第400話~無限ループを突破せよ!

 先ほどから同じところをグルグルと回っているような感覚を覚えた俺は、目の前にある扉を調べてみることにした。

 というのも、この扉、何度か見たような気がするからだ。


「リネット、あの扉、調べてみたいので、手伝ってくれないか」

「うん、いいよ」


 リネットを誘って、二人で扉の確認を始める。

 すると。


「あれ?この桜の模様と扉の隅っこの傷。入口の扉にあったやつと同じだよね」

「やはりリネットもそう思うか」


 俺とリネットの意見が一致したところで、エリカとヴィクトリア、ネイアさんが寄って来て一緒に確認する。


「あら、確かにこれは入り口の所の扉と一緒に見えますね」

「本当ですね。もしやワタクシたちは先ほどから同じところをグルグルと回っているだけなのでは。ということは、もしかして、これは……」

「噂に聞く『無限ループ』という高難易度のダンジョンにあるというトラップではないでしょうか」


 結局、ここは無限ループであるということで全員の意見が一致する。

 と、ここでお父さんがこんな発言をし始める。


「ふふふ、ようやく気がついたようだな。ここの遺跡の一階層は無限ループになっている。お前たちは果たしてここを突破できるかな?」


★★★


 獣人の国の遺跡の第一階層は無限ループになっている。

 それに気がつき、お父さんからも言質を取った俺たちはどうしようかと悩んだ。

 というか、何かヴィクトリアがお父さんに対して怒り始めている。


「まあ、お父様はここが無限ループだと始めから知っていらしたのですね。なぜそんな重要なことを教えて下さらなかったのですか!」

「可愛い娘よ。これは仕方がないことなんだ。無限ループのことに気がつき、無間ループを突破するというのがここの試練なのだ。だから無限ループの存在を私の口から言うことはできないし、その突破の仕方を教えることはできないんだよ」

「うう」


 お父さんの説明を聞いたヴィクトリアが黙り込む。

 まあ、この無限ループが試練の一つだというのならお父さんの言い分も当然のことだからな。


 それはともかく、ここが無限ループだと判明した以上、頑張って突破して行こうと思う。


★★★


 第一階層が無限ループだと知った俺たちは、今度はエリカの探知魔法とヴィクトリアの精霊で通路の中を探索しながら進んで行く。

 だが。


「う~ん。私の魔法には何も引っかからないですね」

「ワタクシが召喚した精霊たちも何も発見できないみたいです」


 と、二人がぼやく通り魔法や精霊たちではめぼしいものを発見することができなかった。


「あ、また桜の扉だ。ということは入り口にまた戻ってきたわけか」


 そうこうしているうちにまた入り口の桜の扉が見えてきた。

 これで今の探索では何も発見できなかったことになる。


 ということで、今度は探索方法を変えてみることにする。


「リネットにネイアさん、どう?何か見つかった?」

「ううん、何もないみたいだね」

「私の方も何も見つかりません」


 目視で丹念に壁や床を調べながら歩くが、結果は成果無しだった。

 そうやって二回目もむなしく過ぎてまた入り口の扉へとたどり着く。


「そろそろお腹が空いてきましたね。ここでご飯にしませんか?」


 と、ここでヴィクトリアがそんなことを言い始めたので昼食を取ることにする。

 確かに遺跡に入ってからすでに何周も同じところを回らされて疲れたし、お腹も空いてきた。

 ここはご飯でも食べて、少し落ち着いてから探索方法を見直してみるのもありだと思う。


★★★


 昼ご飯はおにぎりだった。

 エリカが前にフソウ皇国で大量に買った料理本に書かれていた炊き込みご飯をおにぎりにしたものだった。

 ちょっと甘めの味付けがしていて、鶏肉や野菜などの具もたっぷり入っていてとてもおいしかった。


「これはとてもおいしですね」


 うちの女性陣にも好評だし、お父さんや神獣たちも。


「これは味が濃くておいしいですね」


 とても喜んでいた。

 そうやって、皆が食事を楽しんでいる中、俺は一人考えていた。


 通路をできる限りの方法で探してみたけど何も出なかったな。

 ということは、通路には何もないか、あってもとても見つけにくかったりする仕掛けが仕込まれていたりするのかな。

 あるいは、まだ調べていない場所があるとか……うーん、わからないな。


 そうやって食事をしながら色々と考えていた。

 すると、ふとした瞬間に桜柄の入り口の扉が視界に入った。

 それを見た瞬間、俺の中に妙に確信めいたものがわいてきた。


「そうだ!扉だ!扉をまだじっくりと調べてなかったな!」


 気がついたらそんなことを叫んでいた。


★★★


 ということで、食事をした後、早速扉を調べてみることにする。


「今度は皆で扉を丹念に調べてみよう」

「「「「はい」」」」


 俺と嫁たち、それにネイアさんの五人でもう一度扉を調べてみる。

 しかし。


「う~ん、この桜の模様とか、特に怪しい所は見当たらないですね」

「この隅っこの傷も特に何もなさそうですね」


 特に何もないようだった。

 これもハズレだったかと俺は思ったが、ここでふと思いついたことがあった。


「そうだ!扉の裏だ。扉の裏をまだ調べていない」


 そうだった。扉の表側は何度も見たが、裏側は全然確認していなかった。

 なので扉の裏側を調べてみると。


「旦那様、ここに何か文字が書かれていますよ」


 エリカが扉の裏側に何か文字が書かれているのを発見した。

 俺もそれをじっくりと見てみると。


「これは神代文字じゃないか?」


 神代文字で書かれた文章だった。

 となれば、ここはヴィクトリアの出番だ。


「ヴィクトリア、読んでくれ」

「ラジャーです」


★★★


 桜の模様が描かれた入り口の扉の裏側に神代文字で書かれた文章を発見した。

 ということで、早速ヴィクトリアに読んでもらうと。


「”The beginning and the end are the same."『始まりと終わりは同じなり』。"Show the power of God."『神の力を示せ』。"If you do, the road will be opened."『さすれば、道は開かれん』。って書いていますね」


 始まりと終わりが同じ?

 うむ、よく分からんが、要は俺がここで神属性魔法を使えば先へ進めるということだな。

 ということで、全員を扉の裏側の前へと移動させてから魔法を発動させる。


「『天火』」


 弱めの威力の『天火』の魔法が扉の裏側に着弾する。

 すると。


「おっ。何か急に扉が閉まって、扉が金色に輝き始めたぞ!」


 扉がバタンとしまったかと思うと、黄金色に輝き始めたのだった。

 そして、その様子を見守っていると。


「今度は扉が自動的に開いたぞ!」


 入り口の扉が勝手に開いたのだった。

 それで、扉日の向こう側の様子を確認してみると。


「ホルストさん、階段がありますね」


 下の階層に降りるための階段がそこにはあった。

 この様子を見てお父さんが声をかけてくれる。


「ようやく正解のルートを見つけたようだな。少し時間はかかったが、とりあえず合格のようだな」


 そうやってお父さんが褒めてくれたということは、この無限ループの試練はクリアということなのだろう。


「さて、それでは次へ行くぞ!」


 ということで、俺たちは次の階層へと降りて行くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る