閑話休題63~銀、お使いに行く~
皆様、こんにちは。銀です。
「ねえ、銀ちゃん。ちょっとお使いに行ってきてくれないでしょうか」
銀は今日ヴィクトリア様にお使いを頼まれてしまいました。
銀はこう見えても神獣見習いですから、ご主人様であるヴィクトリア様のお仕事を断るなどという選択肢はありません。
ということで、元気よくお返事します。
「はい、畏まりました。それでどこへお使いに行けばよいのでしょうか?」
「冥府にいるケルベロスちゃんの所ですよ。今日、ハチミツ入りのクッキーを焼いたので、それを持って行って欲しいんですよ」
★★★
ヴィクトリア様にお使いを頼まれた銀はナニワの町のお母様の神社へ向かいました。
というのも、冥界へ行くにはここの神社から行くのが近いらしいからです。
「銀ちゃん、金平糖を買ったから、道中はこれを食べながらゆっくり行きなさい」
「そうだぞ。無理をせずのんびり行ってきな」
ホルスト様にナニワの町まで送ってもらい、ヴィクトリア様におやつの金平糖を持たせてもらい、いざ出発です。
「では、銀。この『導きのランプ』を持って行きなさい。このランプの導きに従って行けば冥府の入り口まで簡単に辿り着けるでしょう。では今から冥界へ続く門を開けるので、気を付けて行ってきなさい」
最後はお母様にそうやって冥界への門を開けてもらい、銀は冥界へと出発しました。
★★★
冥界へはずっと平坦な道が続いていました。
これは『導きのランプ』の示す通りに進んでいるからです。
通常死者が冥府への道を行く場合には、所々分岐があって、生前の善行次第で銀のように平坦な道を歩けたり、険しい山道や毒の沼地を歩かなければならなかったりするようです。
「この金平糖、とてもおいしいです!帰ったらホルスターちゃんにも食べさせてあげなきゃ、ね」
そんな道をおやつの金平糖を食べながら歩くこと、三時間ほど。
「何か大きな門が見えてきましたね。あれが聞いてきた『冥府の門』でしょうか」
どうやらようやく目的地に着いたようでした。
★★★
冥府の門に近づくと、三つの首を持った一匹の大きなお犬さんが門の前で伏せの姿勢でじっとしているのが見えました。
多分、このお犬さんがケルベロスさんに違いありません。よく見ると、オルトロスさんにとても似ていますし。
ということで、早速話しかけてみます。
「あのう、すみません。ケルベロスさんでしょうか」
「そうだが、お嬢さんはどなたかな?」
「私は銀と申します。ヴィクトリア様のお使いで参りました」
「何!ヴィクトリア様の!」
銀がヴィクトリア様のお使いだとわかると、ケルベロスさんはお座りの姿勢になって聞く体勢になります。
「銀殿と仰いましたか。もしかして、弟が言っていた白狐殿のお嬢様かな」
「はい、そうです」
「うむ。聞いていた通りとてもかわいらしい娘さんであるな」
「ありがとうございます」
「それで、今日は何用で参られたのかな?」
「今日はヴィクトリア様がお作りにになられた新作のお菓子をケルベロスさんに持ってきました。ハチミツ入りのクッキーです」
「何と!それはありがたい!」
銀のお届け物がお菓子だと知ると、ケルベロスさんの顔がにこやかになります。
どうやらケルベロスさんが甘党だという話は本当のようです。
「どうぞ」
「では、早速食べさせてもらいますぞ」
そして、銀がお菓子を渡すなり無我夢中で食べ始めました。
恐ろしげな外見をしたケルベロスさんですが、こういう部分を見ているとかわいらしく思えたりします。
「あ、そうそう。ヴィクトリア様から一つ聞いて来て欲しいと言われていたんですよ」
「何でしょうか」
「例の二人の様子はどうでしょうか」
例の二人。銀のことをいじめたあの二人の人間のことです。
「ああ、あいつらのことなら心配いりません。私が時々食いに行っておりますので」
「そうなのですか?」
「ええ、実は今日も食ってきたところなんですよ。今日は頭から丸飲みにしてやりました。飲み込む時に『助けて~』とか悲鳴を上げていましたが、容赦なく飲み込んでやりました」
