第421話~エリカのお父さんの馬車を改造する~

 エリカの実家に宿泊した翌日。


「さあ!馬車の改造をするぞ!」


 俺はエリカのお父さんたちが使っている馬車の改造に着手する。


 まずはお父さんたちの馬車の状態から確認する。

 俺の馬車は市販の馬車を昨日会ったレンブラントさんの弟子のライオネルさんという魔道具職人さんに改造してもらったのを、俺が魔法で馬車の中の空間を広げたものだ。

 俺が魔法で空間を広げた分はタダだが、ライオネルさんに改造してもらった分だけでも金貨何十枚もかかっていたりする。


 お父さんの家の馬車も同じくらいお金がかかっているはずだ。

 なぜならお父さんの馬車も実はライオネルさんが作っているからだ。

 ただし、うちの馬車とは違って既存の馬車を改造したものではなく新規生産したものらしい。

 だからか、外見は大貴族に匹敵するヒッグス家にふさわしい立派な造りになっていたし、性能も申し分なかった。


 お父さんたちの馬車を見てその辺のところを感じ取った俺は、これは改造し甲斐がある!

 そう思って張り切るのだった。


★★★


 さて、改造する前にもう一度馬車の中を見てみる。


「ふむ、やはりクッション性の良い高価な座席になっているんだな」


 すると、お父さんの馬車は高級な馬車らしく、馬車の座席にもクッション性抜群の高価な素材が使われていた。

 しかもこの座席、いざという時には取り外すこともできて長旅の時などには床に直接横になることもできるらしかった。

 そのためか床の素材も柔らかくて寝る時に背中が痛くならないようになっていた。

 これなら布団の一枚でも敷けば、熟睡できそうな感じだった。


 ということで、まずは馬車の座席を取り外してみる。


「よいしょおっと……案外簡単に座席って取り外せるんだな」


 思ったよりも簡単に座席は取り外せた。

 まあ、元々着脱式なのだから当然と言えば当然だ。


 こうやって座席を取り外した後は、まず馬車内の空間を広げることにする。

 広げることにしたのだが……俺はここでどのくらい空間を広げればよいのだろうかと考えてしまった。


 エリカのお母さんの希望だと、ホルスターやミラとゆっくり乗りたいということだったが、ここから孫の数が増えたらその子たちとも乗りたいと言い出すに違いなかった。

 エリカのお兄さんは体がそんなに丈夫という訳でもなく、頑張ってやっとミラを授かったという感じだからそんなに人数が増えない可能性が高いが、俺とエリカは元気いっぱいだ。


「旦那様。私、たくさん子供が欲しいです」


 そう事あるごとにおねだりしてくるくらいだから、まだたくさん生まれてくるに違いない。

 そんなことを考慮しながら考えた結果。


「とりあえず十人くらい乗れるようにしておくか」


 ということで考えがまとまったので、そのようにすることにする。

 十人はちょっと多すぎな気もしたが、まあ、広すぎたりしたら後でもう一度広さの調整をすればいいだけの話だしな。

 気楽に行くとしよう。


「『空間操作』」


 方針が決まったので、早速魔法で空間を広げて行く。

 とは言っても、そんなに時間がかかるわけではない。

 ものの十秒ほどで作業完了だ。


「うん、これなら十人がこの馬車に乗っても、のんびりと足を伸ばしてゆっくりできる!」


 俺は広くなった馬車の中を見渡して満足した。


「さて、次はこの座席の上の空間を広げるとするか」


 床が終わったので今度は取り外した座席の上の空間を広くすることにする。

 こちらの方はあまり悩まなかった。

 広げた床の長さに合わせて広げればいいだけだからだ。


「『空間操作』」


 もう一度魔法を使って床の上の空間を広げる。


「こんなものかな?」


 良い感じにできたので、早速座席を元の位置に嵌めてみる。


「うん!ピッタリだ!」


 すると、座席は元の位置にピッタリと嵌るのだった。

 これで、床に座る以外にも座席に座っての異動にも使えると思う。


 ということで、これで俺の作業は完了だ。


「それではお父さんたちに報告しに行くか」


 完成した馬車を満足げに見た俺は、お父さんたちに報告に行くのだった。


★★★


 結論から言うと、出来上がった馬車は非常に好評だった。


「この馬車、とっても広くていいわあ。ホルスト君、ありがとうね」

「うん、これなら孫が何人いても皆乗れるね」


 エリカのお母さんもお父さんもそうやって喜んでくれた。

 そうやって、馬車を一通り褒めてもらった後は試乗会だ。


 乗り込むのは、エリカのお父さんとお母さん、俺と嫁たち、それにホルスターと銀とミラとミラのお母さんのヘラさんの合計10人だ。

 全然余裕で乗れた。

 まあ、十人が横に乗れるくらいのスペースを確保したのだから、当然と言えば当然だった。


「ヒッグスタウンの町を一周しなさい」

「畏まりました。御館様」


 お父さんが御者にそう命令して、ヒッグスタウンをぐるりと一周することにする。

 改造馬車の乗り心地はとても素晴らしかった。

 まあ、乗り心地自体は最初にこの馬車を作ったライオネルさんの手柄だと思うが、馬車の中の空間に余裕があるのは俺の改造のおかげだ。


 そんなゆったりとした雰囲気で回るヒッグスタウンの町は最高だった。


「人々が町の中を歩き回る様子は活気があって、見ていて楽しいですね」

「ああ、そうだな」


 エリカの言うように人々が町の中で楽しそうに活動している様子を見るのは、楽しいものだった。

 特にホルスターと銀が楽しんでいるようで。


「ねえ、おじい様。あそこでさっきから大声を出している人は何をしているの?」

「あれは、お客さんを呼び込んでいるんだよ」

「ホルスターちゃん、あそこの建物の壁を見て。とても壁の模様がきれいね」

「そうだね。きれいだな。ねえ、おばあ様。あそこは何屋さんなの?」

「あそこは最近できた教会ね。町の人たちが神様にお祈りしたいときに行くのよ」


 と、矢継ぎ早にエリカのお父さんたちに色々質問して、町のみならず、馬車の中まで大変賑やかだった。


 それを見て俺は思うのだった。

 頑張って馬車の改造をした甲斐があったな、と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る