第411話~ブレイブの町への帰還~

『空間操作』」


 地脈の封印を終えた俺たちは魔法で一気に遺跡の外へと出る。

 到着した場所は入り口の一本桜の場所だ。


「うわー、遺跡に入る時は桜さん、満開だったのにもう散り始めていますね」


 入り口に帰って来た時の桜を見たヴィクトリアがそんなことを呟く。


 そのヴィクトリアの言葉通り、俺たちが遺跡に入る時は満開だった桜の花が既に散り始めていた。

 既に青い葉が見え始めている枝もあった。

 桜の花の命は短いというが、本当にその通りだと思った。


 というか、遺跡の中だとわからなかったけど、あそこって時間の経過の仕方が少し地上とは違うんだな。

 遺跡の中では数日程過ごした感覚だったのだが、ここでは十日ほど経っている感じだし。

 前に行った『希望の遺跡』でもこんな感じだったし、神様の造った遺跡って時間の経過の仕方が違うのかな、と思う。


 まあ、別にいいや。

 それよりも今は一刻も早く休みたい気分なのでブレイブの町まで帰るとしよう。


★★★




「ママたち、お帰りなさい」


「皆様、お帰りなさいませ」


「よく戻って来たのである」


「ああ、ただいま。みんなも元気そうで、何よりだ」




 ブレイブの町へ帰ると、ホルスターと銀、それにヴィクトリアのお兄さんが出迎えてくれた。


 三人とも元気な声で挨拶してくれたので何となく安心できた気持ちになった俺は、ホルスターと銀、二人の頭を撫でてかわいがってやる。




 ひとしきり二人をかわいがった後は、商館の人に頼んでお風呂を用意してもらい、それに入る。


 まずは嫁とネイアさんたちが入る。




「「「「久しぶりのお風呂は落ち着きますね」」」」




 聞いた話では嫁たちはそうやって久しぶりのお風呂を満喫したようだ。




「ホルスターちゃん、銀が体を洗ってあげますね」


「うん」




 ホルスターと銀も皆で一緒にお風呂に入れて嬉しかったようでそうやって楽しんでいたようだ。


 というか、ホルスターは留守中ずっと銀にお風呂に入れてもらっていたらしい。


 将来結婚する相手とはいえ、銀も良く世話をしてくれたものだと思う。


 この感じだと、銀は将来よい嫁さんになれると思う。




 こんな感じで嫁さんたちがお風呂に入った後は、お父さんが入る。




「ふう、気持ちよかった」




 風呂から出てきた時、お父さんはそんなセリフを言っていたので、お父さんも気持ちよかったのだと思う。




 その後は俺もお風呂に入ってのんびりしてその日はゆっくり寝た。




★★★


 次の日は昼まで寝た後、起きてくると、準備を始めた。


 え?何の準備かって?

 もちろん祝勝会だ。

 今回の件で地脈の封印も完了したことだし、お祝いをしなきゃな。


 ということで、皆で会場の設営の準備をする。

 場所は商館の一部屋を借りてやる。


 まずは皆で協力して部屋の飾りつけをやる。

 この作業は割と楽しかった。


「飾り付け、飾りつけ、かっざりつっけ~。飾りつけは楽しいです~」


 特にヴィクトリアなど機嫌がよい時に歌う鼻歌を歌ったりして楽しそうに飾りつけをしている。

 ホルスターと銀の子供組も大人たちに混ざって花を飾ったり、壁を拭いたりしている。


「ホルスターちゃん。このお花、きれいだね」

「うん、銀姉ちゃんみたいで、きれいだよ」

「まあ、ホルスターちゃんったら」


 二人ともそうやって笑顔で話しながらやっているので、とても楽しんで飾りつけをやっているのだと思う。

 そうやって飾りつけを楽しんでいるうちに夜になった。




★★★


 夜になると身近にいる人だけで宴を開いた。

 参加者はうちの家族とネイアさん、ヴィクトリアのお父さんとお兄さん、それにこの場にいる神獣たち、それに今回俺たちの役に立ってくれた神獣たちの眷属の内の主だった者たちを集めている。

 料理や酒はコッセルさんに頼んで高級レストランのオードブルやお酒、神獣たちが好きなチーズや新鮮な果物を取り寄せてもらった。


 ちなみに、商館の人たちにも今回お世話になったので彼らの分の料理も用意してあったりする。

 ただ、俺たちの方には神獣たちが混ざっていたり、もしかしたらあまり人に聞かれたくないことを話す機会があるかもしれないので、この商館の別の部屋で楽しんでもらうことにしている。


