第412話~最後の試練~
遺跡を攻略したお祝いの宴から数日後。
俺は昼間からヴィクトリアとイチャイチャしていた。
具体的に言うと、俺はヴィクトリアに膝枕をしてもらいながら耳掃除をしてもらっていた。
「あ、結構大きい耳垢を発見しました。取ってあげるので動かないでください!」
そんな感じで、ヴィクトリアの奴、一生懸命俺の耳掃除をしている。
宴が終わって以来俺たちはこんな感じだ。
「お父様の試練はクリアしたのだからもう遠慮することはないですね」
そう言いながら、ヴィクトリアは堂々と俺とイチャイチャしようと接近してくる。
ただ俺に接近してくるのはヴィクトリアだけでなく他の二人の嫁たちも同様だった。
「ヴィクトリアさん、独り占めはダメですよ!」
「そうだよ。交代制だよ」
「は~い」
と、毎日、日替わりで俺は嫁たちとイチャイチャしていた。
ちょっと自堕落すぎる生活かなあ。
と、自分では思うものの、今まで頑張って来たのだから少しくらいはこんな時間を持ってもいいのでhはないかと思う。
そんな相反する気持ちが心の中でせめぎ合うものの、結局は嫁たちに流されてイチャイチャする方を選ぶ俺なのであった。
と、そんな自堕落な日々を送っている俺ではあったがそれを快く思っていない人物がいた。
「いい加減にしないか!」
そうやってイチャイチャしている俺とヴィクトリアに文句を言ってきたのは、もちろんヴィクトリアのお父さんである。
★★★
「いい加減にしないか!」
そのお父さんの発言に対してヴィクトリアはこう反論する。
「別にお父様にとやかく言われることではないですね。もうお父様の試練は終わってしまったのですから、お父様はワタクシたちの仲を認める義務があります。だから、ワタクシたちの行動を止める権利などお父様にはないですよ」
そのヴィクトリアの反論に対してお父さんはこう反論する。
「何を言うんだ。まだ試練は終わっていないぞ」
「まあ、何と男らしくない発言ですね、お父様。お父様は獣人の国の封印装置の前で、『最後の試練だ』って、確かに仰っていましたよ。その言葉を違たがえるおつもりですか」
「私はあの時『最後の試練』だと言ってはいないぞ。『この遺跡の最後の試練』だと言っただけだ。だから、お父様はお前たちに嘘なんか言っていないぞ」
それを聞いていた俺は子供騙しのような言い訳だなと思ったが、思い出してみると、お父さん、確かに『この遺跡の最後の試練』と言っていたような気がする。
そういう事ならお父さんの方にも一分の理があるのかもしれなかった。
それに、俺としてはここでヴィクトリアとお父さんが大喧嘩をして、二人の仲が修復不能になったりしては将来的に良くない気がする。
この先、ヴィクトリアとの間に子供ができたりした時にお父さんにも喜んでもらいたちと思っている。
ここで、ヴィクトリアとお父さんが仲違いしては、それも不可能だろう。
ということで、お父さんの話を聞いてみることにする。
「それで、お父さん。最後の試練とは何ですか?お父さんが是非にと言うのなら受けますよ」
「ホルストさん、お父様の言う事なんか聞かなくても良いのですよ」
俺の提案に対してヴィクトリアがそう言ってきたが。
「別にいいんだ、ヴィクトリア。俺がお父さんの試練を突破すればいいだけだから」
そう言ってヴィクトリアをなだめると。
「ホルストさんがそこまで言うのなら」
と、ヴィクトリアもとりあえず納得してくれて、矛を収めるのだった。
「それで、お父さん。試練とは何ですか。言っておきますが、正真正銘これが最後ですからね」
「ふふふ。小僧、良い覚悟だな。それでは最後は私と勝負してもらおうか。腕相撲で」
★★★
ヴィクトリアとの仲を認めてもらう最後の試練として、お父さんと急遽腕相撲することになった。
机を挟み、お父さんと向かい合い、片方の腕で腕を組み合い、残りの腕で机が動かないように机の隅をもって固定すると、いざ勝負開始である。
「それでは……始め!」
審判を務めるジャスティスの合図で勝負が始まる。
「『神強化』」
のっけから魔法を使って俺は全力を出しにかかる。
今回のルールでは、『周囲に被害を出さない範囲であれば何をしても良い』というルールなので魔法の使用もありだった。
だが、ヴィクトリアのお父さんは強大な力を持った神である。
「ふん、この程度か!」
俺が魔法で強化してお父さんの腕を押し倒そうとしても余裕の表情を浮かべている。
「はあああ」
そして、力を入れて、俺の腕を押し倒すべく行動してくる。
軍神を名乗るだけあってお父さんの腕力はすさまじく、徐々に俺は押されて行く。
このままではダメだ!
