第422話~ネイアさんとのデート 前編~

 エリカのお父さんの馬車を改造してしばらくした頃。


「それでは行ってくるよ」


 俺は朝早くから家を出た。

 行き先は獣人の国の王都ブレイブだ。


「『空間操作』」


 家を出た俺は魔法で一気にブレイブの町へと飛ぶ。

 え?そんな所に何の用かって?

 そんなの一つしかないだろう。

 ある人に会うためだ。

 ある人とはもちろん……。


「あ、ホルストさん。お元気でしたか」

「ええ、元気ですよ。ネイアさんはどうですか?」

「もちろん、私も元気ですよ」


 ネイアさんだった。

 この前の温泉の一件で俺は正式にネイアさんと付き合うことになった。

 そして、ネイアさんは今日仕事が休みらしい。


 ということで、デートをしようということになってこうして迎えに来たのだった。


★★★


「『空間操作』」


 ブレイブの町でネイアさんと合流した後は、再び魔法で移動する。

 行き先はフソウ皇国のナニワの町だ。

 なぜここへ来たのかというと、ネイアさんが海へ行きたいと言ったのと、それでいて賑やかな町がいいというのでここへ来たのだった。


 そんなわけで早速遊びに行こうと思うのだが、その前に一か所寄っておくべき場所がある。

 その場所はこの町で一番大きな神社。

 そう。白狐が住処にしている神社だった。


「ここが白狐様の神社ですか?」


 初めてここの神社を見たネイアさんが驚いた顔をしている。


 当然だ。

 俺たちはここフソウ皇国の皇子様をかつて助けたことがある。

 その時にうちで預かっている銀の姉の金とその皇子様が仲良しになったことがあった。


 以来その皇子様の肝いりの事業として頻繁にここの神社の改修工事が行われていて、今では以前とは比べ物にならないほど立派な神社になっている。

 その規模はヴァレンシュタイン王国の聖都の神々の神殿やエルフの国の神殿にも劣らない程になっていた。

 だからネイアさんはこの神社が立派なのを見て驚いたという訳である。


 ちなみ金は現在女神アリスタの所で神獣見習いとして修業中であるが、時々休みの時に皇子様の所へ遊びに行ったりしているらしかった。

 うちの銀もそうだが、この姉妹、自分の好きな相手には積極的に行くタイプのようだ。

 その様子を見ていると、金も将来的に皇子様とくっついたりするのかなあ、と思ったりもするのだった。


 それはさておき、神社に来た以上まずはお参りでもしようかと思う。

 正面の鳥居から神社の敷地へと入って行き、拝殿へと向かう。


「わーわーわー」

「ざわ、ざわ」


 さすがに大きな神社だけあって、拝殿は参拝客であふれかえっていて賑やかだった。

 そんな参拝客たちの列に並び、俺たちは順番を待つ。

 しばらくすると自分たちの番が来たのでお祈りをする。


 ちなみにここの神社に祭られているのは、ヴィクトリアのばあちゃんで豊饒の女神であるアリスタ様だ。

 だから特に豊作や商売の成功を祈願したり、子宝に恵まれることを祈ったりすると効果があるらしかった。


 ということで、俺としては折角ネイアさんと来たことだし、ここはネイアさんと結ばれて将来的に子供に恵まれることでも願っておくことにする。

 ポンポンと手を叩いて一心不乱にお祈りしておく。


 俺の横ではネイアさんもお祈りしている。

 彼女は何を願っているのだろうか?

 多分、俺と同じようなことを願ってくれていると思うが、何をお願いしたかを聞くのは野暮なので聞いたりはしないけどね。


 さて、こうしてお祈りもしたことだし、ちょっと神社の裏手の方へ行ってみようと思う。


★★★


「白狐。いるか?」


 参拝をした後、神社の裏手に回った俺たちは白狐に声をかける。


「これは、ホルスト様。ようこそいらっしゃいました」


 すると、鎮守の森の木の木陰から白狐がヒョコッと顔を出す。

 そんな白狐に俺は挨拶をする。


「久しぶりだな。元気だったか?」

「はい。おかげ様で元気に過ごさせてもらっています。それで、本日はどういったご用件でしょうか」

「特に用という用はないんだ。ネイアさんとここへデートに来たついでにちょっと寄っただけなんだ」

「まあ、左様ですか。ネイアさんとデートですか。ホルスト様は相変わらずおモテになりますね」


 白狐にそう言われてしまった俺は、何だか照れくさくなって、思わず赤面してしまった。

 ネイアさんも俺と同様にちょっと照れくさかったらしく、二人して顔を赤くして、それをごまかすために笑ったりした。


 それからしばらくの間、白狐と世間話をして過ごし、そろそろ他へ行こうかなという頃になって俺はあることを思い出す。

 自分のマジックバックからある物を取り出し、急いで白狐に渡す。


「ホルスト様、これは?」

「銀が作った稲荷寿司だよ。今日俺がネイアさんとナニワの町へ行くと知った銀が、『お母様に渡してくれませんか』って言うので、持ってきたんだ」

「まあ、銀がそのようなことを。折角のホルスト様とネイアさんのデートの最中だというのに、そのようなことをさせてしまい申し訳ありません」

「いや、いいんだ。ついでだから」

「そう言ってもらえるとありがたいです」


 そう言うと白狐はペコリと俺に頭を下げてくるのだった。


★★★


「それでは」

「お気をつけて」


 さて神社での用件も終わったことだし、本格的にデート開始だ。


「どこへ行きたい?」

「そうですね。前に話に聞いた、水族館という場所へ行ってみたいです」


 ということで、まずは水族館デートからスタートだ。

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