第403話~獣人の国の遺跡の最深部へ~
獣人の国の遺跡の第二階層を突破した俺たちは第三階層へと突入した。
第三階層は洞窟エリアとなっていた。
なってはいたが、通常の洞窟エリアとは異なり分岐ルートはなく一本道となっていた。
それを知った俺は、もしかしてそろそろゴールが近いのかな、と思い、期待するのだった。
なぜならダンジョンという場所は途中にたくさん分岐があっても、ゴールが近くなると一本道になる例が多いからだ。
嫁たちやネイアさんも俺と同様のことを考えたようで。
「エリカさん、もう少ししたら帰れそうですね。帰ったら、ワタクシお風呂に入りたいです」
「ええ、そうですね。私も早く帰ってお風呂に入りたい気分です」
「アタシもだね。ここしばらくお風呂に入らず、エリカちゃんの『洗浄』の魔法だけで過ごしてきたから、ね。そうだね。帰ったらみんなでどこかのホテルのお風呂でも借り切って入りたいよね。ネイアちゃんもそう思うでしょう?」
「そうですね。その時には私もお供します」
と、皆が皆、お風呂に入りたそうなことを言っている。
一応俺たちは旅の道具としてバスタブを持ち歩いているのだが、今回の旅にはお父さんが同行している。
だからなのか、皆万が一のことを嫌って誰もお風呂に入らなかったのだ。
代わりにエリカの魔法で体を洗っていたのだが、それではそろそろ我慢できなくなったらしく、そういう発言になったのだと思う。
というか、俺もお風呂に入りたい。
まあ、ここの遺跡をクリアすれば少しは落ち着くだろうからリネットの言うように温泉宿のホテルのお風呂でも借りて入りに行きたいなあと思う。
★★★
そうやって遺跡の奥へ進んで行くと、ついにこの階層の最終地点へと到達した。
なぜ最終地点とわかるかというと、そこにいかにもという扉があったからだ。
ドラゴンの意匠が施された金色の扉だった。
見事な彫刻だな。
俺的にはそう思ったし、これを作ったであろうお父さんにとっても自慢の作品であったらしく、お父さんは誇らしげな顔をしていたのだが、ヴィクトリアの意見は違うらしい。
「このドラゴンの彫刻って、作ったのはお父様ですか?」
「ああ、そうだよ。我が親愛なる娘よ。この彫刻は、ね。お父様が頑張って作った物なのだよ。どうだ素晴らしいだろ?」
「まあ、何と言うか。確かに頑張って作った痕跡の見えるドラゴンさんの彫刻ではあると思うんですが、ワタクシ的には、派手過ぎて、成金趣味で、ちょっとケバいと思うんですよね」
ケバい。
その言葉を聞いてお父さんの顔が曇りつく。
自分では素晴らしい出来だと思っていた自慢の作品が、娘には受けが悪いと知ってショックを受けたのだと思う。
そんなお父さんを見てかわいそうだと思ったのか、うちの嫁たちが慌ててフォローに入る。
「マールス様、そんなに落ち込まないでください。私はこのドラゴン、とてもカッコいいと思いますよ」
「そうですよ。アタシは鍛冶屋の娘で、父親が剣の柄の意匠を掘るところなんかも見てきましたけど、それに比べてもいいと思いますよ」
「その通りです。このドラゴンの目とか愛らしくてとてもかわいいと思いますよ。ヴィクトリアさんもよく見たらそう見えないですか?」
と、ドラゴンの彫刻を必死に褒め、お父さんをなだめつつ、ヴィクトリアにも目配せして、何とかしろと促している。
それを受け、ヴィクトリアも自分がちょっと言い過ぎたのではないかと気がついたらしく、お父さんの頭を優しく撫でながらこう言うのだった。
「そうですね。よく見たら、このドラゴンちゃん、かわいらしいお目目をしてますね。それにこのドラゴンの牙とかも、強そうに見えて良いと思いますよ」
「そ、そうかな」
娘にそうやって褒めてもらって、お父さんが少しだけ立ち直り、ちょっとだけ言葉を発する。
「そうですよ。だからそんな素晴らしい仕事をしたお父様の手にご褒美をあげちゃいます」
そう言いながらお父さんの手にそっとキスをしてあげる。
ヴィクトリアのキスによって完全に立ち直ったのだろう。
お父さんは笑顔を取り戻すと、急に張り切り出した。
「さて、それでは行こうか。ここの扉を進めば封印までもう一息だ」
と、ここがゴールであるとまで教えてくれ始めた。
まあ、ここでお父さんに落ち込まれても話が進まない可能性があったのでこれでよかったと思う。
さて、それでは早速中へ行くとしよう。
★★★
いざ扉を開けて中へ入ろうとすると。
「うん?扉の中から誰かの声がするな」
扉の向こうから人の声が聞こえてきた。
何だろうと思って少しだけ扉を開けて中の様子をうかがってみる。
すると。
「何だ?あいつらは?変な踊り?というか、儀式のようなものをしているようだが」
中で変な集団が儀式のようなものを行っていた。
何か同じような集団を見たことがあるな。
そう思っていると、エリカがこんな指摘をしていた。
「旦那様、あれは神聖同盟の方々ではないですか」
「あっ」
よく考えれば、神聖同盟以外の連中がこんなところに居るわけがなかった。
連中って、なぜかいつも侵入困難なはずの遺跡にいるんだよね。
不思議な話だ。
「一体、連中はどうやって侵入しているんだろうね」
だから、ついその疑問を俺は口に出してしまう。
そうすると、お父さんがその疑問に答えてくれた。
「それはおじい様の、邪神プルトゥーンの加護のおかげだろうね」
「そうなのですか」
「私の母によると、おじい様はとても執念深い所があったらしいからね。だから今でも自己の復活に強い執念を注いでいて、そのために強い加護を神聖同盟とかいう連中に与えているのだと思う。だから、連中は遺跡の試練を半ば無視して辿り着けているのだと思う」
邪神プルトゥーンの加護か。
なるほどそういう事情があって、連中は遺跡へたどり着けていたということか。
お父さんの話はとても説得力があり、今までの疑問が解消したような気がした。
それはともかく、連中の事情がどうあれ、俺たちは俺たちで邪神の復活を阻止しなければならない。
「それでは行くぞ!」
俺たちは自分たちの目的のために扉の中へと入って行くのだった。
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