 もちろん料理や酒の質は俺たちと変わらないし、余興にくじ引き大会とかも用意しておいたのでそっちはそっちで楽しんでくれていると思う。


「この度は皆様のご協力のおかげで、無事に獣人の国の遺跡の封印に成功することができました」


 宴は俺のそんな挨拶から始まる。


「これで、4魔獣もすべて倒せましたし、遺跡の封印も完了しましたし、神聖同盟とかいう連中もこれ以上何もできないでしょう。これで世の中も少しは落ち着くと思います。本当にありがとうございました。ささやかながら宴を用意しましたので、本日は楽しんでください」


 こんな感じで俺の挨拶が終わるとともに宴が始まる。


★★★


「さあ、たくさん食べますよ」


 宴が始まるなり、ヴィクトリアが早速皿に大量の料理を盛って自分の席に持って行っている。


「おいしいです~」


 そして、それを口の中に次々と放り込んでは食べまくっていた。

 多分、最近野宿ばかりしていてそんなにたくさん食べていなかったからここぞとばかりに食うつもりなのだろうと予想できる。


 今日は参加者は身内だけなのでいくら食べても構わないけど、食い過ぎて腹を壊さないようにしろよ。


 俺はそう思いながら心配そうにヴィクトリアのことを見ていたのだが。


「ふう~、いい調子で食べられていますね。やはり胃の活動をよくするために直前に胃薬を飲んでいたのが効いているのでしょうか?」


 と、アホなことを言えるくらいには余裕がありそうなので、大丈夫そうではある。


 というか、直前に胃薬って何よ。

 それって食欲増進の効果とかあるのか?

 あまり関係ないような気がするんだけれど。

 まあ、お前がそれでよいというのなら別にいいけれど。


 そうやって変なことを言いつつも食べまくっているヴィクトリアだが、食べているうちに機嫌が良くなったのか、お父さんやお兄さんにも食べ物をよそってあげたりなんかもしたりしている。


「お父様、カモのローストですよ。どうぞ」

「おお、ありがとう」

「お兄様、お酒はどうですか」

「うむ、お願いするのである」


 そうやってヴィクトリアに食べ物を取ってもらった二人はとてもうれしそうに食べていた。

 二人ともヴィクトリア大好きだから、ヴィクトリアにお世話されて機嫌が良いのだと思う。


「さて、リネットさんにネイアさん。私たちも今日はしっかり飲んでしっかり食べましょう」

「「はい」」


 ヴィクトリアに触発されてか、エリカもリネットとネイアさんを誘ってしっかりと飲み食いしていた。

 エリカなどは宴が始まってからすでにワインを二本も空にしているし、リネットとネイアさんもすでに二人でワインを一本飲んでいた。

 その上で、三人で結構な量の料理も平らげていたから、三人の気合いの入り方がわかるというものだ。


 それにしても、そんなに飲み食いして大丈夫なのだろうか。

 エリカは酒豪でちょっとくらい飲んでも平気なのは知っているが、リネットとネイアさんはそこまで酒に強くない。

 飲み過ぎて二日酔いにならなければ良いのだが……。

 別にいいか。今日は無礼講だ!好きに飲めばいい。酔いつぶれたって別に気にする必要などない。


 そういうことで、俺も皆を見習って飲むことにする。

 ……うん。やはり一仕事終えた後のお酒っておいしいよな。

 こうやって、俺もどんどん酒を飲んでいく。


 ワインを一本程空にして随分気持ち良くなってきたところで、周囲を見渡すと。ホルスターと銀が仲良くしているのが見えた。


「ホルスターちゃん、銀姉ちゃんがハンバーグ、取ってあげるね」

「うん」


 そんな風にホルスターも銀にご飯を取ってもらって嬉しそうにしている。

 仲が良くてよいことだと思う。

 神獣たちも自分たちの眷属と楽しそうにしていた。


「さあ、我が眷属である狐たちよ。今日はホルスト様たちがごちそうを用意してくださったので、楽しんでくださいね」

「我が眷属であるネズミたちよ。今日は遠慮はいらぬ。しっかりと食べるがよい」

「オオカミたちよ。今日はホルスト殿がたらふく肉を用意してくださっている。さあ、たくさん食べて腹いっぱいにして帰るとよい」


 そうやって部下である眷属の主だった者たちに料理を勧めながら自分たちもお腹が満ちるまで食べているようだった。

 聞いた話によると、別室の商館の人たちも楽しんでくれたみたいなので、今日の宴を開いて本当に良かったと思った。


 こうしてみんなが楽しくやっているのを見ながらも俺は飲み続け、気がついたらいつの間に酔いつぶれて寝ていたのだった。

 しかも、なぜかエリカに膝枕されていた。


「すやすや」


 エリカは俺を膝枕しながらも、ソファーにもたれかかってぐっすりと寝ていた。

 そんなエリカをベッドへ運び、エリカのほっぺたに俺はそっとキスをすると、「お休み」とささやき、一緒の布団へ入る。

 そして、幸せいっぱいな気持ちで再び夢の世界へと旅立つのだった。

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