第401話~獣人の国の封印の遺跡 第二階層 風穴の間~

 獣人の国の遺跡の第二階層は穴だらけの階層だった。

 正確に言えば、階層中が穴で、その中に小さな島がポツリポツリとあり、それが木製のつり橋で繋がっているという構造だった。


 ……って、こんな構造の場所、前にどこかで見たことがあるような気がする。

 うーん、どこだったんだろう、と思い出してみる。

 すると、そう言えば『記憶の遺跡』でこんなことがあったな、と思い出す。

 あそこでも小さな島を渡り歩いて先へと進んでいた。


 よく考えると、あそこの遺跡って各地の封印の洞窟を攻略するための予行演習だったのかなと思う。

 ドワーフの洞窟の地底湖を模したような場所もあったし、今回の場所もそうだ。

 あそこの遺跡を用意したのはヴィクトリアのおばあさんの女神アリスタ様だったから、そういう事も考えて造った可能性は大いにあると思う。

 そう考えると、ヴィクトリアのおばあさんって優しい女神様だったんだなと思う。


 と、そんなことを考えながら俺たちはどんどん先へ進んで行った。


★★★


 ところで、今ここは『希望の遺跡』の某階層に似ていると言ったが、少し訂正させてもらう。

 確かに両者は似ていると思うが、一か所だけ決定的に異なる点がある。

 それは……。


「ここって、広すぎじゃないですか?」


 そうヴィクトリアがぼやく通り、ここのフロアって滅茶苦茶広いのだ。

 ここのエリアに来てからすでに二十ほどのつり橋を渡って移動しているのだが、まだ終わりが見える気配すらなかった。


 もしかして、また無限ループ?

 そう思ったが俺がヴィクトリアを使ってお父さんに確認してみると。


「可愛い我が娘よ。お父様は何度も同じ試練を課すほど試練のアイデアに困ったりしていないぞ。ここは『風穴の間』と呼ばれるエリアでな、一本道を順当に進んで行くだけのエリアなのだよ。だからここに無限ループなどはなく、単純に広いだけだぞ」


 と、言っていたので別に無限ループではないらしかった。


 正直ホッとした。

 無限ループではないのなら、道を進めばこの階層を突破できるだろうから。


 とはいえ、この階層に来て大分歩いたので疲れてきた。

 それに第一階層でも無限ループを結構歩かされたので、そっちの方でも疲れている。

 体力的に俺やリネット、ネイアさんに劣るエリカとヴィクトリアなど。


「「もういい時間ですし、少し休みませんか」」


 と、言い出し始めていた。


 ということで、どこかの島で一晩明かそうという話になった。

 そして、しばらく進むと結構広い島を見つけた。

 多分ちょっとした町くらいの大きさはあると思う。


 ここならばゆっくり休めるな。

 そう思った俺たちはここでやすことにした。


 だが、ここで休むには一つ問題があった。


「ホルスト君、この島、そこら中から魔物の気配がするね」


 リネットの言う通り、島に入ると同時にそこかしこから魔物の気配を感じたのだった。

 一応俺たちは結界石を持っているので、それを使えば魔物の攻撃などなんともないとは思うが、強力な魔物がまぎれていた場合、結界石が破られる可能性もあった。


「仕方がない。休む前に一仕事して、魔物を退治しておくか」


 ということで、俺たちは寝る前に魔物退治をすることにしたのだった。


★★★


「それじゃあ、ちょっくら行ってくる」

「行ってらっしゃい。気を付けてくださいね」


 魔物退治ということで、俺とエリカ、ネイアさんの三人で出かける。

 リネットとヴィクトリアは二人で宿営地の準備をしながら、待機だ。

 二人とも防御能力に長けているので、宿営地の防衛を任せておいても大丈夫だと思う。

 それにお父さんや神獣たちも一緒にいるので、魔物が宿営地をどうこうできるとは思えないしね。


 なので、俺たち三人は後顧の憂いなく魔物退治に出掛けられたのだった。

 ここには虫系の魔物が多かった。

 ビッグスパイダーやデスビーなど、蜘蛛や蜂の魔物中心に出てきた。

 その強さも外に出てくる同種の魔物よりも相対的に強い感じだ。


 だが、所詮は俺たちの敵ではない。


「えい!」

「ふん!」

「『火球』」


 俺とネイアさんの攻撃、それにエリカの魔法で魔物たちが次々と倒れて行く。

 これは楽勝で島の魔物を掃討できるかな?

 魔物たちがあっさりと倒れて行くものだから、俺はそう思ったものだったが、ここで連中のボスが現れた。


「旦那様。あれはデススコーピオンですよ」


 突然茂みの中からデススコーピオンが現れた。

 デススコーピオンは巨大なサソリの魔物だ。

 以前に『希望の遺跡』でもエリアのボスとして戦った気がする。


 こいつには苦い思い出がある。

 あの時倒すことは倒せたのだが、その後油断したせいで、リネットと二人で穴の底へと道連れで落とされてしまったことがあったのだ。


 しかも今回出てきたのはあの時のデススコーピオンよりもでかい気がする。

 正直あまり戦いたくない相手ではあったが、あの時よりも俺たちは強くなっているし、今度こそは絶対に油断する気は無いからな!


 ということで、デススコーピオンに戦いを挑んでいくわけだが、前回のこともあり、俺は最初から本気で臨んだ。


「『神強化』」


 魔法で身体能力を向上させるなり。


「『究極十字斬』」


 デススコーピオン目掛けて必殺剣を放つ。


「ピギャッ」


 すると、デススコーピオンは短い悲鳴を残して全身バラバラに切断される。


「『極大化 天火』」


 そしてトドメの一撃に魔法を放つ。

 あの時よりもはるかに強化された俺の魔法は、ゴーというすさまじい勢いでデススコーピオンのバラバラになった体を燃やしていき、五分後。


「どうやら、終わったようだな」


 デススコーピオンを燃えカス一つ残さず焼き尽くしてしまった。

 ちょっとやり過ぎな気もしたが、この位やっておけば俺の中にあるデススコーピオンへの苦手意識というか、恨みというか、そういう負の感情が清算できた気がしたので、これでよかったのだと思う。


 デススコーピオンを倒した後も俺たちの魔物掃討戦は続き、一時間もかからずに島の中から魔物の気配を消滅させることに成功し、意気揚々とした気持ちで、宿営地に戻るのだった。


★★★


 宿営地に戻ると、すでにリネットとヴィクトリアの手によってテントが張られており、食事も出来上がっている状況だった。


「おかえりなさい」


 居残ったみんながそうやってお帰りなさいの挨拶をしてくれた後、食事タイムに入る。


「いただきます」


 今日のメニューは具たくさんの温かいスープと、焼き立てのピザだった。

 とても熱々で、戦いで疲れている体を癒すのにピッタリの料理だった。


「ごちそうさまでした」


 食事を終えた後は明日に備えてすぐに就寝する。


 いつもなら俺は嫁たちと同じテントで寝るのだが、今回の旅に限っては一人で寝ている。

 まあ、今回の旅にはヴィクトリアのお父さんや神獣たちもいるからな。

 夜あまりうるさくするわけにはいかなかった。

 嫁がいないのは少し寂しかったが、嫁とイチャイチャしなかった分体力が温存でき、ゆっくり休めた気がした。


 さて、これで風穴の間も半分くらいはクリアできたと思うし、明日こそはクリアしてしまおう。

 そう思いながら俺は寝るのだった。

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