第402話~ロープの上での決闘~

 獣人の国の遺跡第二階層『風穴の間』。

 そこのとある島で一晩休憩した俺たちは、再び先へと向かって歩き始めた。


 一晩ぐっすり眠ったせいだろうか。とても体が軽い!

 それは嫁たちも同じようで、特に昨日は疲れが酷いように見えたエリカとヴィクトリアなど。


「とても体が爽快ですね。ワタクシ、ちょっと歌を歌いたくなってきました」

「歌ですか。確かに歌いたい気分ですね。聞いていてあげるので歌ってみなさい」

「では……、今日のワタクシは良く寝ていい気分~。今日も元気に過ごせるといいですね~」


 ヴィクトリアが鼻歌を歌っているのをエリカが喜んで聞いているくらいには元気になっていた。


 そんな感じで俺たちは朝から元気に階層を進んで行くのだった。


★★★


 そうやって、この階層を進んで行き、つり橋を十ほど通過した頃。


「あれ、行き止まりですかね」


 ある島へ渡った時、ネイアさんがそう言いながら首をかしげた。

 というのも、その島には先へ行くためのつり橋が見当たらなかったからだ。


 このままでは先へ進めない!

 そう思った俺たちは島中を捜索して隣の島へ渡る方法を模索する。

 すると。


「ホルストさん。ここにロープが一本張ってありますよ」


 ネイアさんが隣の島との間にロープが一本張られているのを発見した。


「どれどれ」


 皆で早速ロープを確認すると、結構しっかりと固定されてあって、このロープを渡って行けば、向こうへと渡って行けそうだった。

 とはいえ、俺たちは曲芸師ではないので、これを渡るのは中々難しいだろう。


「というか、これを渡って行くのですか?ワタクシには無理そうです」


 ヴィクトリア何か露骨に嫌そうな顔をしているし。

 この状況を見てどうしようかと悩んでいると、お父さんが声をかけてきた。


「ようやく次の島へ渡るルートを見つけたまではいいが、どうやって渡ろうか悩んでいるようだな」

「ええ、まあ。どうすればいいですかね」

「何、そんなに心配する必要はない。すぐに正解は向こうからやって来る」


 そう言いながら、お父さんがロープの向こう側を指さす。

 すると、ロープの向こう側からカチャカチャと機械の音のような音が聞こえて来た。

 何だろう、と思って見ていると。


「旦那様、あれはゴーレムではないですか?」


 槍を持った細身の体型のすばしっこそうなゴーレムが現れた。

 俺も確認してみると、目の前のゴーレムらしきものには生命エネルギーが感じられず、体の中心部に核コアらしき魔力が集中している部分があった。間違いなくゴーレムだった。


 というか、こいつがロープの向こう側から現れたということはこいつを倒せってことなのかな?