そう思った俺は次の手を使う。
「『フルバースト』」
フルバーストを使用して腕に一気に神気を込める。
これは多少効果があったらしく。
「ほほう、やるではないか」
と、お父さんも少しだけ驚いていた。
ただ、この程度ではとてもお父さんを倒せる決定打になるわけがなく、俺の腕は徐々に押し込まれて行っていた。
さて、何か次の手はないかな。
俺が次の手を考えていると、ヴィクトリアが俺に寄って来た。
そして、いきなり俺に抱き着いてきたかと思うと。
「ホルストさん。今日は本気で行きますね」
そう言いながら俺の頬にブチュッとキスをして来た。
「「何!」」
突然のことに俺とお父さんが同時に驚いていると、俺の体が突然光り出す。
「シンイショウカンプログラムヲキドウシマス」
そして、いつもの声が俺の頭の中へ響いて来て、神意召喚が発動したのだった。
★★★
「貴様!神意召喚とはズルいぞ!」
神意召喚が発動したのを見て、お父さんがそんなことを言い始めた。
確かに試合中に神意召喚をし出すのはどうかなと思わなくもないが、別にルール違反でもないと思う。
だってこの勝負『何でもあり』なのだから。
そう思った俺がそのことをお父さんに言おうとすると、先にヴィクトリアが口を挟んできた。
「お父様、別にルール違反ではないですよ。『何でもあり』というルールですので」
「しかし、いきなり私の前でその男にキスをすることは無いだろう」
「何をおっしゃるのですか。ワタクシが神意召喚をするにはキスをする必要があるのです。だからキスをしたまでの話です。もしルール違反があるというのなら、この場でそれを言ってください。でも、できないでしょう?本当にルール違反などないのですから」
「うっ」
ヴィクトリアはそうやってお父さんの抗議を一蹴し、有無を言わせない。
というか、お父さんは神意召喚がどうのより、俺とヴィクトリアがキスしたかどうかの方が気になるようだ。
実際、お父さんの力は強大で神意召喚をしてもらった俺でも完全に押し返すことはできていないし。
ただ、その腕には明らかに動揺が見えた。
というのも、さっきまで微動だにしなかったお父さんの手が、怒り?もしくは妬み?の感情のせいか、プルプルと小刻みに震えているからだ。
これはチャンスだと思った俺はさらに力を込め、それに対してお父さんも反射的に押し返してくる。
こんな感じで俺たちの腕相撲勝負は一進一退の攻防が続くかのように思われたが、勝負は意外な形で幕を閉じることになった。
ボキンッ。
勝負の最中に突然そんな大きな音が部屋中に響き渡った。
見ると、お父さんが腕相撲をしていない方の手で持っていた机の角の部分が壊れたようだった。
お父さん、どうやら俺とヴィクトリアのキスを見たせいで動揺して力の入れ方の加減を誤ってしまい、机を破壊してしまったようだった。
それを見て審判係のジャスティスが声をあげる。
「勝負あり!勝者ホルスト!」
今回のルールでは『周囲に被害を出さない』ということだったので、机を壊して被害を出してしまったお父さんの負けという事であった。
「ホルストさん!やりましたね!」
俺が勝利したのがよほどうれしかったのだろう。
勝負がつくなり、そうやってヴィクトリアが抱き着いてきた。
それを見て、負けたお父さんが言い訳がましいことを言い始める。
「卑怯だぞ!勝負中にいきなりキスをするとか!動揺してしまって、力の加減を間違えてしまったではないか。だから、この勝負は無効だ!」
だが、お父さんのこの主張をヴィクトリアが黙って受け入れるわけがない。
すぐさまお父さんに言い返す。
「まあ、何て男らしくない言い訳をするお父様なのでしょうか。勝負に負けたからと言って、そんな下らない言い訳をして勝負を無効にしようとか、恥ずかしいとは思わないのですか?それに神ともあろう者がキスくらいで動揺して失敗しただ何て、よくも言えたものですね。そんなお父様、ワタクシのお父様じゃないです。これ以上、言い訳をするのなら本当に親子の縁を切ってしまいますよ」
「うぐっ」
ヴィクトリアにずけずけと言われたお父さんは言い返すことができずに黙り込むのみだった。
そんなお父さんに、ヴィクトリアは追撃を食らわせる。
「さて、そんなことよりも、これでホルストさんはお父様の試練を全て突破したわけですから、さっさとワタクシたちのことを認めてください!さあ!」
「わかった。こうなっては仕方がない。お前たちの仲を認めてやろう」
娘に追い詰められてお父さんはこうやって、渋々ながらも俺たちの仲を認めてくれたのだった。
「「やったあ」」
ようやく仲を認めてもらえた俺たちは、嬉しくて抱き合って喜んだ。
その様子をお父さんは黙って見ていたが、やがて最後の抵抗をするかのように俺にお決まりのセリフを言って来た。
「しょうがなしにお前たちの仲を認めてはやるが、ホルストよ。これだけは覚えておくがよい。私の娘を泣かせたりしたら許さないからな」
そのお父さんの言葉に対して俺は堂々とこう答えるのだった。
「はい、絶対泣かせるようなことはしません。娘さんのことは絶対に幸せにしてみせます!だからお嬢さんを僕にください」
「よし、そこまで言うのなら娘はやろう。大切にしろよ」
「はい!大切にします!」
こうして、俺とヴィクトリアはお父さんにその仲を認めてもらうことができたのであった。
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