閑話休題61~デリックとルッツ 地獄での日々~

 デリックとルッツは地獄で苦しむ日々を送っていた。


「ひー。針山に投げ込むのは勘弁してください」

「ふん!現世でさんざん悪事を働いてきた罪人め!今更慈悲を乞うても遅いわ!針に刺さってもがき苦しむがよい!」

「ぎゃー、痛い!痛い!針が体中に刺さって痛いよ~」

「た、助けて!もう油でゆでるのは許してください。体中が熱くなるので耐えられないのです」

「うるさい!我は知っているぞ。お前が現世で『殺さないでください』と、許しを乞うてきた人々を、お前が笑顔で殺していたことを!そんな奴が地獄で許してもらえると思っているのか?油で煮られながら現世での自分の行いを反省するがよい!」

「熱い!熱いよ~!誰か、助けて!」


 と、毎日地獄の獄卒である鬼によってその罪を償うべく、罰を与え続けられているのだった。

 正直、見ているだけでも体中が痛くなりそうな光景だったが、ここは地獄なのだ。

 罪を償うための場所なのだ。


 である以上、二人はここで日々鬼に苦しめられ続けるしかないのであった。


★★★




 そんなある日、デリックとルッツの処罰が開始される前、二人を訪ねてお客さんがやってきた。




 「処罰が開始される前」という表現を聞くとあれ?と思われるかもしれないが、地獄においても処罰が行われていない時間がある。


 基本はずっと処罰が行われ続けているのではあるが、処罰しつくされた罪人の場合、肉体が再生するまでにしばらくの時間がかかるのでそれまでの間、とは言ってもほんの十分にも満たない時間なのだが、処罰はいったん中断されるのだった。




 地獄の罪人にとっては、『干天の慈雨』とも呼べる貴重な時間なのであるが客人はその時間を狙ってやって来たのだった。


 客人は三つの首を持つ真っ黒な体毛を持つ巨大な犬だった。




「我こそが、かの有名な地獄の番犬ケルベロスである」




 その犬はデリックとルッツにそう名乗ったのだった。




★★★


「「ケルベロス?」」

「その通りだ。我こそがケルベロスである」


 自分たちを訪ねてきた犬がケルベロスであると知った二人はビビりにビビりまくった。


 ケルベロスといえば地獄の番犬として有名だ。

 地獄から逃げ出そうとする亡者を容赦なく貪り食い、時には自ら地獄に赴いて亡者に罰を与えることもあるという恐ろしい猛犬として知られている。

 二人とも小さい頃から繰り返しその話を聞いていたので、ケルベロスが二人の前にわざわざ来たと聞いて、何をされるかわからないと思い、ビビっているという訳だった。


 もしかしてその凶悪な牙で食い殺されるかもしれない。

 そう想像するだけで、とても気分が落ち着かないのだった。


「「それで、そのケルベロスが何の用でここへ?」」

「無論、罪深きお前たちを食うためにここへ来た」


 ああ、やっぱり!

 自分たちの予想が当たってしまい、二人は震えあがる。


「我の弟に聞いた話だと、お前たちそうとうなことをしてきたようだな」

「「弟?」」

「うむ。弟はオルトロスといって軍神マールス様にお仕えしておる。で、オルトロスの話によると、お前たちかなりの悪行をしでかして人々に非道を働いたそうではないか」


 そう言いながらケルベロスは二人のことをジロリと睨む。

 睨まれた二人は生きた心地がせず、顔を真っ青にさせ、震えあがる。

 そんな二人を無視してケルベロスは話を続ける。


「その上、お前たちは神にも手を出したそうだな。オルトロスのご主人様である軍神マールス様のお嬢様である女神ヴィクトリア様を攫って縛り上げたり、ヴィクトリア様の眷属である狐の子をいじめたりしたそうではないか。マールス様はそのことで大変お怒りで、その件でオルトロスを私の所へ使いとして送ってきたくらいだからな」


 そう言いつつ、ケルベロスは舌を出して、はぁはぁと激しく息をしながら今にも二人に噛みつきそうな雰囲気を醸し出していた。


「それに、ヴィクトリア様もとてもお怒りだぞ。何せオルトロスに我へのお土産としてお手製のお菓子を持たせてくれたくらいだからな。オルトロスによると、『これをあげるので、二人のことはよろしくお願いしますね』と、仰っていたそうだ。ヴィクトリアの様のくださったお菓子は、甘くてとてもおいしかった。甘党の我には非常にうれしい贈り物だった。しかも、これからも時折差し入れをくれると仰っていたらしい。我はこう見えても犬らしくとても律儀な性格なのだ。だから、ヴィクトリア様のご厚意には応えねばならぬと思っておる。ということで、覚悟せよ!」


 そこまで言うと、ケルベロスは二人に噛みついてきた。


「ひいいいい。生きたまま食われるのは嫌だ!」


 デリックの方は生きたまま肉を食いちぎられながら食われた。


「あ、熱い!た、助けてくれ!」


 ルッツの方はケルベロスの炎でじっくりと焼かれてから食われた。

 二人は五分も経たないうちに食いつくされて骨だけになってしまった。


 そうやって食われてしまって骨だけになってしまった二人だが、しばらくするとまた復活する。


「まだまだ~!終わりだと思うなよ!」


 そして再びケルベロスによって食われ始める。

 今度は食い方を逆にしてで、だ。


「「ギャー」」


 二人の断末魔の声がそこら中に響き渡るが、誰も気にしたりしない。

 だってここは地獄なのだ。

 ここでは罪人が悲鳴をあげて泣き叫ぶ光景など日常茶飯事なのだから。


★★★


 結局、ケルベロスの二人へのお仕置きはケルベロスのお腹がいっぱいになるまで続いた。


「今回は腹がいっぱいになったからこの位にしておいてやるが、また腹が減ったら来るからな」


 ケルベロスは最後にそう言うと、二人の元から去っていた。


 後に残った二人には絶望しかなかった。

 これからはこれまでの地獄での処罰に加え、ケルベロスに食われ続ける処罰まで行われることになったのだ。


「「神様、どうか助けてください」」


 藁にも縋る思いの二人はそんなことを言って神に救いを求めたが無駄だった。

 何せ彼らはその神を怒らせてしまったのだから。

 そんな二人を神が助けてくれるわけがなかった。

 だから、彼らには永遠に地獄で苦しむしか道は残っていなかったのだった。


 ということで、これからも二人の地獄での悲惨な日々は続いて行くのだった。

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