第397話~獣人の国の遺跡最初の試練 一本桜に辿り着け!~

 二週間ほどの旅で目的地に到着した。

 目的地はロッキード山脈のとある山の頂で、とても眺めの良い場所だ。


「うん、ここからの眺めは最高ですね。ワタクシ、とても気分が良いです」

「本当、爽快だね」

「もう大分暖かくなり、木々にも葉が生えて来ていて、すっかり春らしくなってきましたね」

「ここまで頑張って来た甲斐がありました」


 嫁たちとネイアさんはそうやって景色を眺めて楽しんでいる。

 確かに嫁さんたちの言う通り、ここから見える景色は木だらけで見ていて心が洗われたような気になり、とても良いと思う。


 ただ、俺たちは別に木を見に来たのではない。

 別の目的がある。


「お?あれだな」


 嫁たちが景色を楽しんでいる横で、お父さんが森の一点を指し示す。

 すると、そこには。


「ああ、何かあそこに桜の木が一本生えているな」


 一本の見事に咲いた桜の木があった。

 そして、それこそが問題の『一本桜』であった。


★★★


「それでは、早速だがお前に最初の試練を与える」


 山の上から一本桜を見つけたお父さんは、俺の目の前に立つとそんなことを言い始めた。


「試練ですか?」

「そうだ。お前がヴィクトリアにふさわしいかを見極めるための試練だ」


 お父さんはズバリとそう言って来た。

 その言葉を聞いて妙に緊張した俺は、思わずゴクリと唾を呑み込む。


「それで、試練とはどのようなことなのですか?」

「簡単なことだ。お前一人で一本桜までたどり着いてみろ!」


 『一本桜までたどり着け!』。それがお父さんの言う試練だった。


★★★


「それじゃあ、私は魔法で先に一本桜の所へ行っているからな。ちゃんと、追いついて来いよ」


 俺に『一本桜へたどり着け!』という試練を与えてきたお父さんは、そう言い残すと『空間操作』の魔法でみんなを連れて先に一本桜へと行ってしまった。

 後に残されたのは俺一人である。


「しょうがないな。それでは行くとしますか」


 こうして俺は一人で一本杉へと向かうことになったのであった。


★★★


 森の中は霧だらけだった。

 しかもこの霧は突然出てきたのだった。

 俺が森の中へ入るまでは霧など一切出ていなかったのだが、俺が森の中へ入った途端。


「急に霧が出てきたな」


 そうやって急に霧が出てきたのだった。

 霧に包まれた森の視界は最悪だった。


「これじゃあ、何もわからないな」


 『一寸先は闇』。その言葉がまさにピッタリの状況だった。

 まるで森が俺が入ってくるのを拒んでいるような感じだ。


 この森自体がお父さんの試練だというのなら、この霧の発生にもお父さんの力が関わっている可能性が高い。

 となると、この霧自体に神の力が作用しているということになる。

 そう考えると、この試練かなり突破は難しい気がする。


 ただ、こんな最悪の状況でも何とかしなければならなかった。


「さて、どうしようかな」


 そうやって悩んでいた俺だが、一つ良い話を思い出す。

 前にヴィクトリアから聞いた話だが。


「港町何かではよく朝に霧がかかっていることがあるんです。その光景って港町らしくてとても素敵なんです」

「へえ、そうなんだ」

「でも、素敵は素敵なんですけど、霧が出たままでは港町の人たちも船が出せなくて困っちゃう話でもあるんですよね」

「まあ、それはそうだな。で、そういう場合、港町の人はどうするんだ?」

「風が吹いてくるのを待ちますね。風が吹けばすぐに霧が晴れますので」


 そうか。風か!風で霧が晴れるのか!


 ということで、俺は魔法の準備をする。


★★★


「『神化 天風』」


 俺は森を覆っている霧を吹き飛ばすべき魔法を行使する。

 『神化』まで使用したのは、この霧にお父さんの神の力が作用している可能性があるのだとしたら、こちらも神気を使う必要があるなと感じたからだ。


 それで、結果的に俺の思惑はうまく行った。


「おお、霧が晴れて行く!」


 風が吹くと同時に霧が風で吹き飛ばされて行き、視界がはっきりとしてくる。

 この分だと前に進めそうだ。

 ということで、早速前へ進もうとするが、ここであることに気がつく。


「あれ?一本桜って、どっちだ?」


 霧が出ていた影響で肝心の一本桜の位置が分からなくなってしまったのだった。

 さて、どうしようか。

 再び俺はどうしようかと思った。スタート地点の山の上まで戻れば一は確認できるが、それは面倒そうで嫌だった。


「あ!良いことを思いついた!『天土』」


 良いアイデアを思いついたので、俺h魔法で一本の鉄の棒をその場に作り出す。

 そして、その棒を登って上のほうまで行く。すると。


「あ、あそこだな」


 鉄の棒の上からは、桜の位置がはっきりと確認できたのだった。

 この分なら、何とか桜まで辿り着けそうな感じだった。


「さて、行くか」


 俺は桜へ向けて歩みを再開した。


★★★


 ここの森の中を進むのは結構骨が折れる作業だった。

 まだ春になるかならないかぐらいの季節のはずなのに、森の中は草で覆われていてそれを排除しながら進むのが面倒くさかった。


 いっそのこと空を飛んで一本桜まで行けばよいのでは?

 そうも思ったが止めておいた。


 ヴィクトリアのお父さんのことだ。

 そんなことをすれば、「ズルした」「逃げた」とか、文句を言い出しそうだったからだ。


 うっそうとした森を進んでいると、たまに方向感覚がずれて場所が分からなくなることがあったが、その度に例のごとく鉄の棒を作り出して場所を確認しながら進んだ。

 そんな感じで一時間ほど森の中を進んで行くと。


「お。あれはエリカたちだな」


 ようやく森を抜け、エリカたちが一本桜の下で休憩しているのを発見した。


 これで試練を一つクリアしたかな?

 そう思いながら、俺は一本桜へと向かって行くのだった。

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