第395話~その頃の神聖同盟 神の復活まであと一匹~

 ホルストたちがロッキード山脈の遺跡に向かっている頃。


 某国某建物。

 神聖同盟の本部であるこの建物では盟主が部下から報告を受け取っていた。


「盟主様、ご報告があります」

「何だ。そんなに慌てて。何かあったのか?」

「は!それが獣人の国で我が神聖同盟のために資金稼ぎをしていた窃盗団が壊滅いたしました」

「何だと!」


 部下の報告を受けた盟主は机をドンドンと叩きながら部下のことを睨みつける。

 盟主に睨まれてしまった部下はそれだけで盟主の怒りの大きさを感じ背中に冷たいものが流れる感触を覚えるが、ここで説明を止めたりはしなかった。

 なぜなら、ここで説明を止めたら盟主が余計怒るだけなのを知っているからである。


 ということで、部下は説明を続けた。


「詳細をご報告します。先日、ロッキード山脈の地中に築いていた窃盗団の要塞が獣人国の警備隊に急襲され、陥落いたしました」

「あの堅牢な要塞が陥落してしまったのか。獣人の国はそんなに大軍を要塞攻略のために送り込んで来たのか?」

「それが報告によると、たった五千人程だったみたいです」

「何?たった五千?その程度の人数であの要塞が落ちたりしたのか?」

「それが、獣人の国は強力な冒険者を雇って要塞に攻撃を仕掛けたようです。件の冒険者の攻撃はとても強力だったようで、なすすべもなく要塞は落ちてしまったようです」

「そんなに強力な冒険者だったのか。それはどんな連中なのだ?」

「それが全く正体がつかめていません。我が組織の者がそいつらのことを探ろうとすると必ず邪魔が入り、諜報員が行方不明になるそうです」

「諜報員が行方不明に?それはどこかで聞いたことがある話だな。もしかして、その連中、4魔獣を倒した連中と同じなのではないか?」


 盟主の問いかけに対して、部下は大きく頷く。


「私もその通りだと思います」

「そうか。やはり新しい神々の加護をもらった連中か。本当に忌々しい連中め!まあ、事情は大体理解した。それで、要塞が落ちたのは理解したが、遺跡の方の進行状況はどうなのだ?」

「はっ!そちらの方の準備は着々と進んでおります。すでに地下にある遺跡の位置は特定しており、侵入の手はずを整えております」

「それは何よりだ。窃盗団の連中にも遺跡の件を手伝わせていたから、計画に支障が出るのではないかと思ったが、影響がないようでよかった」


 窃盗団の壊滅が遺跡での計画に影響がないとわかると、盟主の顔が安堵の色に包まれる。

 どうやら盟主にとっては窃盗団のことよりも、遺跡の件の方が重要な案件だったようだ。


「それともう一つ報告があります」

「報告?何だ?」

「実は窃盗団には神聖同盟の者も参加していました。それで、その者は今回の襲撃から何とか逃げだしたのですが、その者は見たらしいです」

「見た?何をだ?」

「窃盗団の首領が我々が与えた例の注射を使用するところを」

「何?あの注射を使ったのか?それで結果は?」

「首領は見事人の姿から四魔獣の合成魔獣に変身したそうです」

「おお、成功したのか。それは朗報だな。3匹の魔獣で成功したとなれば、もう一つの因子である残りの魔獣の細胞を手に入れれば、計画は成功するだろう」

「はい、まさにその通りだと思います」


 例の注射の実験が成功したと聞いて、盟主は満面の笑みになる。

 そして、機嫌よく部下に命じる。


「よし!そうとなれば、引き続き遺跡の件を頑張るがよい。期待しておるぞ」

「はは!必ずや成し遂げて見せます」


 最後にそれだけ言うと部下は盟主の部屋から退出して行った。

 後に残ったのは実験成功の報に笑いが止まらない盟主だけであった。


★★★


 部下が去ってしばらく時間が経過した後も、盟主は相変わらず満面の笑みを浮かべて笑い続けていた。

 そして、笑いながらブツブツとこんな独り言をつぶやくのだった。


「もうすぐだ。もうすぐ我は蘇ることができる!後一匹、あいつの細胞さえあれば、我は現世へと復帰することができる」


 そう呟く盟主の目は赤く怪しく光っており、とても人間のそれではなかった。


 果たしてこれから先一体どうなって行くのか。

 それは天界の神々でさえも知ることができないことであった。

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