなたも、そんな怪しげな話に乗るくらいなら私に相談すればよかったのに。そうすればちゃんとしたところを紹介してあげたのに」
「ううう……」
エリカにずけずけ言われて妹のやつは何も言い返せず、失敗したのが悔しくて涙を流しながら泣くのみだった。
全く泣くくらいなら最初から余計なことをするなよ。そう思うが、ここで俺は一つの疑問が浮かぶ。
「それで、レイラ。お前、どのくらいの借金があるんだ」
「金貨三十枚以上」
その妹の回答を聞いて俺は驚いた。
金貨三十枚?このバカにそんな大金を貸すやつが本当にいるのか、と。
★★★
その後、泣きじゃくる妹のやつに事情を問いただしたところ投資詐欺に遭ったということが判明した。
どうやら養殖業者が高配当をうたって人を集め、最初に少しだけ良い思いをさせて、その後自分たちと組んでいた高利貸しから借金させて搾り取るという手口だったようだ。
その妹の話を聞いてエリカがさらに呆れている。
「まあ、そんな古典的な手口に引っかかるなんてあなたは何をしているのですか!」
と、バカな妹のやつをしかっていた。
ただエリカがいくらしかったところで、借金が無くなるわけではない。
俺は妹にこれからどうするつもりなのかを聞く。
「それで、お前、その借金はどうするつもりだ」
「返すあてが無いの。それでそのことを借金取りに言ったら、仕事を紹介してやるとか言われたの」
「仕事?何の仕事だ?」
高利貸しが紹介する仕事がろくでもないのは想像に難くないが、一応聞いてみる。
「男の人とベッドの中で楽しく遊ぶ仕事だって言っていた」
やはりかと俺は思った。
まあ、こいつが金貨三十枚という借金を返すためにはそのくらいしか手は無いだろうなとは思っていた。
だが、俺の妹にそんな仕事をさせるわけにはいかなかった。
妹のバカのことはどうでもよいが、俺の妹がそういう仕事をしているなんて知られたら、嫁や子供たち、それに嫁たちの御両親にまで迷惑が掛かってしまう。
それだけは絶対に阻止しなければならなかった。
それと、今回の件を利用して、これ以上の妹の暴走を止めたいとも思った。
こんなことがこの先もずっと続けば、本当に俺の子供たちにまで迷惑が掛かってしまう事になりそうで怖かった。
ということで、今回、前々から考えていた計画を実行しようと思う。
「わかった。そういうことならお前のその借金、俺が肩代わりしてやろうか?」
「本当?!お兄ちゃん、ありがとう」
借金を俺が肩代わりすると言った瞬間、妹の顔がパッと明るくなる。
本当現金なやつだ。
ただし、俺はタダでお前の借金を返してやるほどお人よしではないぞ。
「ただし!借金を返してやる代わりに、お前、嫁になれ!それがお前の借金を返してやる条件だ!」
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