第398話~お花見の後は古代遺跡の中へ~

 一本桜にようやく辿り着いた。

 すると、俺が森から出てきたのを見つけたヴィクトリアが俺を手招きする。


「ホルストさ~ん。こっちですよ」


 そうやって大きく手を振りながら俺のことを呼んでいる。

 ということで、ヴィクトリアたちの方へ近づいて行くと。


「さあ、旦那様、用意はできていますよ」


 エリカが俺に座るように促してきた。

 見ると、桜の木の下にはすでに敷物が敷かれており、敷物の上にはなぜか飲み物や食べ物が置かれていた。

 そこへ俺を座らせると、「どうぞ」と、リネットがお酒を渡してきた。


 やっと遺跡の入り口まで辿り着いたというのに何だろうと思っていると。


「今から、お花見を開催するのですよ」


 と、ヴィクトリアが説明してきた。


「お花見?」

「ええ、別の世界ではこんな風に春に桜の木の下でお酒を飲んだり、食べ物を食べながら桜を見て楽しむ習慣があるのですよ」

「そうなのか?」

「そうなんです。とても風流な風習でしょ?」


 風流か。

 まあ、きれいな花を見ながら酒食を楽しむ。

 風流といえば風流な風習なのかもしれないが、俺たちは別に桜を見にここへ来たのではない。


「まあ、花見とやらをするのはいいんだけど、遺跡の方はどうするんだ?」

「お父様の話によると、遺跡の入り口は朝にならないと開くことはできないそうですよ。ということで、今日は花見でもしながらのんびりして、夜はじっくりと寝て、それで明日に備えましょうという話になったんですよ」

「朝にならないと行けないのか?」

「はい。それにホルストさんも森を抜けてきてお疲れでしょう。だから夜までのんびりして疲れを取りましょうよ」


 ふーん、朝にならないと遺跡には行けないのか。

 それにこの花見は俺の疲れを取るたっめのものでもあるという。

 ならば仕方がないな。


 嫁たちが折角用意してくれたようだし、それまでの間、お花見とやらを楽しむとしよう。


★★★


「旦那様、どうぞ」

「ホッルスットさ~ん、どうぞ」

「ホルスト君、どんどん飲んでね」

「ホルストさん、私もお注ぎしますね」


 お花見が始まると、嫁たち三人にネイアさんが代わる代わるお酌をしてくれた。


 なぜネイアさんまで?

 そう思ったが、嫁たちが妙にアルコール度数の高いお酒を飲ませてきて、すぐに俺が酔い始めて思考が鈍くなってしまったので、「まあ、いいか」と思ってしまった。

 後で考えると、これも既成事実を作るという嫁たちの策略だったのだが、今の俺にはそんなことはわからなかった。


 一方のヴィクトリアのお父さんはというと。


「ささ、お父様もどんどんお飲みください」

「うむ。……やっぱりヴィクトリアが注いでくれるお酒はおいしいなあ」


 ヴィクトリアに大量のお酒を飲ませてもらって悦に浸っていた。

 というか、俺の倍くらいの量を一気に飲んでいるけど、大丈夫なのか?

 ちなみにヴィクトリアに後でなんであんなに飲ませていたのかと聞くと。


「相手するのが面倒くさかったので、酔い潰して黙らせようとしました」


 とか、言っていた。


 お父さん、あなたの娘さん相当な策謀家ですよ。

 そう教えてあげたくなったが、ヴィクトリアにばれると怖いので止めておいた。


 それと神獣たちは神獣たちで、仲良く飲んでいた。


「オルトロス殿に、ネズ吉殿。私がお注ぎしますので、どんどん飲んでくださいね」

「これはどうも」

「かたじけない」

「白狐どの。干しイカが焼けましたので、どうぞ」

「ありがとうございます」


 そんな感じで和気あいあいと楽しそうに飲んでいた。

 こっちはこっちで楽しそうでいいなと思った。


★★★


 そんな風に楽しく飲んでいると。


「おい、飲んでいるか?」


 と、急にお父さんに話しかけられた。


 あれ?お父さん、ヴィクトリアに酔い潰されて横になっていたのにどうしたのだろうと思ったが、よく見ると目が座っている。

 それを見て、これは完全に酔っぱらっている人の目だなと思った。

 そんな状態でも俺に話しかけてきたのは、何かの拍子に急に意識が覚醒して、その時に俺が視界の中にいたからだと思う。


 とはいえ、お父さんに話しかけられて無視するわけにはいかない。

 ただ俺も結構酔っていて、判断力が鈍っているせいでまともに会話をする自信はない。なので、当たり障りのない返事をする。


「ええ、飲んでますよ」

「それは何よりだ。ところで、お前、ヴィクトリアのどこが気に入ったのだ?」

「そうですね。まあ、色々ありますが、一番良いのは俺に対して一生懸命にやろうとしてくれるところですかね」

「一生懸命に……か。そうだな。あの子にはそういう所があるな。それが気に入ったということが??」

「ええ、気に入りましたよ。そういうひたむきなことをしてくれる女の子って、可愛いと思いませんか?」

「そうだな。私の娘は最高にかわいいからな。今日だって、私にお酒を注いでくれる時はとてもかわいらしかったぞ。それを見ていて私は思ったのだ」

「何をですか?」

「娘にお酌してもらえて、とてもうれしかった。これだけでも、一本桜を試練にしておいてよかった」


 と、そこまで言ったところでお父さんはまた意識を失い、横になると、グーグー眠ってしまった。


 というか、娘と花見をしたかったから、お父さん、一本桜を試練にしておいたのですか?

 いや、さすがにそれはないかな。

 この遺跡はずっと昔に造られたものだし、いくら神様でもそこまでの展開を予想するのでは難しいと思う。

 でも、お父さんなら……わからないな。


 まあ、いいや。お父さんもヴィクトリアにお花見でお酌してもらえてうれしかったようだし、俺も楽しめたから、結果オーライということにしておこう。


★★★


 そして、翌朝、太陽が昇る少し前。


「我が名はオルトロス。一本桜よ、我が声に応えて、遺跡への道を開きたまえ!」


 オルトロスが一本桜の前へ立ち、そう呪文を唱える。


 現在のオルトロスは本来の姿に近い姿になっている。

 体色こそ神獣らしく白色であるものの普段一つしかない首が二つに増えている。

 ここでの儀式を行う際にはこの姿である必要があるらしく、今この姿でいるという訳だ。


 聞く話によると、こちらの方がオルトロス本来の形態のようで、冥府ではこの姿で逃亡を図る罪人共を焼いたりしていたらしかった。

 結構恐ろしい話ではあるが、ヴィクトリアにしてみれば。


「首が二本あるオルトロスちゃん。とてもカッコいいですね」


 と、妙に喜んでいたので、実はそれほど怖いことではないのかもしれない。


 オルトロスのお祈りが終わると、一本桜が黄金色に輝き始め、一本桜の足元の地面に穴が開き、下へと降りる階段が出現する。

 どうやらこれが遺跡への入り口らしかった。


「さて、それでは遺跡へ乗り込むとするか」


 こうして遺跡への入り口へ俺たちは入って行くのだった。

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