「それはご苦労さまでした」
あの二人、どうやらバッチリ地獄で苦しんでいるようで何よりです。
これで、ヴィクトリア様に良い報告ができそうでホッと一安心です。
さて、これで銀のお仕事は終わりですので、後はケルベロスさんと少し世間話でもしてから帰ろうと思います。
★★★
「あ、お姉様だ!」
「あら、銀ちゃん、久しぶり!」
銀がケルベロスさんとおしゃべりをしていると、冥界の門の向こうから見たことがある人が現れました。
誰だろうと思ってよく見ると、金お姉様でした。
「お姉様はこんな所で何をしていらっしゃるのですか?」
「私はアリスタ様のお使いで、ジャッジメント様にお手紙を届けに来たの。銀ちゃんは?」
「銀はヴィクトリア様のお使いで、ケルベロスさんに荷物を届けに来たのです」
「そうなの?じゃあ、私と似たようなお仕事で来たのね」
姉妹で似たような仕事で来たと知り、二人ともなんだかうれしくなってしまい、手を取って喜び合いました。
そのまましばらくははしゃいでいたのですが、ここで銀はあることを思い出し、お姉さまにこう言います。
「そういえば、ヴィクトリア様に道中のおやつとして金平糖をもらったの。お姉さまも食べる?」
「金平糖?いいわね。本当にくれるの?」
「もちろんです」
そう言いながら、銀は残っていた金平糖をいくつかお姉さまにあげます。
お姉さまも甘いものが好きなので、それをポリポリとおいしそうに食べてくれました。
と、ここで銀の金平糖を羨ましそうに見ている方がもう一人いました。
「ほほう。金平糖ですか。おいしそうですね」
誰あろうケルベロスさんです。
そういえば、この方も甘党でした。
ということで、銀はケルベロスさんにも提案します。
「ケルベロスさんもお一ついかがですか?」
「ありがたくいただきます」
こうして銀たちは金平糖を食べながら、楽しい一時を過ごしたのでした。
★★★
そうこうしているうちに帰る時間がやってきました。
ケルベロスさんがピーと口笛を吹くと、二匹の大きなお犬さんがやってきます。
「私の配下の地獄犬じごくいぬです。銀殿と金殿とは仲良く金平糖を食べ合った身。ここはこの者共に二人をそれぞれ地上の入り口と天界の入り口まで送らせますので、どうぞお使いください」
どうやらケルベロスさん、部下のお犬さんを使って、銀たち姉妹を送り届けてくれるようです。
「「ありがとうございます。それでは失礼します」」
「それでは、お気をつけて」
もちろん遠慮なくケルベロスさんのご厚意を受け取って、銀たち姉妹は、用意してくれたお犬さんに乗って冥界の門を離れました。
「それじゃあ、お姉さま。お元気で」
「銀ちゃんも元気でね」
途中、天界へ帰るお姉さまと別れると一路地上を目指します。
しかし、ケルベロスさんの用意してくれたお犬さん、とても走るのが速いです。
銀が三時間かけて歩いた道を一時間もかからないうちに踏破してしまいました。
さて、ようやく地上まで戻ってきました。
これで、銀のお仕事も完了ですね。
★★★
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
銀を送ってくれたお犬さんにお礼を言って別れると、銀は地上へと出ました。
「ただいま戻りました」
「あら、銀ちゃん、早かったですね」
地上に出ると、神社の所でヴィクトリア様たちが待ってくれていました。
「何か、銀ちゃん、楽しそうですね。いいことでもあったのですか?」
「実はですね……」
その後、銀はお使いの途中でお姉さまに出会ったことなど楽しかったことを話しました。
「そうですか。よかったですね」
銀の話を聞いたヴィクトリア様は我が事のように喜んでくれ、頭を撫でてくれたのでした。
そんなヴィクトリア様を見て、銀は思いました。
ああ、この方が銀のご主人様で本当に良かった、と。
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