 俺がそう思っていると、お父さんが俺にこう言って来た。


「さあ、向こうへ行きたくば、一対一でこのゴーレムを倒してみよ。もちろん、魔法など使わずおのれの技量のみ、でな」


★★★


 島を渡るため俺はロープの上でゴーレムと一対一で戦うことになった。

 ということで、俺はロープの上へ立ち愛剣クリーガを抜き、ゴーレムと対峙する。


「頑張ってくださ~い」


 俺の背後からは嫁たちとネイアさんが俺のことを応援する声が聞こえてくる。

 俺はそれに手を振りながら応えると、改めて正面を向いてゴーレムのことを確認する。


 ゴーレムはミスリル製と思われる銀色の槍を持ち、同じく銀色のミスリル製の鎧で核を守っていた。

 最初に見た時に抱いた感想の通り、とても素早そうな体型だった。


 魔法を使えば一発で倒せそうな感じはしたが、それは今回禁止だ。

 自分の剣の技量だけで倒さなければならない。


 さて、どうしようかなと思いつつも、俺はゴーレムと向き合う。

 そして、すぐさま戦いが始まる。


★★★


 俺とゴーレムの一対一の決闘が始まった。


 まず先制攻撃を仕掛けてきたのはゴーレムだった。

 ビュッとロープの上からジャンプしたかと思うと、空中を回転しながら俺に迫って来て。


「……」


 無言で俺に槍を連続で突き入れてくる。

 基本に忠実でとても良い動きだと思う。

 しかも、こいつの突きはかなり鋭く。


「うお?」


 俺が一瞬戸惑うくらいには強力な攻撃だった。

 その上、こいつはゴーレムらしく疲れ知らずで、普通の人間ならばこれだけの攻撃をすればそのうち疲れてきて動きが鈍くなるタイミングが必ずあるものだが、こいつにはそれがない。


「…………」


 延々と突きを繰り返してくる。

 これは厄介だなと思いつつも俺は反撃の一手を考える。


★★★


 俺はゴーレムの動きを見つつ反撃の手段を考える。


 まず、こいつの動きはとても掴みにくい。

 というのも、こいつってゴーレムだから生命エネルギーの反応がないから、普段生命エネルギーの動きを感知して相手の動きを読むことに慣れている俺的にはちょっと戦いにくい感じはする。

 逆にゴーレムであるがゆえに魔力を使って動いているので、その流れを魔力感知で探れば何とかなりそうな気もする。


 なので、魔力感知でゴーレムの動きを探ってみると。


 う~ん。何と言うか、こいつの動きって一見多彩に見えて捉えどころがないように見えるけど、一定のパターンがあるんだな。


 ゴーレムの素早い動きの中にも一定のパターンというものが見えてきた。

 まあ、いくら凄くても所詮は機械人形ということなのだろう。

 作った奴の命令通りにしか動けないのだろう。


 ということで、その点を足掛かりにさせてもらうことにする。

 俺はしばらくゴーレムの攻撃を受け続け機会をうかがう。

 そして、上段からの攻撃が来た時、俺は動く。


「今だ!」


 俺のパターン分析によると、上段から攻撃を仕掛けてくる時、こいつは足元に一瞬隙が生まれるのだ。

 そこに強烈な蹴りを食らわしていく。


「……」


 俺の生命エネルギーのこもった蹴りをもろに食らったゴーレムは無言でのけ反ると、完璧に体勢を崩してしまう。

 この好機を俺は逃さない。


「チェスト~」


 剣をゴーレムの弱点である核へと向けて一気に突き刺す。

 ピキ、ピキと、大きな音を立てながら、俺に剣を突き立てられた格が粉々に割れる。


「……」


 それと同時に悲鳴をあげることもなくゴーレムは動かなくなり、フラッとよろめいたかと思うと、そのまま穴の底へと落ちて行った。


「これで試練をまた一つクリアかな」


 こうして俺はゴーレムに勝利したのだった。


★★★


 ゴーレムを倒した後、ロープから降りて皆の所へ戻る。


「さすがです!」


 すると、皆が近寄って来て褒めてくれる。

 俺的には嫁たちに褒めてもらえるとすごく嬉しいので、ニコニコと笑う。


「やりますね」


 もちろん神獣たちも褒めてくれたし。


「やるではないか」


 と、お父さんも褒めてくれた。


 そうやっているうちに俺の背後でドンという音がする。

 何だろうと思って振り向いて見てみると。


「お!つり橋が出てきたな」


 いつの間にか次の島へ渡るためのつり橋が現れていた。


「これで先へ行けるな」


 そして、俺たちは再び先へと進み始めるのだった。


★★★


 結局、ゴーレムを倒した後十か所ほど島を通過するとゴールへとたどり着いた。

 最後の島には次の階層へ行くための下り階段があった。


「さて、それでは降りるぞ」


 階段を見つけた俺たちは早速下へと降りて行く。

 ここの遺跡に入ってからすでに一日以上は経過していると思う。


 次の階層くらいで終わりだといいな。

 階段を降りながら、俺はそんなことを願うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る